第176話 トリック・ジャイアント


 タケシ・リュードウが悪魔を利用し、悪魔はタケシ・リュードウを利用して、互いの目的を達成しようとした。

 道半ばで、タケシ・リュードウは命を落としたが、悪魔達は目的を達成するための手段を手に入れていた。


 タケシ・リュードウは最終的には悪魔を駆逐するつもりだったのだろう。


 悪魔達は、目標を達成したら、タケシ・リュードウを殺すつもりだったのだろう。


 当然、お互いに気付いていたのだろう。


 その上で一定の協力関係にあり、相手を出し抜くための仕掛けをあれこれ仕込んでいた。


 俺は、それこそがこの一連の事件の流れの中で、どこか落ち着かない、ちぐはぐな感じがする要因だと考えていた。


 タケシ・リュードウは、惑星の生き物を死滅させるつもりは無かった。自分が追いかけ回して死なせた女を蘇らせるために、悪魔達の力を借りようとした。


 悪魔は、タケシ・リュードウの協力によって神による支配を抜け出し、神が創った生き物を、世界を滅ぼすつもりだった。まあ、実際には"名無しの創造主"が生き物を創ったんだけど・・。


 どちらも、完全には成功せず・・。


 ただ、世界にとっては、非常に迷惑な状況を引き起こしていると。


「俺が考えているのは、こんな感じ」


「・・なるほど。悪魔は神様の支配から抜け出したんだね」


 フレイテル・スピナが納得顔で頷いた。


「タケシ・リュードウか・・アヤコという異世界人の女がアダージェ大公の后となった逸話いつわなら聴いた事がある。あの騒動も、この件に絡んでおるということか」


 巨人が呟く。


「いや・・あくまで、俺の推測ね?」


「うんうん・・細かなところでは違うかも知れないけど、多分・・大筋では外していないんじゃないかな?」


 フレイテル・スピナが頷き、


「そうだな・・そうなると、隕石に紛れて降り注いだ悪魔が蒔いた種と、タケシ・リュードウが造っただろう円筒の船が不気味だ」


 単眼の巨人も首肯した。


「あの・・俺の憶測だし、根拠は滅茶苦茶めちゃくちゃ薄いよ?」


こうも、あっさり受け入れられると不安になる。


「無論、事実と異なる部分はあるだろう。だが、大きくは外しておらんと・・感じる」


「ボクも、そんな感じだね。それにしても・・コウちゃんが、とんでもない事をやらかしてるのは聴いてたけど、まさか星を砕いてたとはねぇ~」


「・・実は、星詠ほしよみ様から、そうした事をやっている者について聴かされていた。ただ、星詠ほしよみ様にも完全には見えなかったらしく・・恐らく、と前置いてのお話だったがな」


「ははは・・天体望遠鏡でもあるのかな? 俺も、お節介かなぁ・・とは思ったんだけど、あの彗星を小さく砕いておかなかったら、今頃、みんな粉々だったと思う。筒みたいな船が出て来なければ、もっと隕石・・星を細かく砕けたんだけど・・あいつ、同時に出てきちゃったからなぁ」


