~恋を忘れ海に魅かれた者~
珠洲樹義
第1話 恋を忘れた日
「あなたとの関係はコレでおしまいにしましょう」
冷たく全ての感情を忘れてしまったかのような声で女は言い放ちその場を後にした。
「はぁ~振られちまった・・・」
男は醒めた目で寒空を見上げる。
「もう恋なんてしない・・・なんて言いたくないしなぁ」
そう呟きながら、歩き出す。
たぶん彼はこう感じているだろう。
「恋愛とかじゃない楽しい事ないかなぁ・・・」
北風に吹かれながら寒空の下をため息混じり帰路についた。
時は過ぎ、1週間ほど経ったある日・・・
「なぁ義之」
仕事で使っているトラックを洗車していた、この物語の主人公「義之」
会社の先輩に不意に後ろから声を掛けられる。
「あっ、お疲れ様です。梶先輩」
「お疲れさん!お前本当にトラックすきやなぁ」
梶は、そう言いながら煙草に火を点けた。
「まぁお前も一服つけろさ」
梶に煙草を突き出され、手に取る義之。
「いきなりなんやけど、お前今週の土日休みやろ?」
煙草に火を点けながら頷く。
「それなら決まりな!」
いきなり満面の笑顔で、親指を立てる梶に困惑の表情で答える。
「いきなりなんすか?どっか連れてってくれるんすか?」
小首を傾げながら、煙草を吹かす。
「おう!海行くぞ!」
「海?んな寒いのに?」
今は11月、北風も徐々に冷たさを増す時期だ。
「寒い?なら防寒の服着ればいいやろ、そんなことより今日の帰り付き合えよ」
訳も解らず、半ば強制的に決定してしまったが、「了解」と二言返事で返した。
「ほな片付けしてくるわ」
そう言い手をひらひらとさせながら、その場を後にする梶。
「なんか嫌な予感しかしねぇけど、まぁいいっか」
そう呟きながら、煙草の火を消し洗車を再開した。
そして、仕事終わり。
「とりあえず乗せてってくれ」
おもむろに車のドアを開け、梶が助手席に乗り込んできた。
「まじっすか?自分の車どうするんすか?」
当たり前の質問に梶は笑いながら答えた。
「今から行く所は家とは反対方向!てな訳で隣町まで出発や」
義之は、ため息を吐きながら車走らせ始めた。
道中、梶の道案内に従いハンドルをきる義之。
他愛もない仕事の話を交わしながら目的の地を目指す2人。
走り始めて30分ほど経った頃。
「次の信号の角の店に入ってくれ」
梶の指示に「了解」と返事をしながらウィンカーに手をかけた時。
「てかここ・・・」
梶は嬉しそうに言う。
「そうや釣具屋さんや!」
訳解らずながらも、車のギアをリアに入れバックをする。
「お前、昔釣りしてたって言ってたやろ?」
梶が語り始めた。
「しかも彼女が居るで、今は行ってないって行ってたよな?」
「てことは、此間別れたって事は釣りに行けるって事やろ?」
梶の唐突もない話にキョトンとしながら言葉を返す。
「まぁそうすけど、いきなり過ぎません?」
「まぁ気にするな!お前が今もっとる釣具なにがある?」
話が急展開する中、家にある釣道具を説明した。
「そうかそれなら、あとは、針とか細かいものがあればええな。あとはバッカンとかもいるけど・・・とりあえず俺の予備を貸したるからええか」
と言いながら店に入っていく梶のあと追いながら、義之も店に入った。
店の中は沢山の釣具でいっぱいだ。
「よし、とりあえずウキと針とガン球を選ぼうか」
嬉しそうに梶は奥に進んでいく。
「ウキは、中通しのB、2B、3Bあれば取りあえずは大丈夫。錘も同じサイズを買えばいいぞ」
そう説明され、その通りに選ぶ義之。
「錘はこれでよし、ウキはこのどんぐりみたいなこれでいいのか?」
今まで、ゲームフィッシング。ブラックバス釣りしかしてこなかった義之。
基本ブラックバスは、ルアーと呼ばれる小魚などに模した擬似エサを使用する釣りだ。
