僕の彼女のスマホのカメラの音
綿麻きぬ
パシャ
パシャ、僕の彼女のスマホのカメラの音が聞こえる。
「ちょ、また撮ったの?」
「うん、だって今の顔、残したいもん」
「ふーん、そう」
こうやって彼女は僕のことや色々な物を撮っている。
この前のデートの時だってそうだ。僕達が食べに行ったカフェで料理が運ばれたら、すぐ写真を撮る。その上、僕が食べてる姿をパシャパシャ撮りまくってる。
写真を撮りたくなる気持ちは分からなくもない。今のご時世、写真は大事だからな。
「ねぇねぇ、どうしたの? ボーっとして」
「あぁ、ちょっと考えてただけだよ」
「ほんと? なんか、私に文句のあるような顔をしてたよ」
なんと、バレていましたか。恐れ入りました。ここからが正念場だ。正直に話すか、誤魔化すか、悩むなこれは。
「いや、なんでそう考えるんだい?」
「だって、私に文句がある時は耳たぶをこすってるから。意外と見てるからね。えっへん」
えっへん、かわいいかよ。それもあるが、僕はどうやら耳たぶをこする癖があるらしい。次から気をつけないと。
「そうかい、そうかい。それでどんな所に文句があると思うんだい?」
「う~ん、私がかわいすぎる所?」
「それもある。他には?」
「そうだね、私の笑顔がまぶしいこと?」
「それは当たり前。その他」
「これ続けるの? 私に文句をつけるなんてもったいないわよ?」
「じゃあ、僕のお姫様のご機嫌を損ねてしまったお詫びにそこのカフェ入る?」
「うん、ありがとう! 入ろ!」
相変わらず、かわいいかよ。僕はこんな彼女が持てて幸せだ。だが、僕よ、言え! カメラで僕を撮りまくるのは止めてと。
そこのカフェで僕はブラックコーヒーを、彼女はパンケーキのビッグサイズと蜂蜜入りウインナーコーヒーのこれまたビッグを頼んだ。
よく食べる子だ。美味しそうに食べるからなお、かわいい。
「相変わらず、誰かさんはブラックなのね」
「そうだよ、コーヒーの味がよく分かるではないか」
「ふーん、たまにはブラック以外も飲んでみたらどう?」
「気が向いたらね」
そうこうしてるうちに注文が届いた。
パシャ。
「はい、食べよう! 美味しそう」
「「いただきます」」
僕は美味しそうにパンケーキを食べる彼女を見ている。ほっぺが落ちるとはこのことのように食べている。
「一口いる? じっと私のこと見つめすぎだよ!」
「いいよ、食べな」
「はい、あ~ん」
そう言って僕の目の前にパンケーキを出す。僕は言われた通りに口を開けると彼女は口にパンケーキを押し込む。
「むぐ」
パシャ。
「おい、いまとったろ。写真で撮るのやめてくれ」
「ふーん、なんでかな?」
「それは、その、写真で撮ると実はしっかり記憶されてないんだ。写真で撮るより実際の記憶に頼った方が記憶に残るんだ」
「つまり、言いたいことは?」
「フレーム越しの僕じゃなくて、目の前の僕を見て欲しい。そして、写真の中の僕じゃなくて、記憶の中の僕を見て欲しい」
「うん。最初からそう言ってくれればよかったのに。わざわざこんな回りくどいやり方しなくてもいいのに」
なんと、知ってましたか。まぁ、これが僕達の交流だから。
今までどれだけ相手を試し、試されながら付き合ってきたか。
僕達はこれからも試し、試されながら付き合っていくのだろう。
僕の彼女のスマホのカメラの音 綿麻きぬ @wataasa_kinu
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