「コウちゃんが言う、黒い卵みたいな物は、チュレックに来た筒船だけに積んであったのかなぁ?」


「さあ、樹海に来た船には無かったみたいだった。今、うちの連中が悪魔の創った種族というのを捜しているけど・・」


「まだ形になってない?」


「植物に近い生き物らしい」


「・・そっか。今度ばかりは、神樹も危ないかもねぇ」


「やたらと樹海が狙われる気がするけど、何か理由がある?」


「神樹が魔瘴を浄化しちゃうんだよ。だから、魔界の人間にとっては邪魔になってる」


「迷宮種も、似たような役割だって聴いたけど?」


「えっ!? そうなのかい?」


「神様が言ってた。俺、迷宮種を殺しちゃって説教されたもん」


「・・・うん、コウちゃん、ヤバイ子確定だね」


「ヒドイな」


「よく、討伐されなかったな?」


「討伐されるの?」


「龍種に命じて始末されるそうだぞ」


「へぇ・・」


 龍種も、いっぱい殺しちゃったもんねぇ・・。


「・・って言うか、コウちゃん、龍帝に喧嘩売ったりしてたじゃん? どうして、生きてるの?」


「女神様のおかげなのです」


「それって、加護とか、お告げだよね?」


「龍さんは、ああ見えて度量が広いのです。謝ったらゆるしてくれたのです」


「ふうん・・」


「噂の龍帝とも面識があるとは・・本当のところ、何者なのだ?」


「え?・・まあ、人間? みたいな?」


「ボク、色んな異世界人を見てきたけど、コウちゃんのような子は初めてだよ」


「もう、この際だから言っちゃうけど、俺達、悪魔貴族を仕留めてますから」


「なんとっ!?」


「・・だよね。だって、とんでもない魔瘴気が噴き上がったと思ったら、急に消えて無くなったんだもん」


「金角の青白い顔した偉そうな奴だった」


「・・悪魔貴族、それも歳を経た上級体ではないか?」


「そんな区別があるの?」


「生まれてから、どれほどの瘴気を吸ったかで成長の度合いが変わるらしい。大人の姿をした悪魔貴族、それも金色の角持ちとなると・・災厄そのもの、国が滅ぶ程度では済まない脅威だと言われている」


「ははは・・」


 俺、食べちゃったんですけど・・。


「もうさ・・ボク、色々とコウちゃんにお願いしちゃって良い?」


 フレイテル・スピナが頭を抱えるようにして呻いた。


「は? いや、俺も忙しいからなぁ」


「悪魔関係の話だけだよ。他の事までやってなんて言わないよ」


「ふうん・・どうなんだろ?」


 かたわらくつろいでいるユノンとデイジーを見る。


「お聞きするだけなら構わないのでは? 出来る、出来ないは、陛下がご判断なされば良い事です」


 ユノンがいつもの鉄面皮むひょうじょうで言った。


「むむ・・我が子孫が、先祖様をないがしろにしてる」


「ユノンはコウタさんのものです」


 目顔で微笑するユノンを、フレイテルが頬を膨らませて恨めしげに見る。


「・・ノルダヘイル国王の正室殿は、スピナ殿のご子孫なのか?」


 巨人が単眼をみひらいた。


「まあ、血が繋がってるだけなんだけどね」


「ふうむ・・悪魔の上級貴族を仕留めるほどの者がおるなら、是非とも、我が主人に報告したいが構わんか?」


「良いけど、俺に依頼するなら、ホウマヌスさんを通して貰わないと困るよ?」


「お、おう・・そうだな。星詠ほしよみ様とも知り合いだったな」


「俺、まあまあ顔が広いからね。ノルダヘイルと喧嘩しないように言っといて」


「うむ、どのみち、こちら側ではどうにもならん・・魔瘴気の中で動けるのか?」


「まあねぇ~、むしろ絶好調で力がしです」


「・・人間なのだよな?」


おおむね、人間でござるよ」


「悪魔の上級貴族をたおす人間・・か。主人が会いたいと言ったら、どう答えれば良い?」


「ホウマヌスさんが立ち会うなら魔界でも、どこでも出向くよ」


星詠ほしよみ様が拒否なさったら?」


「行かないでござるよ」


「・・分かった。そう伝えよう」


 苦笑めいた笑みを浮かべつつ、単眼の巨人族がくるりときびすを返して立ち去って行った。


 しばし、遠去かる巨体を見送って、


「いやぁ、コウちゃんが居て助かったよ」


 フレイテル・スピナが溜息をついた。


「あの子、絶対に私を魔界へ連れて行くつもりで来たよね?」


「そうなんだ?」


「あの子の御主人、ボクが知ってた魔人の息子みたいだから・・仲が悪かったんだよね、すぐに怒鳴るし、偉そうだし」


「シャレノ何とか?」


「息子が居たとか知らなかったよ」


「ふうん・・どうせ行く事になりそうだし、魔界について何でも良いから教えて貰おうかな」


「良いよ。どんな事?」


「う~ん、勢力図とか? 知り合いの魔人の性格とか・・食べ物、飲み物の好みでも、何でも」


「うんうん、じゃあ、このままお茶会を再開だね!」


 フレイテル・スピナが嬉しそうに手を合わせ、控えている女中と近衛騎士を見る。


(騎士さん、完全に空気だったな・・まあ、巨人とか訪ねて来るとか想定してないか)


 俺がイメージしてた騎士は、どんな強敵でも身体を張って主人を守る感じなんだけど?


