第8話 どうやら俺はモテるらしい

俺は今、女の子に囲まれている。


「ねえ、松本君、吹奏楽やらない?」

「松本くん!バレー部のマネージャーやらない?」

「修史くん!陸上部入らない?」

「「松本くん!!」」


どういうことだろうか。

朝、学校のすぐ前に来た瞬間からひっきりなしに勧誘されているのだが。

一人ずつ断るのは無理なので、ごめんなさいと言いながら早足で下駄箱へ向かう。


「い、いつの間に!?」


逃げてきたはずが、俺の学生鞄のチャックが開けられ、色々な部活のビラが入れられていた。

…スリかよ!逆スリだ!


少し唖然としながら、下駄箱をあけると中から大量のハートのシールの付いた手紙が落ちて床に散らばった。

慌ててかき集めて鞄に…は入らないから鞄の横からビニール袋を取り出して入れる。


(こんなことが現実に起こるなんて、アニメみたいだ。でも、貰いすぎたら逆にどうすれば良いのやら…。)←モテた経験の少ない男の困惑


色々考える前に取り敢えず教室へ向かう。


「松本くん!バスケ部のマネージャーやらない?」

「修史くん、好きです!これ、読んで下さい!」


教室へ向かうのにも時間がかかるほど、勧誘とラブレターを貰ってしまった。


手渡しラブレターはドキドキしたが、連続で来られたので一人一人気にしている余裕がなかった。

勿体無い、一人一人の時間をもっと大切にしたかった。


…てか俺の情報広がりすぎだろ!

こ、こんなモテ期なんて…最高です!!


「好きです!これ、受け取ってください!」←野太い声


まあ、勿論、男性からもラブレター渡されたけどね。

ごめんなさい、ノンケなんですよ。


一 ガラガラ

教室のドアを開けて、すでに登校している女子達に挨拶をする。


「おはよー!」

「ま、松本くんが私に挨拶を!「違う、私によ!「あんたなんかにするわけないでしょ、「私…「あなたじゃないわ!!!」」」」


…挨拶一つで随分と賑やかになる面白いクラスだ。

僕を含め40人のクラスなので、今年中に皆と仲良くなりたい。


俺は自分の席に行き、ビラとラブレターをそれぞれまとめる作業をする。

こんなにラブレター貰ったこと無いので、取り敢えず後で読むことにする。


「朝からモテモテだね、修史くん。手伝おうか?」


そう言って声をかけてくれたのは、早香さんの友達の天音さんだった。

…なんだか姉御と呼びたい気分だよ。


「悪からいいよ!それにまとめるだけだから大丈夫だよ。ありがとね!」


そう言って俺は天音さんに笑顔を向ける。


「んっ!分かったよ。そんなにビラ貰ったけど、何か部活はやるの?」

「うーん、まだ考えてないかな。そもそも男子って何のスポーツやればいいか分からないしね。」

「確かにそうだねー。修史くんならなにやっても大丈夫そうだけど。でも、もしマネージャーとかやると、その部活に女の子殺到しそうだしね。」


部活に入ってちやほやされるのも捨てがたいが、俺の影響力が悪い方向に持ってかれるのは嫌だ。

不純な理由で来る人が多くなると、その部活に迷惑だからね。


「うーん、ても、部活って憧れるんだよな。何かやりたいけどね。」

「そうだよねー。取り敢えず、一つ一つ、色んな部活を見たら?修史くんが見に行くだけで、力になると思うし。」

「なるほどね。天音さんの言うとおりにしてみよっかな。」


天音さんの意見を参考に、だんだんと部活見学をすることに決めた。

それにしても、天音さんは話しやすい人だ。

けれど、俺の笑顔を見ても表情ほとんど変えないから、ちょっと悔しい。

他の女の子達は顔を明らめたり、照れたりするのに…。

はっ!もしかしたらレズかもしれない。


「…ん?…修史くん?今、失礼な事を考えなかった?」

ギクッ!


「…な、何も、か、考えてにゃいよ。」


何故バレた!?


