1章19話 戦うは誰かのため
「行きましょうか。隠蔽」
「助かるよ」
「いえ、私も乗りかかった船です。こうやって戦う準備をするのも悪くはない。それに今回の作戦において私がいないと難しいですからね」
そう、今回の作戦においてモルガンは不可欠なんだ。別に一緒に来なければいけないとは思っていなかった。一緒に行動しなかったとしてもやり方はいくらでもある。それでもモルガンの助け無しでは動けないだろうね。
戦力は十分、明日の朝にデュークがミカ達と戦うだろう。デュークが最高戦力であるということを知っているために負けるとは思わない。逆にこの三人ならミカでさえも倒せるだろう。
まぁ、普通に考えてミカを倒せるだけの戦力がデュークにあるとは思えない。契約とかも力の差が明白ならば効かなくなる時もあるらしいからね。それに今の僕には高かった魔剣もミカに渡したし。フレイムは金貨七十枚ほどで買える。高いよな、市民の一年で貰える給料の何倍なんだろうか。
「とりあえず相手が動くまで待とう」
「ええ、仕方ないですね。バレてしまっては意味もありません」
「それはしゃあねぇな」
戦闘態勢は万端だと言いたげに不服な顔をするロイド。本当に戦闘狂なんだろうね。俺でもこんな顔はしない。俺は強くなりたいわけじゃない。必要に迫られて強くなっているだけだし。その点ではロイドと逆だと思う。
「夜はまだ続く。気長に待てばいいさ」
「行きましょうか。例え冒険者ギルドの中だろうと私の隠蔽は見破れませんよ」
「頼りにしているよ」
闇夜に紛れて俺達は冒険者ギルドの近くまで歩いて行った。異様に綺麗な月が赤々と輝いていて少しだけ寂しさを感じてしまう。でも今は仲間がいる。ミカのためにも怪我をせずにクリアしないと、な。
午前八時頃に冒険者ギルドから青年がたくさんの冒険者を連れてどこかへと消えていった。十中八九でデュークで間違いはないと思う。顔は俯いていてよく見れなかったけどな。ミカにアイツは任せよう。俺が戦っても勝てるとは思えないしな。
「行きましょうか」
「そうだね……」
半開きの扉からモルガンを先頭に中へと入って行く。いつか入った時はもっと楽しげな声が響いていたはずなのに今では汚い笑い声が響いているだけだ。
「デュークさんが行ったんだ!」
「アイツらは馬鹿だよなぁ」
「たかが女一人のためにさ」
俺を馬鹿にする声。
「商人ギルドも馬鹿なことをしたよな」
「あんなやつを庇わなければ何も起こらなかったのによ」
少しだけ歯ぎしりをした。
俺を馬鹿にするのはいい。それでも俺の才能を認めてくれたモルガンや、優しく迎えてくれた商人ギルドを馬鹿にされる筋合いはない。少なくとも目の前のヤツらが死にかけても助ける気は無いが、商人ギルドの人達は利益のためとはいえ助けをくれる。だから俺も助けようと思った。
冒険者よりも商人の方が搾取しようなんてしなかった。イメージの真逆だった。
「抑えてください」
「……悪いね、少し苛立ったよ」
「大丈夫です。私達のことで怒ってくれて嬉しい限りです。それに私も……我慢の限界が来そうなんですから」
「おーい、二人とも抑えてくれよ。少なくともデュークの敗北の知らせが来てからでいいだろ。……にしてもどっちが馬鹿なんだか」
「力量さを量れない人達ですから」
三人でクスクスと笑う。
目の前にいる冒険者が束になろうと勝てる自信はある。物理だけならばまだ負けるかもしれないけど全体魔法で一発だからね。それにミカなら一振で十分だろう。
早く知らせが来て欲しい。それだけで俺は暴れられるんだ。こんな冒険者ギルドに価値もない。潰す気もないけど必要性も感じない。ましてや商人ギルドに入った俺たちに手を出した時点でアウトだ。他のギルドのメンバーに対して介入をしてはいけないのだから。
大義名分はある。ライが何をするか分からなかったから辞められなかったって言えるし、何よりも辞められなかった理由は辞める代わりに何かを求められそうだったからね。
