第14話
*****
魔法少女には、魔法少女である〈資格〉がいるのだろうか。
成り行きで魔法少女になってしまったのは、ボクだけじゃない。
だけど、魔法少女には魔法少女である〈資格〉があるんじゃないのか。
魔法協会はヒエラルキーの世界だ。ほかのすべての世界と同じように、ピラミッド状になっている。
協会に入ることが〈許可証〉になる、魔法使いの世界。
ベッドで起きてすぐに、むにっとした弾力を感じた。
目を開けると、ボクのベッドの布団に、にゃーこ会長が潜り込んでいた。
ボクは、にゃーこ会長の胸を掴んでしまったのだった。
ボクも女子だとはいえ、気まずい。
さっと手を引っ込める。
静かに寝息を立てているにゃーこ会長からはボクとは違うシャンプーの香りがする。
柑橘系の香りだ。
横で眠っている会長の顔を見ながら、時間だけが過ぎていく。
目覚まし時計が鳴るまで、まだ三十分ある。
まだ少し空は暗い。
早起きは三文の徳なら、徳なんていらない、眠らせて。
いつもならそう思うけれど、たまに早く起きてしまうことがあるのだ。
だいたい、ここでいう徳が品性のことを指すならば、寝覚めに胸を触った時点で品性はない。
だって、ちょっと感情が高ぶってしまったし。
いえいえ、そーいう趣味はありませんが、と強調しておかないと。
誰にって、自分に対して。
昨日も夜は〈幻獣〉を退治し、魔法少女を助けた。
上々だ。
今日は疲れも取れているような気がする。
ベッドから降りて、寮の洗面所に顔を洗いに行く。
廊下では、うつらうつらしながら歩いている子も、朝から元気な子もいる。
当たり前だけど、みんなひとりひとり事情は異なるのだ。
事情は異なるけれど、この学園に通う子はみんな訳ありだ、なんて感じないのが、朝のこの時間でもある。
起きて即座に悩む子は、少ないように思う。
気分の浮き沈みはあるけど、いじめられ体質のボクでも、朝はそれほど苦じゃない。
朝が苦しいときは危険サインだ。
すべてを無視してもっと眠ったほうがいい。
それくらいはわかるようになった。
顔を洗って歯を磨いて部屋に戻ると、ドア開けた音でにゃーこ会長が目を覚ます。
「まりん、おはよ」
「おはよう」
会長はボクのベッドから降りると、そのままボクに抱きついてきた。
「おはよーのキスをしよー!」
「嫌です!」
はねのける前に軽くくちびるにキスをする会長。
リアクションに困る。
「んっ……会長……いや、だ…め、んんっ。くちゅ、……んにゅぅ……んむんぅ。舌、入れいで…くださ……にゅるちゅ……ちゅぱっ……んん、あぁ。ん! だ、ダメ……ちゅる、ん……」
「んふふ。昨日の夜で〈幻獣〉討伐二十体目だったのよ? んん。ちゅぱ、じゅる…じゅるり……にゅるんぱ」
「あ、ふぅ。……そ、そうだったんだ……」
「な? 祝いの口づけ。びしょびしょになるだろー。わたしのテクは癖になるのよ」
「そういう言い方をすると」
「討伐の、拒絶はできねーのよ」
「でも、そんなゲームみたいに討伐、だなんて言っていいのかなぁ」
「むぅ」
「それよりも、顔を洗ってきてね」
「うぃー」
「歯磨きしてない相手とキスしちゃったな」
「マニアック仕様なのよ。な?」
「さっさと洗面所に行く!」
「うー」
大広間で朝食の時間になる。
ここは寮の大広間で、学園の学食とは違う。
学費に入っているお金で出される料理だ。
カロリー計算などはされている。
「今日はフルーツパーラー仕様だべ! えくせれんと」
「バイキング形式で果物のケーキや飲料、フルーツバーのアイスもありますね。あとシャーベット」
「今日って特別な日だったの?」
「ああ。たしかありあ先輩が展覧会県内トップの成績だった記念ですよ」
「ああ、それな! 裸婦の油絵な。渋い絵」
「そうですかねぇ。確かに渋いけど、いつも明るい画風ですよ、ありあ先輩の絵」
「ご本人は明るいとは言い難い性格だけどな。地の底を覗き込んでいるような目つきをしてるのよな」
「地の底を……。うーん。そういう表現もありといえばありだけど」
「ありあ先輩のお気に入りだからまりんにはわからないのよ? ほかでの顔が」
ボクらが朝ご飯を食べながら話していると、学長の挨拶が唐突にはじまった。
食べながら話を聞いてくれ、と言う。
学長の横にはふてくされた顔をしたありあ先輩。
申し訳程度のお辞儀をしたありあ先輩は、話をしている学長から顔を背けている。
学長の話は、展覧会のことだった。
五分くらい話しただろうか。
学長が「生徒会長からも一言」と言って手招きをすると、にゃーこ会長も学長のそばまでけだるそうに歩いていく。
そして、
「おめでとう、ありあさん」
とだけ言って、席に戻ろうとする。
だが、学長に首根っこをつかまれ、少し長めのスピーチを要求され、即席で披露した。
ありあ先輩は学園の誇りです、という内容と、今日の朝ご飯は最高なので、学園寮の食事事情のためにこれからも頑張ってください、というユーモアを入れた内容の、よどみないスピーチ。
最後に拍手が起こった。
ボクは、会長はこの学園の会長だったんだなぁ、と当たり前のことを思った。
自分だって会長って呼んでるし。
にゃーこ会長はありあ先輩と握手してこっちに戻ってきた。
「仲がいいじゃない」
「うにゅに? むぅ」
にゃーこ会長は口を濁らせた。
フルーツたっぷりの朝ご飯を食べてから、ボクらは部屋に戻る。
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