第4話
東北の長い冬が終わる。
天気予報に雪マークが出なくなり、車のスタッドレスタイヤを夏用のタイヤに交換した時、季節が完全に冬から春に変わったような気がする。
六月になり、僕は結婚した。相手は六年程つきあっていた恋人だ。彼女が三十代になったのをきっかけに入籍した。
書類上の手続きがあるので会社と上司には報告したが、プライベートを話すのはあまり得意ではないので、職場で仲の良い社員だけに報告した。一瞬、椎名さんにも報告しようと思ったが、僕の私生活の報告など椎名さんにあまり関係無いと思い踏みとどまった。
ある日職場で、椎名さんが誰かと話していた。相手は確か隣の課にいる若い男だった。長身で、中々のイケメンだ。知り合いなのか、と思い通り過ぎようと思ったら椎名さんがこちらに向かってきた。
笑顔で結婚おめでとうと云われた。誰から聞いたのかはお互い云わなかった。
僕は自分から報告しなかった事に気が引けたのか、それとも結婚にあまり触れられたくなかったのか、話題をすぐに逸らした。
「さっき話してた男の人、知り合いだったの?」
椎名さんはほんの少しだけ意表をつかれた表情を見せて、ちょっとだけ作り物の笑顔になり、そうなの、と云った。
さっきの人とはライブハウスで知り合ったらしい。その後は仕事の話になり、いつもの表情に戻っていた。
○
「運命だね」そんな台詞を真顔で椎名さんは発言する。
相手が男でも女でも、上司でも後輩でも彼女の発言内容は変わらない。
自由過ぎるように見えるのだろうか、彼女の事を『男慣れしている』などと陰口をたたく奴がいる。
男慣れ、というか彼女は誰に対しても同じ態度をとるのだ。同性への嫉妬の、なんと醜いことよ。
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