第22話 私に、仕えたいと?

 翌朝、再びポワトゥー執政との対決を迎えた。


「それでユウヘイ様。返事を聞かせて頂いても宜しいかな?」


 ポワトゥー執政は、こちらを蛇のようにジロリと見つめる。


 王は落ち着いた様子だが、自らの部下と俺の方を交互に目配せし、成り行きを見守る。


 昨日のクララ王女の話を聞いてから彼を見ると、国の真の実力者が誰かを知ることになる。


「うーん、そうですねえ。実は島の方に出荷組合というものを作っているのですよ。農園を管理する島民は、皆そこに所属しています」


「なるほど。ギルドみたいなものですか」


「あー、そうですそうです。だから、出荷組合ごと、王の管理下に置いて貰えればと思います」


「ふむ、なれば話は早い。殿下、これで国内の農作物の流通に関して、王室が管理できるようになりますぞ」


 ポワトゥー執政の言葉に、王はふんふんと頷く。


「なるほど、確かにそれはいい」


 そこへ、俺は口を挟む。


「ですから、この出荷組合を王の物として頂きたいのです。そして、私を雇い下さい」


 その言葉に、ポワトゥー執政は首を傾げる。


「ど、どういう意味だそれは?」


「そうすれば、一層私の王へのお仕えができるかと思いまして!! 私の武と農で培いし知恵を、王の為に使わして頂きたいのです!」


 王が少し反応する。


「私に、仕えたいと?」


「そうです。私は王に仕えるが為に、あの島を開拓してきた次第! お願いでございます! 是非とも私を王の臣下にっ!!!」


 それを聞いていたポワトゥー執政が、口を挟む。


「幾ら何でも、どこの世界から来たかもわからぬ者をいきなり王家に仕えさせるのは」


 が、王はそれを聞いてちょっと乗り気だ。


「ユウヘイ! お主聞いたところによれば神獣ニヨルドを操る力も持つと聞き及んでいる。本当か?」


「はい! そうでございます!」


「そうか……。なら良かろう。これから我が臣下として、色々な勤めを果たしてくれよ」


 そう言うと、王は立ち上がり、俺の肩を抱く。

 いや、マジであっさりすぎるだろ王様。


「とりあえず、臣下にするとなるなら先ずはさっき言っていたニヨルドを見せて貰うとするか」


 そういって、大笑いする王。


 ポワトゥー執政の顔が見えたが、そんな王と私を見ながら嫌悪感の滲み出た顔をしていた。


 こわい。


 そんでもって、王家のプライベートビーチとやらで、ニヨルドを呼び出すと王はとんでもなく興奮気味だった。


「こ、こりゃあすごい!! 本当の神獣ニヨルドだ!! おぉ、これが海上帝国マガラニカを作りしシラヌイ様が操ったという、ニヨルドなのだなぁ」


 めっちゃテンション高そうだし、楽しそうだ。


「いやぁすごい!! 私がこの人生の間、何度も探し求めた神獣だ!!」


「そ、それは何より」


 俺はそのテンション高い王に若干引きつつ、笑う。


 すると、王はこちらへ振り返る。


「これが私の趣味みたいなものだ」


 と、急に嘆息する。


「執政と王は似て非なるもの。執政は金儲けにしか興味がないが、私はこんな感じで昔から金儲け以外にしか興味がない。……お陰で、私はいつまでたっても王らしく振る舞えない」


