貴重な男の中で一番優しいのは俺らしい

クローバー

第1話 流れ星にお願い事をしたらしい

「誰かこの状況を説明してくれ。」


俺、松本修史は困惑していた。



ーー


俺は、小さい頃から父親に周りの人に優しくしなさいと言われて生きてきた。


自分が我慢をして、誰かが幸せになるならそれでもいいと思って生活を続けてきた。


だが、大学を卒業して就職をした今、それは間違っていたのでは無いかと思い始めていた。


ーー

「松本君、悪いけどこれやっといてくれない?」


「あ、いいですよ。いつまでですか?何か注意点とかありますか?」


「出来れば明日までに頼むよ。夜はどうしても外せない用事があってね。松本君は優秀だから特に言うことは無いから大丈夫だよ。」


「優秀だなんて、お世辞でも嬉しいです。やっておきますね。」


年上の人に頼られる事は悪い気はしない。

優秀って言われたのは嬉しかったな。


「よし、頑張るか。今日も徹夜かな。」


「お、松本、お前夜暇だろ?これ、やっといてくんね?」


「清水先輩、僕、松下さんからも仕事頼まれたので、暇じゃないんすよ。」


「やっといてくれよ!一つやるのも二つやるのも変わんないだろ?俺、今日彼女と遊ばないと行けないから忙しんだよ。そういうことだからよろしく!」


机の上にポンッと置かれる書類。


(仕事を頼む理由が遊ぶから…か。)


…また、昨日と同じだな。

まあ、仕方がない頑張るか。

そう言って俺は仕事に取りかかった。


ー 深夜


(…あれ?何だか視界がボヤけてきた。疲れてるのかな?)


目を擦り立とうとしたが、バランスを崩し倒れてしまい、運悪く机の角に頭をぶつけてしまった。


(ヤバい、意識が…。)


思いの外衝撃が強く、俺は気絶してしまった。



ー 翌朝 一


「松本さん、大丈夫!?」


一番早く出勤する、女性の先輩に声をかけられ俺は救急車で運ばれた。


しばらくして、病院で目を覚ました俺は携帯で会社へ連絡をいれようと、スマホの画面を開いた。


すると、社長から今日はよく休むようにとメッセージが入っていることに気付き、お礼の返信を入れた。


返信が終わったあと、他にも何件かメッセージが来ていたことに気付き、見てみた。


「あ、松下さんからだ。心配してくださったのかな?」


メッセージを開いた。


『松本君、頼んだ書類最後まで終わって無いじゃないか。

困るんだよ、私が。君には失望したよ。』


…そんな。


そして、もう一件、清水先輩からもメッセージが入っていた。


『おい、松本。お前、頼んだ仕事なんにも終わってねーじゃん。なめてんのか?俺が上司に叱られたじゃねーか。ふざけんなよ?』


二人のメッセージを見て、俺は申し訳ないという感情では無く、ただただ、悲しくなった。



病院から出て、タクシーを使ってアパートまで帰り、ベッドに横になる。


「…はぁ。」


ため息をつくと幸せが逃げると言われていたので、長年しなかったため息を、無意識のうちに俺はしてしまっていた。


(頼まれた仕事、終わらなかったな。受けたからにはやらないとなのに申し訳ないな。…でも、それでも心配の言葉くらい少しはあって欲しかったな。)


ベッドから起き上がり、冷蔵庫からコンビニで買っておいたワインを取り出し、直に飲む。

お酒を飲むと少し心が安らぐ気がした。


(先輩、彼女との遊びを優先して俺に仕事押し付けて来たからなぁ。あの人に彼女が出来て、なぜ俺には出来ないのだろう。あーあ、こういう時、彼女でもいれば相談に乗ってくれたり、心の負担を軽く出来るんだけどな。)


そう思いつつ、俺は少し苦笑いをする。

今の俺に彼女はいない。

だが今は少し、いてほしいと思った。


「まあ、彼女が出来たところで、俺は直ぐにフラれてしまうからな。」


そう言って更にワインを飲む。

徐々に頭に浮かぶ、俺の過去の恋愛経験。


小学生の時、初めて告白して見事に成功し、彼女を大切にしていた。しかし、その彼女を好きな中学生に一方的に殴られて、彼女は「弱い男は嫌い」と言って姿を消した。


中学生の時、両親が離婚し落ち込んでいた時に、親身になってくれた女の子に告白したが「松本君は誰にでも優しいから、特別にしてくれなそうだからごめんね」と言われて玉砕。


高校生の時、「私より背が高い人がいいんだ」「愛想笑いばかりで気持ち悪いから無理」などの理由で告白は玉砕。ただのいい人ポジションに。


大学生の時、男ばかりの大学に行ったために出会いなどなく、合コンに行ってみるもルックスのレベルが足りずに何もなし。


会社に入り、女性は既婚者ばかり。


「…はぁ。」


本日二度目のため息をつく。


仕事だけでなく恋愛の過去を思いだし、余計に気分が落ち込む。


少し息苦しくなったので、窓をあけベランダに出る。

…夜風が心地よい。


(背は低く、ルックスは平凡。俺の取り柄は優しいところとお人好しなところだけかな。それだけじゃ、モテるわけないか。彼女も…。)


……違う。


優しさは大切、ある程度のお人好しも必要。


今、彼女とか心の支えになってくれる人がいないのも俺のせい。


誰にも頼らず、頼られるようにだけ行動してきた俺のせい。


優しさの意味を履き違えて、ただ使われてきた俺のせい。


(…まあ、今さら考えても仕方ないか。人生やり直したいけど過ぎたことだし。分かっていても今さら変えられないし。取り敢えず、良く休んで仕事頑張らないと。)


そう言って、最後に残ったワインを一気に飲み干す。


「ぷはぁ!お酒はいいな。気分が良くやる。常にお酒飲んでりゃ、辛くはならないのにな。それか、俺が異性にちやほやされ続けたらもっと頑張れるのに。…それかいっそのこと、モテモテになって働かずに女の子達に養って貰えないかなー。…なんてな。」


そんな事を言いながら、視線を上に向ける。


「…綺麗だ。」


ベランダから眺めた空、そこには綺麗に広がる星空が見えていた。


いつもは星など気にしていなかったが、今日は特別に綺麗に見えた。


(凄いな。こんなにも空が澄んで見えるなんて。)


そう呟きついついボーッと星を眺めていた。


― 何分くらい見ていただろう?ふと視界の端に、綺麗に線を描く流れ星を見つけた。


「モテたい、働きたくない、劇的に変わりたい」


流れ星が消える前に三回願い事を繰り返すと叶うという話を、幼少の時に耳にしたことがある。


それを思い出し、お酒の勢いもあって俺は咄嗟に願い事を叫んでいた。


…ただ、一つの願い事を繰り返し言うはずが、思い付いた三つの願いを並べて言ってしまった。


自分の欲深さに少し苦笑いをする。


「……なんてな。そんなんで叶ったら、誰も苦労しないし。それにしても綺麗な流れ星だったな。まあ、綺麗な流れ星見えた事だし、考えても仕方ないからな。…寝よっと。」


こんなことをしても無意味なのに何してんだろうと思いつつ、俺はベッドに横になり、眠りに着いた。


― まさか、後々の生活がこんなにも変わるとは知らずに ―

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