俺の島!!!

新野仁

第1章 俺の島!!!

第1話 それじゃ、次の世界でも頑張って!


「あなた、間違って死んだから」


 はー、そうですか、というより、実感がない。

 彼女の胸にデカデカと「三級女神 アリサ」と名札を貼っている。


 茶髪にミニスカートのスーツが健康的で、どうみても女神らしさはないけど。


「え、じゃあ僕いまは天国なんですか?」


「そういうことになるわ」


「なんか駅のホームにしか見えないんすけど」


「私とあなた二人だけの駅のホームだけど、間違いなく天国よ」


「まるで山手線のホームみたいっすね」


「正確には天国というより、その手前の入り口ってとこかしら」


「それで、こんな場所になんで僕はいるんで?」


「ちょっとした手違いで、あなたが間違って死んだからよ」


「なるほど」


 いや、理解は追いつかないけど。

 本当に死ぬべきだった人は俺と一字違いの田中祐平さんだったらしい。


 俺の名前は田中雄平だ。

 確かに読みは同じだが、書く漢字が違う。


「私の部下がミスってしまったから、こうして私が謝罪に来てるのよ」


「そのわりには謝る態度じゃないっすね。足組んでるし、顔はずっと別の方を向いてるし」


「次の現世行の列車が来るのを見てるのよ」


「はぁ、なるほど……」


「私の視線よりも、問題はあなたを死なせてしまったことね。それで、色々考えたんだけど、あなた生まれ変わるとしたらどうしたい?」


「え、生き返れるんですか?」


「どうしたの? あんまり嬉しそうじゃないけど」


「そりゃまぁ、残業で追い込まれて深夜二時過ぎに帰ろうとした。そしたら、大雨に巻き込まれて、帰りに車が水没したことくらいですから」


「……確かに、そういった経歴だったわね」


 女神様はどこからともなく書類の束を取り出すと、ふむふむと頷く。

 どうやら見ているのは、俺の人生の履歴書らしい。


「えー、東京都八王子市生まれ。高校卒業後に二浪して私立大学入学。そこで一留年してから卒業後に、ブラック企業で働いて八年目。上司は横暴で、同期入社はみんな辞めてしまった、と。かといって本人は元々楽天的な性格だった故か、あまり困った様子もなく、淡々と仕事をこなす日々。とはいえ、残業ばかりの毎日には辟易していた模様……。と、あるわね。魂ランクはA+。ふむ、何度か転生してる間に徳は積んできたみたいね」


「なんか説明ありがとうございます。だから、正直生き返っても嬉しくないっすよ」


「それは困るのよねー。本当は死ぬ筈だった人じゃないから、それだと天国の死亡システムにエラーを残すことになるし。それにまぁ、この魂ランクだったら少しはサービスできるかなぁ」


「でも、それってそっちの都合じゃん……」


「まぁまぁそう言わないでよ。色々と善処はするからさぁ」


 女神はそう言うと、腕を組んで考え出す。

 唸り声を挙げて悩んでいると、遥か彼方まで続くかのような線路の先から汽笛が聞こえた。


「あ、もう時間がないわね! 仕方ない! そしたらあなたが生まれ変わりたいものを教えて!」


「え、何すかそれ?」


「ほら、あなたの魂だけをそのままにしてさ!別の世界に生まれ変わらせてあげるから!」


「それって、別の世界で別の人生を送れるってことですか?」


「そういうこと!」


 汽笛がどんどん近づいている。

 時間は無いらしい。

 とはいっても、あまり思いつくこともない。


 なりたかったもの?

 いや、してみたかったことの方が良いだろうか。


 それだとすると、テレビ番組とかでやってた離島でのサバイバル生活とかか?

 大変そうだけど、色々と面白そうではある。


「じゃあ、離島で楽して生活できる世界にして欲しいです」


「えーっ!? なにそれ!? そんなんでいいの?」


「え、どういうことっすか?」


「あーいや、こっちが一応ミスしちゃったからさぁ。色々とボーナスはつけてあげたいのよ」


 どうやら、間違って自分を死なせてしまったことの、償いとして何かボーナスをくれるらしい。


「じゃあ、離島で暮らすのに楽できるものください」


「そ、そっからは離れないのね……。そうねー、ならこれ持ってくのはどうかしら?」


 そうして一冊の本を渡された。

 結構分厚く見えるが、重さは殆ど無い。


「なんすか、このブリタニア国際百科大事典みたいなの?」


「それ神様技術指南書ってやつ。あなたの魂ランクに応じての御褒美みたいなものよ。望んだ知識のデータを引き出せる優れものだから」


「……ほんとぉ?」


「本当だってば! 嘘つかないから! 例えば、米の作り方ってその事典の前に念じてみてよ」


 言われるままに念じてみた。

 すると、技術指南書が光って勝手にページを開いてくれる。

 題目は米の作り方。水管理、除草管理、登熟管理とか、色々載っている。


「へえーすごい」


そう感心していると、列車が目の前に止まる。


「それじゃ、次の世界でも頑張って!」


「ありがとうございまーす」


 そう言って見送られたのだが、電車の中では急に眠くなり寝てしまった。


 こうして俺は異世界に転生した。

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