 ……確かに。


 執政と一緒にいたときの王は、どこか操り人形みたいな感じだ。


 要するに神秘主義者というか、昔の伝説とかそういうのを追いかけたがる人なのだろう。アリスから聞いていた事が頭を過る。


 そんでもって、王と再びあの木の下でお茶をした。


 そこで王から提案されたのは、ソウファ島や俺の島の二島を保有する権利を与える代わりに、自分が死ぬまでに自分の探したいものを探して欲しい、ということだった。


「要するに、宝物探しってことですか?」


「そういうことだな! 君はあのニヨルドを思うがままに操れる! となれば、この世界に散らばった神獣を集めれば、今こそシラヌイの秘宝の在処が分かるのだ!」


 王は上機嫌でそう言うが、どういうことだろうか。


 これは、このロンストン=シラヌイ家に伝わる、王家のみが知る伝承、と前置きしたうえで。


 元々、シラヌイがこの地に帝国を築いた際、彼女は思い立った場所に神獣を配した。


 その神獣達には、彼女が作った証としてペンダントが与えられた。


 彼らはシラヌイの帝国が沈んだ後も、彼らは与えられた場所に住み続けているのだとか。


 が、それは大体の人が知る話。


 問題はそこから先らしい。


「ペンダントには、実は他の役割もあるのだ。ペンダントを見てみたまえ。よくみれば溝があるだろう?」


 言われて見てみると、確かに溝がある。


「それは他のペンダントとくっつくのだ。すべてのペンダントを組み合わせると、ある場所を示すとされているという」


「ある場所?」


「そうだ。シラヌイ様が埋めた秘宝の場所だという」


 なるほど、そういうことか。


「それをだな、私はそれを生きている内に見つけたくて、方々に探検隊を派遣したのだが、どれも失敗してきているのだ。君は、そんな中でもペンダントを一つ手中にしている! これは非常にすごいことなのだ!」


 だが、そう言うと、また彼はちょっと気落ちした様子で肩を落とす。


「……とはいえ、探検隊に私財を投じてきたが成果も上がらずじまい。それでいて、私のやれることなんて殆どない。全部が全部、臣下の持ってきた書類にサインすればいいだけ。それで国は勝手に動いている」


 ……そう考えると、このおっさんも随分気の毒な気がしてきた。


「それじゃ、王はポワトゥー執政の言いなりで良いので?」


「……そういう訳では無い。きちんと手を打とうと思っている。私もな! 王らしく王がきちんと統治する国家にしたいのだ!! 私はシラヌイの血を引く、ロンストン=シラヌイ家の当主! チェザーレ王なのだ!!」


 でも、更に聞けば、ポワトゥー執政は王室の財政を支えるべく、農園経営や商会経営もしているのだとか。


 しかし、その資金の流れに不審な点が無い訳ではないらしい。


 それも聞くと、ポワトゥー執政も苦労あるんだろうな、と思わんでもなかったり。


 そんでもって、王からはこう頼まれた。


「いやぁ、何れは君にこのペンダントを全部集めて貰いたいものだ!! ハッハッハ!! あと、私の為にも色々と協力してくれたまえよ!」


 壮大な頼みに俺は失笑するしかなかった。


 かなり久々に島へと戻ると、アリスとアレックスが砂浜で呆けている。


「ねえアレックス……」


「……ガル?」


「ダーリン、いつになったら王様のところから帰ってくるかな?」


「…………ガル」


「そうよね。待つしかないわね……」


 お前ら、なんかいじらしいなぁ。


「よぉ、一人と一匹。戻ったぞ!」


 俺は背後からそう声をかけると、両方がこちらを振り向く。


 その顔は、驚きから泣き顔へと変化する。


「ダ、ダーリン!!」


「ガルルガルルルル!!!」


 めっちゃもみくちゃにされるが、俺だって嬉しい。


 だが、もう一人の自称奥様はどこだ?


「おい、ヘレンは?」


 それを聞くと、アリスは元気をなくす。


「ダーリンの事を探しに行くって、タンヂの所に乗り込んでいったの。でも、ヘレン全然戻ってこも来ないし……」


 つまり、それってタンヂの所に囚われているとかってことなんじゃ?


 確かに、俺がタンヂの所に連行された時は、彼女もかなり激しく抗議していた。

 それと、彼女とタンヂの関係性を考えると、色々と不味い状態なのではないか?


 俺は急いで仕度をすると、アレックスに跨りアリスも乗せるとスモジュ島へと急ぐことにした。


「タンヂのやつ……ッ!」


 俺はヘレンの無事を祈り、猛スピードで急ぐようアレックスに命じた。


※続きは8/22の21時に投稿予定です。

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