ネトゲ登山部!
マギウス
1章
第1話 ネトゲ登山部
「わあ!」
山の頂上から見える景色に、わたしは思わず歓声をあげた。
上には満天の星空と、静かに輝く二つの月。下には延々と続く大地に、森や草原、山や大河がパッチワークのように連なっている。わたしたちの住む街が、おもちゃのようにかわいらしい。
なんて、全部
「ちょっと
「あ」
ヘッドホンから
画面の
『ルビアさん、起きてる?』
『あいつまたぼーっとしてるだろ』
『起こしてこよ』
上から、リーダーのゼンさん、ランス、真理……じゃなくて、シンリーの発言だ。真理とだけは
ルビアというのは、わたしの操るキャラクターというか、アバターの名前だ。今やっている、『メルヘンライフオンライン』という名前のネットゲーム(正確には、MMORPGというらしい?)の。
メルヘンライフオンラインは、その名の通り、おとぎ話のようなかわいらしい世界で自由に生活を送るゲーム。お店を出したり、畑を耕したり、料理を作ったり、服を作ったり。できることがたくさんあるのが特徴で、ユーザーは結構多い。
世界がとても広いのと、
一応RPGなので、おとぎの国を脅かすモンスターを倒して、とかいうストーリーはあるけど、べつにやらなくてもいい。わたしは全然やってない。
『すみません、見とれてました!』
キーボードをカタカタ叩いて発言すると、わたしのキャラ、ルビアの上に吹き出しが出る。
おっとりとした表情と、腰まであるながーいブロンドの髪。髪には綺麗なウェーブがかかっている。
ほんとにこんな髪型をしていたらお手入れが大変そうだけど、ここはゲームの中。そんなこと気にする必要は全くない。
今日は活動の日なので、山登りに合わせた動きやすい服を着てきた。お気に入りの緑のマントが、唯一ひらひらした部分だ。
あ、これもべつに、どんな服を着たって関係ないんだけど。単に気分の問題。実際、シンリーはふりふりのドレスを着ている。彼女のちびっこキャラにぴったりだ。
『前みたいに崖から落っこちるなよ』
と、ランス。黒いごてごてとした全身鎧(たぶんこんな格好で山は登れないと思う)を着たイケメンだ。わざわざ『にやにや笑う』の
『もう落ちません!』
わたしはキーボードを乱暴に叩いた。真理が小さく吹き出すのが聞こえる。もう。
『じゃあ、写真を撮ろうか』
落ち着いた渋い声で、ゼンさんが言った。
なんて、ほんとは声なんか聞こえないんだけど。真理が「絶対ゼンさんの声渋いよね」と何度も言うものだから、チャットの文字を見ただけで、頭の中で勝手に流れるようになってしまった。
ゼンさんのキャラは、真っ白なローブを着たおじさま。老練の魔法使いだ。
『ちょっと待ってください』
頂上の石の上に四人が並んだところで、わたしは慌てて文字を打ち込んだ。
『お、リボン買ったんだ?』
『かわいいでしょー』
驚くシンリーに、自慢げに返す。ルビアの頭のてっぺんに、すっごく大きなピンク色のリボンが現れていた。横幅が、顔からはみ出そうなほど大きい。
このリボンはかなり
するとランスが、
『げ、それすげえ高いやつじゃん。その金でもっといい防具買えよ」
なんて言ってきたけど、無視。自分だって、そんなに強くない黒い鎧を、格好いいからって着てるくせに。
『それじゃ、動かないでね』
ゼンさんが合図して、みんなで
『お疲れ様でした』
『おつ』
『みんなおつかれー』
『お疲れさま』
わたしが発言すると、ランス、シンリー、ゼンさんの順に発言が並ぶ。もしかして、わたしが終わるのを待ってたのかな。ちょっと申し訳ない。
『では、これで解散』
ゼンさんのお決まりの台詞とともに、今日の活動は終了した。
わたしたち四人は、『
このゲームでは、同じように登山を目的としたチームが結構ある。ゲームなんだから山を登るのなんて簡単だろうと思うかもしれないけど、意外とそうでもない。
なぜかと言うと、
『ゼンさん、レビテーションのレベルもうちょい上げた方がいいんじゃね?』
『うーん、そうだねえ……』
ランスの発言に、ゼンさんが迷うように返した。
だから登山部メンバーとしては、なるべく高レベルにした方がいいんだけど……。
『でもファイアボールも上げたいんだよねえ……』
『あー、次のストーリーのボス氷ばっかなのか』
『そうなんだよねえ。この前上げるスキル間違えちゃって』
ゼンさんは『ため息をつく』の動作をして見せた。
このゲームでは、モンスターを倒したりして経験値を溜めるとキャラのレベルが上がって、
つまり、キャラがレベルアップするたびに、どのスキルのレベルを上げるか決めなきゃいけないってこと。レビテーションはモンスターを倒すのにはほとんど役に立たないから、こればっかり上げてると苦労することになる。
『ランスも体当たりもうちょっと上げてよー』
『あれ上げても全然飛距離伸びねえんだよ』
『あと10ぐらい上げようよ』
『苦行かよ』
と、『文句を言う』の動作をするシンリーに、ランスは『肩をすくめ』て返す。
ちなみに、ルビアのジョブは
『ま、スキルのことは今度また相談しようか。ただし、基本は個人の自由だからね』
ゼンさんは、チームのルールを改めて強調した。気合の入った(?)登山部はチームのスキルまで管理するみたいだけど、うちは緩くやるのがモットーらしい。
『それじゃあ僕は街まで飛んでいくけど、一緒に来る人?』
『行きます!』
わたしは真っ先に答えた。他の二人もイエスの返事を返す。
ゼンさんが
このゲームで『飛ぶ』と言ったら、このグライディングの魔法のことだ。上には行けないし、何かにぶつかると大ダメージを受けるので使い勝手はあんまりよくないけど、山登りの帰りにはすごく役に立つ。
やがて街の近くに着陸すると、わたしたちは今度こそ本当に解散した。
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