第75話 裁きを下す!


「みんな色々と大変だね」


 襲って来た黒装束の部隊を返り討ちにして、幾人かに話を訊いてから、聴いた内容をおりの前に集まって発表した。まあ、大した内容では無い。



・ガーナル王国の姫君が大きな海洋国家チュレックに嫁ぐ事になった。


・反対する一派があった。


・航行中に沈めようとくわだてたが龍種が邪魔で河上での襲撃は難しかった。


・龍種がたおされたので襲撃に来た。



「・・で、嫁ぎ先の国から迎えに来た護衛の皆さんと、元々の侍女の皆さん、嫁ぎ先からの女官さん・・という内訳ね」


 まあ、分かりやすい話で結構な事だが・・。


「その、お嫁さんが・・ええと?」


 俺はそろそろ老齢といった女性を見た。


「さすがに無理があるでしょ?」


 そうは思うが、当人がとして言い張っているので、それ以上は触らないようにしている。ちょっと、嘘が痛々しいが、本当のお姫さんをかばいたいのだろう。そっとしておいてあげたい。


「お姫さんとかどうでも良いけど、襲って来た黒服はどっちの勢力?」


「ウロンドという暗殺を生業とする組織の者達でした。即効性の神経毒、吸引香タイプの麻痺毒、遅効性の水溶毒を所持しておりました」


 ユノンが帳面を見ながら言った。さすが、毒物には詳しい。


「雇い主は?」


「シーテンス宰相だそうです」


「ふうん」


 まあ、知らない。

 宰相って、偉い人だよね?


 む・・?


「それ、どっちの国の宰相さん?」


「ガーナル王国です」


「宰相さんが、自分の国の姫さんを殺そうとしたわけか。姫さん、嫌われ者なんかね?」


 結婚というのはお祝い事のイメージだけど、それを国のお偉いさんに邪魔されるって事は、よほどうらまれているか、嫌われているお姫さんなのだろう。


「そ・・そんな訳はありません! 姫様はご立派な・・」


 老女が真っ赤な顔で声をあげかけ、途中で口をつぐんだ。自分の失言に気がついたのだ。

 まあ、この場の誰も、この老女がお姫様だとは思っていないのだが・・。


「へぇ、そのご立派な姫さんは、どこにいらっしゃるんですかねぇ? へへっ・・」


 俺はへらへらと笑った。


 初老の自称姫君が青筋を立てて眉を吊り上げた。

 実に怖ろしい。ノーメイクでホラー映画に出演可能だ。これ以上いじると火でもきそうだ。


「いやぁ、怖い顔したお姫さんだねぇ? 返品待った無しなんじゃない? なんだっけ・・チュレックは船が沈んで助かったかも?」


「おのれっ! 山賊風情が何を申すかっ!」


 老女がえた。ズン・・と腹に来る張りのある声だ。


「山賊じゃないよ? まあ、山賊をやっても良いけど・・うん、そうか。山賊っぽく皆殺しにしちゃおうかなぁ」


「・・ま、待ちなさいっ!」


「嫌ですぅ~、もう待った無しですぅ~、ボクは山賊になっちゃいますぅ~、みんな殺して魚のえさですぅ~」


「待ってくれ!」


 今度は男達の檻から声があがった。


「そっちの女共は自由にして貰って構わない! だが、俺達は解放してくれないか? 元々、船で解放してくれるという話だったろう?」


「ほほう?」


 俺は男達のおりを見た。

 声をあげたのは、さっきまで俺をにらんでいた若者だった。


「どうしよっかなぁ・・・ボク、山賊になっちゃったしなぁ」


 俺は腕組みをして唸った。


「しかし、我々は関係無いだろう? 大公の姫君を運ぶだけの役回りだったんだ。こうして失敗したからには、もう・・」


「ああ、ちょっと黙ってくれる?」


 俺は軽く手をあげて、あれこれ言い出しそうな若者を制した。


(う~ん・・・どうしてかな? こいつ、何か嫌な感じなんだよな)


 顔が嘘っぽいというか、どうも詐欺さぎっぽい・・。


 どこか人を見下したような目の光りがある。それさえ無ければ、なかなか男前なんだけど・・。


「ちなみに、あんたは、どっちの国の人?」


 いてみた。


「ガーナルに雇われた・・ザウスの傭兵」


 答えたのは、先ほどまで騒いでいた老女だった。


「ざうす?」


「シーテンス宰相が護衛にと雇った者だ」


「・・ああ」


 そういう感じですか。おくオオカミ的な・・。


「ええと、ガーナル王国が宰相チームとお姫さんチームで喧嘩してるのは分かった。チュレックはどうなの?」


 俺の問いかけに、おりの中が沈黙した。


「チュレックの人は居ない? みんなガーナルの人?」


「・・我々は船乗りだ。難しい話は聴かされてねぇよ」


 男達のおりの奥に座っていた初老の男が唸るように言った。


「チュレックの人だけで船を運んで河に出れる?」


「上陸用の小船だ。問題ねぇ」


 男が即答する。


「じゃあ・・そこの傭兵さん達を残して、チュレックの人達は外に出て帰って貰って良いから」


「・・そっちの女達にも、チュレック人が居るんだが?」


「みんな連れて行って良いよ」


「ほう?・・良いのかい?」


 男がわずかに目を細めた。


「どうぞ、どうぞ、残さずどうぞ」


 俺はひらひらと手を振って見せた。


「待ってくれ! 俺はどうなるんだ?」


 傭兵だという若者が声をあげた。


「え? 魚のえさでしょ?」


「ふざけるなっ!」


「いや、本気だって。俺、冗談とか言わない人よ?」


 俺は、デイジーを振り返った。


「壁、頼める?」


「どこに?」


「そっちのおり。一発芸を防いでくれたら良いよ」


 俺は女達が入ったおりを目顔で示した。


「さて・・なんだか、騒いでるのは傭兵さんだけみたいだから、先に傭兵さんを魚のえさにしちゃおうか」


「・・武器を取り上げておいて大勢でなぶり殺しか? 良い趣味してるじゃないか」


 傭兵があざけるようにわらって見せた。演技だと分かっているけど、実に憎々にくにくしげな表情だ。挑発して、俺と戦う流れにしたいのだろう。


「大勢じゃなくて、俺1人が相手をするよ?」


「・・・ほう? お前が・・やるのか? 俺と?」


 疑わしげに眉を潜める。


「やる気出た?」


「互いに素手で・・一対一なのか?」


「そっちが武器を出さなければ素手でやるよ?」


「へぇ・・女みたいなツラして、度胸があるじゃねぇか。見直したぜ、おチビちゃん」


 年若い傭兵が小馬鹿にしたようにわらいながら言った。


おりが邪魔」


 俺はウルフールを見た。すでに眼差しが絶対零度アブソリュート・ゼロである。世の中、言って良いことと悪いことがあるのだ。

 

「た、直ちにっ!」


 大急ぎで駆け寄ったウルフールが拳の一振りで頑丈なおりを粉砕した。とらわれていた他の者達が、ぎょっ・・と眼をいて硬直している。とんでもない怪力ぶりだった。


「さあ・・やろうか?」


 俺は、眼をひきいて硬直している若い傭兵を正面に見ながら近付いて行った。


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