第73話 またですか・・。


「ごきげんよう」



 俺はねた顔で挨拶をした。



『またお主か・・』



 相手も、どこかウンザリした声音で応じた。


 龍帝エンペラードラゴンである。


 俺は死んでいない。雷轟はきっちりと効果を発揮して、ブヨブヨの龍種をいて動きを止めることが出来た。ぎりぎりで命を拾った俺は、覆い被さっていた龍種の口中に細槍キスアリスを突き刺して、カンディル・パニックを発動したのだった。

 期待通りに、細槍キスアリスの穂先が龍種の体内から外へと無数に貫き出て、龍種の臓器を破壊し尽くした。

 俺は、あの山椒魚サンショウウオみたいな龍種をたおしたのだ。



「・・なんだけど。今度は何?」



 どうして、こんな暗くてさびしげな場所に呼び出されていますか?



『我らが龍の決め事でな。龍族のすえを一騎討ちでたおした者には、その地を所領する龍が褒美を与えることになっておるのだ』



「ふうん・・」



 なんか、この世界の龍って、神様みたいだよな? ただ強いだけのトカゲとは何か違うよね?



「龍帝さんは、神様なの?」



 試しにいてみた。



『神々に比肩する世界の一柱ではあるが・・神そのものでは無いぞ』



「ふうん・・」



 なんだか難しい事を言うじゃないか。



『お主のように何度も我が前に現れた者はおらぬ。呆れるしかないな』



「まあ、普通は死んでるよねぇ」



『さて・・コウタ・ユウキよ』



「なぁに?」



『褒美を選ぶが良い』



「・・何があるの?」



 何も提示されていないのに選べとか・・。



『ゴミのような技から有用な技まで混ざっておる。選ぶのはお主自身だ。我は助言できぬ決まりだからな』



「・・選ぶって?」



『目の前に何か見えぬか?』



「ん・・あ、なんだこれ?」



 いきなり、光るトランプカードのような物が無数に浮かび上がった。



『一枚のみ、手に入れることができる』



「この中から・・選べってことか」



 俺は、光るカードをじっと見つめた。大きさも輝きも差が無い。どれも全く同じように見える。



『決まったか?』



「これ・・褒美なんですよね?」



 間違ったのを選んだら死んじゃう的な・・?

 そんな事は無いんだよね?

 罠じゃないよね?



『決まったか?』



「・・選んだら死ぬとか無しですよ?」



『決まったか?』



「じゃあ、これを・・」



 俺は真ん中辺りにあった光るカードを手に取った。

 これ以上は時間の無駄だと理解したからだ。



『ふむ・・これはまた、珍妙な技を引き当ておったな』



「・・どんな技?」



『お主がたおした雷兎が身につけておった技の一つだ』



「ほほう?」



 それはちょっと有望なんじゃない? あいつの技、強いものばかりだし・・。



『雷兎の噴吐ふんと・・その技の名だ』



「・・ふんと?」



『まあ、人間の身では、口に含んだ水くらいしかけないだろうがな』



 口に含んだ水を勢いよくき出す技らしい。



「それって・・うがい?」



『・・技というものは、練達すれば威力を増すものだ』



「いっぱい、うがいすれば良いの?」



 俺はふて腐れた顔で言った。うがいの達人にでも成れというのか? うがいコンテストにでも出ろってか?



『ふむ・・実感が無いと信じられぬか。まあ何かしら目標が見えねばな。そうだな・・よし、練度を把握できるようにしてやろう』



「おお、なんか良さそうな響き・・」



『鑑精霊が覚えるはずの力を少し前倒しにして授けてやろう。龍のすえたおしておいて、噴水の真似事ではいささか釣り合わんからな』



 噴水どころか、うがいレベルだろ・・。



「・・精霊? もしかして、あいつらにも練度とかあるの? 何度も使ったら新しい魔法を覚えるとか?」



『当然だ』



「知らなかった・・じゃあ、洗精霊とか、もっと凄い魔法が使えるようになったんじゃ?」



『練度が一定量に達したら、精霊達が自ら申告してくる』



「・・そっか。じゃあ、まだなんだ」



 ちょっとガッカリだ。毎日、使ってるのに・・。



『技の練度が満たされた時には、話精霊を使って我に告げよ。相応の技へと昇華させてやろう。我は、アルカイロス・キル・スウォードと名付けられておる』



「おおお・・よろしくお願いしまっす!」



 俺は喜色満面、上機嫌で頭を下げた。

 しょぼい水を吐く技より、よっぽど価値がありそうだ。



『では、また龍のすえたおすことがあれば我が微睡まどろみの中で・・まあ、そうそう無いことだがな』



 龍帝エンペラードラゴンが欠伸混じりの声で告げると、周囲の景色が白々と明るくなり、途絶えていた音や臭いが押し寄せて来た。



(うん、知ってた・・)


 俺は、グズグズに崩れた柔らかい肉塊に押し潰されるようにして埋もれていた。とても気持ち悪かった。



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