第64話 論功?
勇気を
今度は、ルティーナ・サキールの私財では無く、神樹の
鑑精霊の査定によれば、金塊は五千棒金貨に匹敵する価値があり、銀色の金属はプライスレスとの事だった。
(・・もう働かなくても良いよね?)
寿命の関係で、途中でお金が無くなるかもしれないけど、そもそも、命のスペアを買う以外にさしたる出費は無いのだ。
(ぷらぷら旅をするのも良いな)
レーデウスに聴いた話では、森の人達と友好的な国々もあるらしい。外の人間の全部が敵というわけでは無いのだ。
(・・ユノンは、森の外に行くのは嫌かも?)
そこは、ちゃんと話をした方が良いだろう。森を護りたいだろうし・・。無理に外へ出る必要は無いのだから。ユノンが嫌がるなら森に定住でも良い。
(森を護る・・となると、どこかに家でも建てて腰を据えた方が良いよな)
俺としては、どちらでも良い感じだ。
なんだか、寿命は長そうだし、焦って放浪する必要は無い。日本と違って、旅をすること自体が大変そうだし・・。俺の外見では色々と危険度が増しそうだった。
(真面目に、貞操とかヤバそうだからなぁ・・)
この世界、暴漢に襲われても訴える先が無い。お巡りさんは居ないのだ。自分で頑張って!・・という世界なのだ。
俺がやられるとしたら、大勢で囲まれて遠くから矢や魔法で攻撃され、消耗したところを強い奴にボコられる感じだろうか。
雷兎の毛皮のおかげで、魔法・物理共にダメージはかなり抑制できるようになったけど、結局のところ戦いは数なのだ。1対1なら負けないよ・・とイキがったところで、大勢に囲まれてボコられたらお終いである。
近づいて囲んでくれれば、雷轟で切り抜けられるけども・・。そうそう都合良くはいかないだろう。
(やっぱり、囲まれないように移動を繰り返しながら戦うしかないのかな?)
ぼんやりと考え事をしながら、つい癖で倉庫から、みたらし団子を取り出して口に頬張る。
(ぁ・・)
やってしまった。
ここ、会議の場でした。すいません。
あまり頭に入っていないが、樹海の防衛戦の反省会という感じだ。
広々とした会議の広間には、顔も名前も知らない、
「お茶、貰いますか?」
隣に座っているユノンが訊いてくる。
「ぇ・・ああ、うん・・そうだね」
俺が場の雰囲気を気にしながら頷くと、
「温かいお茶を頂けますか?」
ユノンが壁際に控えている黒豹っぽい顔の人に声を掛けた。静まり返った会議場に涼やかな声がよく徹る。
「畏まりました」
黒豹っぽい人もまた歯切れの良い野太い声で返事をする。
おかげで、会議場はすっかり静かになってしまった。
(・・なんか、ごめんなさい)
俺は、串に残った団子をそっと口に入れた。
「・・ユウキ殿は確かに抜群の功労者ではあるが、しかしながら、その態度はどういうつもりかな? ここは会議の場であって、茶飲みの場では無いのだがね?」
議長っぽい事をやっていた
実に意地の悪そうな腹立たしい顔に見える。闇夜に気をつけろと言いたい。
「いや・・ユウキ殿は自由に過ごして頂いて結構だ。元々、無理を言ってお越し頂いたのだからな」
獅子顔の筋骨逞しい体格の男が言った。
(ライオンさん、好感度アップ・・)
「そうは言ってもな、ヘルジン・・」
狐顔が納得いかない様子でぶつぶつと言っている。
「良いかな?」
不意に挙手をしたのは、長い白金髪をした
「先ほどから拝聴しているが・・結局のところ、捕らえられていた者達の内、4名を救い出し、27名を死亡させた。その際の戦闘で、森の側は83名が死亡、261名が重傷を負ったと・・・そういう事だろうか?」
「その通りです」
亀顔の老人が頷いた。
「この会議は、その論功でしょうか?」
「・・今後に向けての対策を話し合うために招集いたしました」
狐顔の男が丁寧な口調で言う。
「私は神樹の森のシンギウス。そちらにいらっしゃる異世界の方々にお尋ねしたい」
レーデウスの息子が、
「何でしょうか?」
代表して
「西域へ戦力を集中し対応した・・それ自体については、神樹の者が立ち入る話では無いのですが、住み慣れた森の中で、おそらくは数でも勝っていた森の者達はなぜ、これほどまでに
「・・初めの頃、敵が軍として攻めて来た時は有利に戦えていました。しかし、敵が少人数のパーティによる侵入、森人の捕獲に目的を切り替えて以降は対処しきれず、奇襲を防げないまま対応が後手に回りました。敵は少人数での戦い方に慣れていて、加護を持つ者が想定外に多かった」
「なるほど・・」
「敵は魔法による探知を行ってこちらの所在を知り、魔法で気配を断って接近してきました。その魔法が、私達では非常に探知しづらかった」
「ふむ・・探知魔法・・しかし、樹海の中で探知魔法を使えば森の民が感知するはず」
シンギウスが首を
「それが・・感知を
「妨げる?」
「遅延・・と言った方が正しい。感応探知向けの対抗魔法です。こちらの魔法をよく調べて、対応策が練られておりました」
別の
「こちらをよく
シンギウスの問いかけに、
「単に、相手より先に見つけただけ。あいつらの探知魔法は、半径50メートルくらいの球状が探知できる範囲だから。その外から見つけて、準備してから攻撃した」
「・・裸で
デイジーがぼそりと呟く。
それを無視し、
「犬も使ってたな」
俺は戦った相手の事を思い出しつつ状況を説明した。
「犬?」
「魔物っぽい大きな犬だった。全部で9頭・・あれは面倒だった」
「探知魔法だけでなく、
「森で捕まえた人を戦奴隷にして戦わせていた」
奴隷商が教団と戦わせた。
「・・
「今回は、ツキがあった。船積みされるはずの港町にアナン教団が居座っていたおかげで、奴隷狩りの
「異世界から来られた方は、神々からの贈り物として、狩猟台帳なるものを与えられているとか?」
「ああ、あったね。そういうの・・」
「他者には閲覧ができない神具です。かつて我が父の盟友が所持されておりましたので、どういった物かという知識は御座いますが」
「ふうん?」
「魔獣等については割愛いたしますが、狩った相手が人種であった場合には、氏名、年齢、性別、種族、加護の有無・・その者の戦歴などが記されるそうです」
「ほほう?」
俺は個人倉庫から狩猟台帳を取り出した。ユノンとデイジーが覗き込むが、本当に中身が見えないらしい。
「日本人、結構狩ってるな・・俺」
ぽつりと呟いた。改めてみると、なかなかの殺人鬼ぶりである。日本に帰ったら、極刑待ったなしだ。
「私には何も見えませんが・・読み上げて下されば記帳いたします」
ユノンが端を糸で
お任せすることにして、俺は自分で手にかけたな人間の情報を読み上げることに専念する。
(・・この辺は、奴隷狩りの連中か。アナン教団が・・こいつらか)
一人一人の情報を改めて読み上げてみると、凄そうな戦歴をもった人物が混じっていて、加護持ちも多かった。
「次、リュゼン・モード・ルーレ。28歳、男、平人種、剣神の加護と海神の加護、農耕神の加護持ち・・」
静まりかえった会議の場に、俺が読み上げる声だけが響いていた。
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