「修史くん!嘘がバレバレですよ~。正直に言いなさい。」

「はい、天音さんは僕が見てきた女子の中で一番表情に変化がないので、もしかしたらレズビアンなのかな?って思っただけです。」


天音さんは一瞬、力を抜いた顔をしたあと、笑いだした。


「アハハハ!なにそれ!違うって!私はお父さんいた頃、お父さんと仲が良かったから、男性に慣れてるだけだって!」

「あ、そうなんだ、ごめんね勘違いしちゃって。」


この世界は一夫多妻なので、父親は奥さんの相手で忙しく、なかなか子どもはかまってもらえないことが多いため、男性に対しての距離感が上手く出来る人は少ない方らしい。←この世界のネット情報


天音さんに誤解を許してもらい、後は学校のことを聞いたり、適当に話をした。

それにしても、お父さんいた頃って今はいないのかな?と少しディープな疑問を抱いてしまった。


しばらくたべっていると、早香さんが登校してきた。


「おはよー!」

「お、おはよう、松本くん!と、天音。」

「私はついでかい!」


早香さんは、今日は昨日と違ってかなりおしゃれだっだ。

メイクから髪やらすごいきちんとしていたので、いつもより綺麗だった。

まあ、スポーツ系女子って雰囲気が薄れてしまったのは残念だけどね。


「早香さん今日、すごくおしゃれだね。昨日とは違った感じで可愛いと思うよ!」

「か、可愛い!?えへへ、そうかな!?…えへへ。」


毛先を指でくるくるしながら、早香さんは照れていた。


「で、天音さんと早香さんはカップルなのかな?」

「ええー!?」

「…修史くん、懲りてないみたいだね。」


はっはっは!冗談だって!あ、天音さん、そんな蔑んだ目で僕を見ないでよ、お、おかしくなっちゃうよぉー!


そんな風にからかっていると、ホームルームの時間になり、担任の恭子先生が入ってきた。

ホームルームはすぐに終わった。


「松本くん!ちょっと来てくれるかな!」


ホームルームの直後、先生に呼ばれたので近くまで向かった。


「どうです?学校は慣れましたか?」

「ええ、そこそこ慣れましたよ!まあ、まだ2日目ですけどね。」

「友達は出来ましたか?」

「はい、天音さんと早香さんに今一番、仲良くしてもらっています。」

「そうですか!それなら先生安心しました。…何かあったら相談に乗りますからね!…セクハラとか…ね。」


そう言うと先生は教室から出ていった。

セクハラなんてあるわけあるわけ無いのに…。


(おのれぇ、天音と早香め、抜け駆けして修史くんと仲良くなってぇ!うらやましい!)

(二人ともいつの間に。私もそろそろアピールしないと!)


何やら女子のひそひそ声が聞こえてきたが、特に気にせず授業の準備をした。


数学と国語の授業をやって両方とも運悪く当てられたが、普通に解けたので良かった。

女子達からの視線もある程度慣れたので、特に気にならなくなっていた。



ー お昼になった。


自然に天音さんと早香さんと机をくっつけて会話をしやすくする。

ご飯は毎日自分でお弁当を作っていたので、それを取り出す。


「お、修史くん、自分でお弁当作ってるんだ、すごいね!」

「いやー、それほどでも。」


ピクッ

((松本くんの手料理!?))


…んっ?気のせいかなぁ?

一瞬教室が静かになった気がしたが。

…まあいいや。


天音さんに褒められたのは嬉しかった。


「どう?俺のお弁当、少し食べる?」

「おっ!じゃあ、貰うよ!」


調子に乗って、俺の料理の腕を見せてあげようと思った。

天音さんに断られなかったので、無難に卵焼きを一口サイズに箸で切って、天音さんの口元へ運ぶ。


「はい、あーんして。」


…ッ!!!?


なんだか一瞬で教室が静まりかえった気がした。


「あー、修史くん、それは不味いね。主に私の命が。」

「あっ、ごめん、流石に嫌だったよね。」

「いや、そういう問題じゃないんだけどね。…もう、今日は味見できる雰囲気じゃないから、やめとこ。」


腕前を披露しようと思ったが、「はい、あーん「」はダメだったらしい。

そのくらい大丈夫だと思ったんだけどな。


少し静かな雰囲気のまま、昼休みは終わってしまった。


(そういう不意打ちは卑怯だぞ、修史くん。私には男の子を気にしている時間も余裕もないんだから。…あまりドキドキさせないでほしいよ。)


天音は、修史の横顔を一瞬チラッと見た。


(まあ、修史くんには自覚が無さそうだけど…ね。)


天音はドキドキする心を抑え込み、無自覚に女の子の心に影響を与える修史を見て、少し息をはいた。

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