終章 出逢いの話

終章 はじまりの日のこと


「おや」


 それは2月の終わり、くれない揺れる椿に見とれていた時のこと。先日降り積もった雪の上に何かが落ちてきた。

 興味が沸いたので、ゆっくり近寄ってその正体を確かめてみる。その物体は今にも息絶えそうな百舌鳥もずの雛だった。目を閉じ、浅く息をしている。


「そなた、巣から落ちてきたのか」


 案の定木を見上げると鳥の巣が見えた。あそこから落ちてきたのだろう。足を滑らせたのか、兄弟たちに蹴落とされたのか。何らかの理由で自分の巣から落ちてしまった雛はもう二度と生きる希望は抱けない。元の場所に這い上がることも、自ら餌を調達することもできないのだから。


「痩せ細っているな……」


 この雛は普段からろくに食べていなかったのか、体は小さく痩せているように見えた。

 基本的に動物の世界はしたたかでないと生きてはいけない。弱い者はこうして大自然や兄弟たちとの生存競争に負け、息絶えていく。可哀想だとは思うがこれも自然の摂理であり、いくら神でもそれをねじ曲げてはいけない。そんな事をしたらきりがないからだ。

 しかし、この神の目の前に落ちてきたのも何かの縁なのかもしれない。その上この神は先日、愛してやまない生き神使を亡くしたばかりで感傷的になっていた。


「そなたは争いが苦手な優しい鳥のようじゃな」


 そう声をかけた時、百舌鳥は小さく鳴いた。気がした。それが本当の出来事だったのか、神の幻聴だったかは今となっては分からない。

 しかし、神にはそれで充分だった。


「わらわと共に、生きてみないか」


 冷たい風が神社に吹き付ける。

 ひとつの物語が始まろうとしていた。



【了】

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