最期の音声

チャプター1

 この音声が公にされるかはわからない。だが、いつか後世のためになると信じて残す。研究資料の大半は政府の手に渡っているが、核となる技術はこの音声と共に隠すノートにすべてある。この音声ファイルはUSBに、技術ファイルはすべて紙媒体で一部手書きという非常にアナログな方法で残すが、最も安全だと思う。

 さて、私がここに残すべきことは、なぜオアシスを作ったのかに尽きる。そしてそれが良かったかは、私にもわからないとしか言えない。

 順序立てて説明する。私がオアシスの研究を始めたのは、2020年の春、当時は脳科学研究の一環だった。しかし、その夏に東京が吹き飛んでからは目的が変わっていった。私は東京にいなかったが、あの時の映像は日本中の空気を変えた。一気に日本の中の抑えていた何かが爆発した。その前から世界中でテロと紛争が頻発していたこともあり、日本は一気に閉鎖的な社会になった。誰にも心を許せない社会になった。そして、これは世界中で起きていた。そんな時に、今度は世界同時に大規模なテロが行われた。それには、東京で使われたような超小型の核兵器が使われ、私の友人も犠牲になった。その友人は右手しか見つからなかったが、何も残らなかった人間も多くいた。

 そこで私は、安全で素晴らしい社会を作ることを考えた。誰もが命の危険に脅かされることなく、誰もが人を疑わなくて済むやさしい、幸せな世界を。

 これがオアシスを作った理由だ。……いや、初めはそうだった。そのために、オアシスの交流空間を構築してデータを集め、人間が喜ぶ理由やその時の人間の環境を研究した。だが途中から、本当にこれが人類のためになるのか分からなくなった。最終的に私はオアシスを完成させ、システムはまず日本で運用されるが、これを世界に展開して良いかわからない。理由はいくつかある。

 まず、すでに日本でも問題になっているが、意識の摘出は本当に許される行為なのだろうか。殺人ではないかという疑問だ。

 次に、人間の意識を強制的に移すことで、その技術の利用方法。これは、人類が何度も繰り返してきた過ちに通じる。政府がこの研究に興味を持って金を出してきたのも、結局はそういうことなのだ。

 最後に、本当に意識摘出を受けた人間は幸せになっているのかということ。私がオアシスで見せているものはまやかしでしかない。その世界でどれだけ他者を信じ、愛したとしてもそれは嘘だ。オアシスが調節しているに過ぎない。

 これらが私の中でぐるぐる回って離れない。

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