ハイスペック園児 まさや君

あきらさん

第1話

 保育士の仕事は本当に大変だ。

 私はあまり頭が良くないので、子供達の質問にちゃんと答えてあげられない事に、いつも胸を痛めている……

 そして、今日も私が一番苦手としているまさや君が、足にしがみつきながら私に質問責めをしてきた。


「ねぇ、より子先生。どうして聖徳太子は死んじゃったの?」

「に……人間だったからよ」

「ふ~ん……そうなんだ」


 まさや君は納得したんだろうか……

 まさや君の質問はいつも奇抜で、質問の内容がよく分からない。

 納得しているのか納得していないのかも分からないが、正直私の手には負えないと、いつも思っている。


「ねぇ、より子先生。どうしてイエローカードは二枚で退場なの?」

「さ……三枚だと、かさばるからよ」

「ふ~ん……そうなんだ」


 まさや君の質問には、何故か間を空けずに早く答えなくてはいけないというプレッシャーを感じてしまう。

 正確にはまさや君自身が、意図的に威圧しているんだけど……


「ねぇ、より子先生。靴紐の結び方教えて」

「いいわよ」


 たまにこういう普通の質問をしてくるので、違う意味で油断は出来ない。


「ねぇ、より子先生。先生は何で幼稚園の先生になろうと思ったの?」

「まさや君に会いたかったからよ」

「ふ~ん……そうなんだ」


 我ながら言い答えを返す事が出来たと思った。


「ねぇ、より子先生。今の答えは上手い事答えられたと思った?」

「お……思ったわ」

「ふ~ん……そうやって男をたぶらかしてんのかなぁ?」


 まさや君の質問がエスカレートしていくのを感じた。

 私の中では、まさや君の質問に対しては嘘をつかないというのが絶対的なルールなのだ。

 知識不足でしっかりした答えが返せない事もあるけれど、子供達が素直に育つ為に、まずは自分が素直でなくてはいけないと日々思っている。


「ねぇ、より子先生。先生は嵐の中で誰が好き?」

「た……竹田君よ」

「ふ~ん……脱退した子かなぁ?」


 私は嵐を知らない。嵐といえば山嵐という柔道技くらいしか知らないが、まさや君の質問で一番やっちゃいけないのが、知らないという答えだ。


「ねぇ、より子先生。先生が昨日食べていたザリガニはどういうつもりなの?」

「冗談のつもりよ」

「ふ~ん……そうなんだ」


 まさや君は幼稚園児ながらSNSをやっている。

 勘に触るような事を言ったら、何を拡散されるか分からない。


「ねぇ、より子先生。先生は傍若無人って言葉を何回言った事がある?」

「5回くらいかしら」


 思った事は100回くらいあるけど。

 勿論、まさや君に対して……


「ねぇ、より子先生。先生は……」


 その時、まさや君のお母さんがお迎えに来た。

 お母さんに手を引かれて帰るまさや君は、いつものように振り返り様に一言発して帰って行った。


「今日の答えは64点だったけど、アップしとくね!」


 まさや君は私に何を求めているのか分からないが、この言葉を聞く度に、一日でも早く保育士を辞めたいと思ってしまう……が、


 SNSやってんだったらググれや!!

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ハイスペック園児 まさや君 あきらさん @akiraojichan

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