第175話 魔界からの使者
「
離宮の近衛隊長が声を張り上げたのが聞こえた。
その声を、国母様が招待したお茶会の面々は、離宮の中庭にある草木の
「おっ、来たね。ここに通してよ」
今
無言で一礼し、女中が急ぎ足で庭園の垣根へと向かう。
「魔界か・・魔族だろうけど、誰かなぁ?」
「近衛が慌ててるみたいだし・・滅多に来ない?」
「今の子になってからは初めてかも? 魔族にとっては、魔瘴の薄いこっちは生活環境とか厳しいんだよ。だから、滅多に出て来ないんだ」
「そうなんだ」
まあ、そう聴くと納得かも。強い連中がいっぱい居るのに、どうしてこちら側・・北半球へ攻めてこないのか不思議だったんだ。
「それでも来たってことは、向こうでも大変な事があったんだねぇ」
フレイテル・スピナがお茶を飲みながら息をついた。
その時、先ほどの女中が近衛らしい騎士を
「
「あれ? 使者さんは?」
「そのぅ・・」
近衛騎士がそうっと後方斜め上を振り仰ぐ。
「ん?・・あれ、巨人族の人かぁ、珍しいね」
フレイテルの見上げる先に、5メートルはあるだろう身の丈の甲冑姿の男が見下ろしていた。大きすぎて、中庭の回廊をくぐれないので、平屋の回廊越しに上から覗き込んでいる。
「・・あれ、前に見た巨人の人じゃん」
初めて迷宮の旅館まで潜った時に会った巨人族の男だった。
巨人も覚えていたらしく、
「おう・・久しいな。このような所で会うとは」
僅かに口元を綻ばせた。
「魔界の使者って、あんたが?」
「うむ・・そちらの、スピナ様宛てに、我が主より言伝があってな」
「ふうん・・」
「君の御主人は、誰かな?」
フレイテル・スピナが茶器などを脇へやりつつ立ち上がった。
「フォリレイ・ミ・シャレノ様です」
「シャレノ・・リイターブの?」
「ご子息で御座います」
「そうなんだ」
「・・俺達、外そうか?」
「ううん、居て貰って良いよ」
「そう? あんたの方も良いの?」
巨人にも訊いておく。
「構わん。他の者に聴かれて困るような話では無い」
「そうか。じゃ・・」
俺はそのまま居座る事にした。万一の時には、フレイテル・スピナを護らないといけないからね。ちょっと、そこに居る近衛騎士の手には余る強者ですから・・。
(あの時より随分と強くなっているけど・・まあ、勝てるね)
デカいだけの奴じゃ無い。技もあるだろうし、戦いの経験も凄まじいのだろうけれど・・。
「貴族階級の悪魔が
「・・それだけかい?」
「ただ、そう伝えろと」
「ふうん・・訊くけど、リイターブ・グ・シャレノはどうしたんだい?」
「・・貴族階級の悪魔との戦いで
「その貴族は?」
「フォリレイ様が討ち取った」
「そっかぁ・・」
「悪魔貴族といえど、リイターブ様との戦いで疲弊
「顕現した貴族級は何体なんだい?」
「・・分からない。シャレノ領内だけで3体が確認され、内1体を仕留めた。残る2体は悠々たるものだ。我が物顔で領内を破壊して回っている」
「そんなに沢山の貴族級が出てくるなんて・・」
「星が降った。あれと共に悪魔の巣が落ちて来たのだと、
「
「危険を予知し、魔界各領へ報せを届けて下さったのだ」
「なるほど・・」
「そう言えば・・ふむ」
巨人の単眼が俺を見た。
「なぁに?」
「いや・・これは、恐らくお主の事だと思うが・・
「・・む? もしかして、ホウマヌスさん?」
「やはりっ・・お主の事であったか。そう、ホウマヌス様だ」
「おおお・・良かった。旅館が壊れちゃってたから心配してたんだ」
「うむ、あの場にも貴族共が来たようだが、何とか撃退したらしい」
「コウちゃん、
「うん、まあ・・何度か泊まりに行ってるからね」
「・・もう、何て言えば良いのか分からないよ。ほんと、コウちゃんって・・無茶やってるよね?」
「否定はしません」
「
「コウタ・ユウキ」
「ユウキが家名で良いのか?」
「うん、良いよ」
「・・そちらは?」
ディヴァ・ズマと名乗った巨人の単眼が、ユノンとデイジーへ向けられる。
「俺の正室、ユノン。側室のデイジー」
「うむ・・確か、両名とも
「良い旅館だったのにな・・」
「5体もの貴族級が急襲したそうだ。どういう訳か、悪魔共は魔界の主要人物の所在を把握して狙い討ちにしている」
「居場所を・・」
俺は腕組みをして唸った。
隕石による被害は、南半球、すなわち魔界の方が酷かったはずだ。
「筒みたいな大きな船は来た?」
「うむ・・大量の機械人形を降らせて来て、人形の相手をしている間に、魔瘴脈の上に根を生やすようにして居座ってしまった」
「・・魔瘴脈?」
俺はフレイテル・スピナを見た。
「こちらで言う、地脈・・龍脈とも言うけど。魔素を生み出す力の源だね」
「ふむ・・」
俺には関係ナッシングなやつか・・いや、魔瘴は関係あるか。俺、角から吸って利用できるんだった。
「でもさ・・あの筒みたいなの、どう考えても悪魔達とは違うって言うか、異質なんだよね」
フレイテル・スピナが首を傾げる。
「それ、多分・・」
言いかけて、俺は口を
「心当たりがあるのか?」
訊いてきたのは、単眼の巨人だ。
「そうじゃないかなって思っただけだよ?」
「構わん。聴かせてくれ」
「・・う~ん、じゃあ、質問は無しで・・俺が独り言のように話すって感じで良い? ちょっと答えたくないところもあるから」
手の内はあまり晒したく無いからね・・。サクラ・モチの性能やら、神域のことやら・・。
(・・ってか、俺って、まあまあ世界の主要メンバーに会ってるね?)
神様、魔神様、龍帝、悪魔貴族に、
(ほほう・・)
なんだか、知り合いに有名な男優やら女優がいるような、ちょっと自慢したい気分なんだぜ・・。
「分かった。質問は無しで。とにかく聴かせて」
フレイテル・スピナが真剣な表情で言った。
「俺も、何も問わん。ただ聴く」
単眼の巨人族も同意を示した。
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