魚には、弱った小魚に見せたり、水に落ちた虫に見せたりと様々なアクションでアピールし喰わせるという釣りである。
捕食性も高く、気性も荒めな外来種だ。ブラックバスは引きが強く、ルアーも多彩な種類があり、ファンを魅了している。
大きなものだと70cmクラスの個体も釣れることがある。
「中通しのウキって言ってもいろんな色とか形とあるんやなぁ」
義之は呟きながらも、赤色のウキと黄色のウキをそれぞれのサイズで買うことにした。
「あとは針だな。にしても結構高いなぁ・・・まぁいいけど」
それもそのはず、ウキには数多くの種類があり、安いものから高いものまである。
安いもので300円ぐらいからの物もあれば、高いものだと5000円からと言うものある。
最初は、1つ1000円前後から探すのがお勧めだ。
「先輩、ウキと錘は選んで来ました。針はどれを買えばいいですか?」
ウェアーを選んでいた梶に声をかける。
「おう。これとこれ、どっちがいいと思う?」
「はぁ~」とため息をつきながら、こっちと指を挿す。
「よし、わかった。これ買うわ。」
と満面の笑みで買い物籠に、ウェアーを入れる梶。
「つうかそんなに買うんですか?」
よくみると籠の中には、なにやら沢山の商品が入っていた。
「おう。針にラインに予備の備品。あとは偏光グラスの見とくかな」
梶はニヤニヤ、きょろきょろしながら、「お前、サングラス持ってんのか?」と尋ねてきた。
「一応持てますよ。バス釣りで使ってた奴ですけど・・・」
「ならOK」と梶はいい、針売り場に向かった。
「針は、コレとコレとコレ。あとは状況に応じて俺の持ってる奴をあげるわ」
と言いながら、籠に掘り込んできた。
「よし、あとは会計して帰るか!」
梶はそう言うとレジに向かって歩き出した。
「先輩。会計はいいんすけど、肝心の竿とかリールは買わなくていいんすか?俺、海釣り用とか持ってないっすよ?」
問いかける義之を笑うように、「心配すんな!!」とレジにすたすたと歩いていく梶。
またため息を吐きながら、後追う形になった義之に梶が言う。
「竿は、俺のをやるわ!リールはお前の見せろ。使えるか判断してやる。使えんかったら今回は貸したるわ!」
梶の言葉に、少し安心した義之も、会計を済まし、店を後にした。
帰りの道中・・・
「しかし何で急に釣りに誘ってくれたんすか?」
義之の質問に、少し真顔で返す梶。
「お前、彼女と別れてから少し上の空みたな感じやったやろ?せやから何かやればまぎれるんやないかと思ってなぁ」
梶の言葉にびっくりした義之。
「なんかわからんけど、お前釣り上手くなりそうやし、休みの日とか運転してもらおうって思ってなぁ」
と笑いながら、さり気無く酷いことをいっているが、これこれで梶の優しさなのだろう。
そう思うと自然と笑えてきた義之。
「なんすかそれ、俺のこと心配してくれてたんすか?」
と悪戯な笑みを浮かべ、梶に言う。
「ばぁか。心配なんぞするか。ただ釣りはおもろいぞ。」
そうこう話をしている内に、梶の車が停まっている駐車場に着いた。
「したら、このまま家に来いよ。仕掛けの組み方とか教えがてら、メシ喰ってけ!あとリール取って来いよ。」
そう言い、車から降りていった梶に、また「了解」と一言返し、一度家に戻る事にした。
そのあとは、梶の家に行き、夕食を食べて、釣りの仕掛けの組み方を教わり、土日に行く釣りで釣る魚のことを聞き、その魚の釣番組のビデオを見て、梶の家を後にした。
「なんか土日が楽しみになってきた」
家に帰ってきた義之は、そう呟き、寝床についた。
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