(・・・ふうん?)


 俺は、ふむ・・と考え込んだ。


 それから、大きく息を吸い込む。



 カァァァァァーーーー



 目の前のフレイテル・スピナめがけて炎を噴いた。以前、呑口で呑み込んだ炎である。


「うっ・・!」


 小さく声を漏らし、フレイテル・スピナが宙へ飛び上がって逃れる。その胴を愛槍キスアリスが貫き徹した。飛び散ったのは赤い鮮血では無く、青黒い体液だった。


「コウタさん、これは・・?」


 ユノンが近衛騎士や女中に鋭い視線を向けながら訊いてきた。


「フランナ、さっきの巨人を捕まえろ!」


「フランナに任せる!」


 お人形サイズから大きくなりながら、黒翼を拡げてフランナが飛び上がった。

 ほぼ同時に、ユノンの即死魔法が近衛騎士の命を刈り取り、デイジーの鉄拳が女中を宙へ打ち上げていた。


「いつからです?」


 ユノンが厳しい表情でいて来る。


「巨人が向こうを向いた瞬間・・かな」


 フレイテル・スピナの心音が微妙に変化したのだ。すぐには、どうしてだか分からなかったけど・・。


(あの騎士・・巨人を出迎えた時に何者かとすり替わったんだな)


 恐らく、女中もそうだ。


(デカイ図体をして、セコい事やるじゃんか)


 俺が居なければ、上手く拐えただろうね。


 その時、



 ピュキューーーーーーン・・・



 遠くで、宇宙世紀な効果音が聞こえた。巨人とか、ただの大きな的でしょう。ロボの子、アホみたいに強いからねぇ。未だに、満月じゃないと抑える自信がありませんよ。しかも、生き物のように成長しているんですよ? ビームとか、ミサイルとかの威力や精度が増しているんです。戦えば戦うほど・・というやつです。正直、このまま育つとヤバイ気がします。


 ユノンが騎士と女中に死鬼化の魔法をかけているのを横目で見ながら、どうやら本気で魔界にお邪魔した方が良さそうだなと決心を固めていた。


(幻術? どうやって? 俺って、幻覚なんか効くのか?)


 あの巨人の力だろうか?

 月光の女神様の加護を突破するほどの能力? 特殊な技能があるのかな?


「これの作用みたいです」


 ユノンが茶器を持って近づいてきた。

 ちらっと後ろをみると、2体の死鬼が虚ろな表情で立っている。近衛隊長と女中に化けていた者達だ。死鬼にした2人を尋問して、茶器の事を聞き出したのだろう。ユノンさん、敵認定すると情け容赦無いから。


「お父様!」


 フランナが戻って来た。


「げ・・」


 上半身だけになった巨人を片手に、もう片手に意識を失ったフレイテル・スピナをぶら下げている。


(・・ん?)


 呪文らしい呟きを聞いた気がして首を巡らせると、デイジーが何やら神聖術を唱えていた。


 その時、フランナに吊るし持たれていた巨人が単眼を大きく開いた。黄金の瞳が煌々と輝き、顔の前に魔法陣らしき円形の紋様が幾重にも出現する。


(ふむん・・?)


「・・聖なる鏡盾」


 デイジーが呟き、巨人の目玉から眩い閃光が放たれた。どういう効果をもたらす閃光だったのかは分からなかった。デイジーの鏡盾により、巨人の目前で閃光が反射されて、巨人自ら浴びる形になった。


 直後、



 ブゥゥーーン・・・



 巨人を軽く宙へ放り上げつつ、フランナがビームの光剣を輝かせた。


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