第62話 当たって砕ける!
神樹様と呼ばれていたルティーナ・サキールは、とても気前が良かった。
棒金貨で1万本・・ポンと箱でくれた。ルティーナ・サキールの私財という話だった。
その後、俺がルティーナ・サキールの話を素直に聴いたのは言うまでも無い。
棒金貨は、大金貨100枚分の価値がある。大金貨は金貨10枚分の価値がある。金貨は金粒貨10枚分の価値がある。そして、金粒貨は、銀貨2枚分の価値がある・・・そういうことだ。
(大勝利っ!)
死闘をくぐり抜けたかいがあった。
この資金だけで、俺は向こう100年は贅沢に遊んで暮らせます。つまり、働く必要が無くなりました。お仕事要りません。
そう思ってほくそ笑んでいたのだが・・。
「異界の方々は、こちらの世界に来ると、
レーデウスという付き人っぽい人が、とんでもない爆弾発言を投じた。
「ふぁ?」
「少なくとも、100年、200年くらいでは老いは訪れないでしょう」
「マジかぁ・・」
俺の幸せな老後設計に亀裂が・・。
んっ? いやいやいやいや・・ちょっと待てよ? 待ちなさいよ?
「老い無いって・・つまり、そのぅ・・成長しないってこと?」
これ重要ですよ? 大変な問題でございますよ?
「多少の・・例えば鍛えれば身体が少し引き締まる事はありますし、髪や爪は伸びますから、まったく成長しないという訳ではありません」
「いやぁ・・そこじゃないんだなぁ! ズバリ
「・・はい?」
「背は伸びますか?」
「は?」
「身長は、伸びるんですか?」
俺は、レーデウスに詰め寄った。俺より15センチほど上にある美麗な顔を食い入るように見つめる。
「・・個人差はあると聴きます」
「伸びるのっ? ねぇ、背は高くなるのっ?」
「それは・・その・・骨格には大きな変化は見られないと・・」
「なんだってぇーーーっ!?」
いきなりの死刑宣告か! 俺は目の前が真っ暗になった気がして座り込んでしまった。
少し離れた所で、別の人と話し込んでいたユノンが、パタパタと足音を立てて駆け戻ってきた。
「コウタさん? 大丈夫ですか?」
「・・終わった」
「コウタさん?」
ユノンが俺の背へ手をやりながら、ちらとレーデウスを見上げる。
「異界人は老いが止まるという話をしたところ・・このように」
「老いが・・」
「違うっ! そこじゃないからね? 老いがどうこうは、この際どうでも良いの! 大問題なのは、その後っ!」
「なんでしょう?」
「おそらく、背丈がどうこうという・・」
「俺、このままなの? もうビッグな大人になれないの?」
俺は地面に突っ伏して、さめざめと泣き出した。
その時、どこかで激しく警鐘が鳴らされた。連鎖するように、次々と鐘の音が加わる。
物静かだったレーデウスが、きりきりと眉を吊り、腰の剣を抜き放ちながら走り出す。
「・・・なぁに?」
俺は泣き濡れた顔をあげた。
「襲撃のようです」
ユノンが胸の前で手を組んで呪文を唱えつつ、祈るような姿勢で呟いた。
「外の人間?」
「いえ、これは・・
「どらごん?」
「・・はい」
「どっち?」
俺は、一筋の光明を見い出した。この行き詰まった現状を打破できる光明というやつだ。
「あちらの方角から・・これは神樹様の御館に向かっています」
「突撃する」
俺は勇ましく言い置いて、地面ならぬ巨樹の枝を蹴った。
雷兎の瞬足・・
深刻な表情で走っている
「ユウキ殿っ!?」
途中、レーデウスを追い抜いた。
(・・見えたっ!)
やっぱり、あいつだ。あの高層ビルのように巨大な龍だ。まだ距離があるが、はっきりと目視できるほどにデカい。
(あの枝か・・)
神樹様の館と巨大ドラゴンの間に伸びた太い枝。俺は身軽く跳んで枝上へと着地した。
今の俺は、垂直跳びなら15メートル。助走付きの走り高跳びなら50メートルは跳ぶ自信がある。
(・・間違い無い。同じやつだ)
洞窟で出くわした迷惑な龍だ。
真珠色の
巨大ドラゴンの方も、俺の存在に気付いたらしく、わずかに向きを変えて向かって来た。
(距離300、なおも接近中・・)
じりじりと焦れながら巨大なドラゴンの到着を待つ。
(100・・)
すでに、巨大ドラゴンの方は首を伸ばせば俺に届く距離だ。
(50・・)
結城浩太、参るっ!
雷兎の瞬足・・
助走からの大ジャンプ! 視界いっぱいに
破城角っ・・からの、
(一角尖っ!)
高々と跳んだ俺の身体が綺麗な放物線を描いて巨龍の顔面やや上に舞い上がる。
そこで、一角尖が発動した。
先に発動した破城角の効果がぎりぎり残っている絶妙のタイミングだ。
視界が一気に流れ去り、ごつごつと固そうな巨龍の鼻面が壁となって迫る。
ドゴォォォォーーーーン・・・
大気を震動させる重々しい衝突音と共に、結城浩太はひしゃげてシミとなった。叩き潰された蚊のように・・。
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