「おい! ギルドマスターはいるか!?」
そんなことを考えている時に扉から一人の男が入ってきた。見たことのある顔だ。俺も数回会ったことがある。身長の低さと比べて圧倒的なプレッシャーを持つ男、リークさんだ。
リークさんは俺達に目もくれず……いや、隠蔽のせいで分からないのか。そのままの勢いで受付嬢を薙ぎ倒し奥へと入っていった。少しだけ心残りがあるが解決に向けて動いているのかもしれない。リークさんの優しさを見たのだが……それは希望で終わった。
「グゥ……」
「俺に負けた野郎が何様だ。俺はな、お前の言うことを聞くつもりは無い」
飛ばされたリークさんがいた。
その距離からして数十メートルは一殴りで飛ばしたんだろう。その時点で殴った相手の力は分かる。まぁ、予想通りギルドマスターであるライが殴ったのだが。
「お前に託したのは……こんなんじゃねぇよ! 前ギルドマスターの意志を無駄にするのか!」
「うるせぇ、やっていないからそう言っていられるんだ。やって見れば分かる休みもなく楽しみもない。お前は俺の何がわかるんだ」
殴り飛ばしたリークさんの胸倉を掴んで手を構える。すぐに殴れるように構えているんだ。ただただ俺は……それを見逃せるほど人間を辞めてはいなかった。
「……お前は!」
「どうも」
手を掴んでも殴りはしない。
そんなアニメみたいな行動をとるのもいいんだが、わざわざライと同じ壇上に立つつもりはない。
「おめぇは……」
「すいません、俺達も動いていたんですよ。それにリークさんがいかに仲を取り繕うと俺はコイツを許しません」
「貴様! ギルドマスターに」
「黙って頂いてもよろしいですか? お話は聞かせてもらいました。私のギルドにも手を出しました。この意味がお分かりで?」
モルガンの平常時の声の大きさ。
それでも威圧感は半端がない。優しさなど微塵も感じさせないような、ただ鬼を狩る桃太郎のような目をしている。それでも俺やリークさんを見る時だけは優しげな目をしてくれた。
「互いのギルドは不利益を被らないように、そのための不干渉を貫いています。貴方達はそれを侵しました。意味がお分かりですよね?」
「副ギルドマスターに話す意味は無いな。それにお前達がそいつ等を庇うから」
「才のあるものを手元に置いて何がおかしいのでしょうか。やり方が間違っているのですよ。例え貴方が臨もうともリュウは貴方のものにならないし、ミカさんも貴方のものにはなりません。もちろん、二人は私のものになっているわけでもありませんから」
「そうだな、親友だな」
「ええ、親友です」
モルガンの言葉に何か察しているようでライの顔が少し歪む。ここまでの威圧を出来てただの副ギルドマスターなわけがないだろう。そこも考えられないのならばバカ以下のなにかだ。
「……お前らのせいだ。あの時に俺のものにさせていれば」
「俺のミカをお前に渡すと思うか? それにミカもお前のことを嫌いだ」
俺の言葉でライが黙る。
瞬間、腹に衝撃を受けた。しっかりと手で守りを入れていたのでダメージは薄い。ようやくこれで正当防衛っていう大義名分がたつ。リークを殴るだけの価値もコイツにはない。
「殴りましたね。これで私も思いっきり殴れます」
そこでライはキョロキョロと視線を這わせロイドの方を見た。明らかにホッとした顔をしている。それは俺やモルガンを敵に回して倒せる算段が立たなかったからだろう。でも、当のロイドは……。
「悪いなギルドマスター。俺はコイツらの味方でいさせてもらうよ」
「なぜだ!」
「うるせぇよ!」
俺はライの顔面をぶん殴って吹き飛ばした。
その際にリークさんも背負う。気絶はしていないけどライの一撃を思いっきり受けたみたいだ。回復はポーションで何とかなるだろう。
「悪いな、リークさんやモルガン達に悪いけど俺はコイツを許せない」
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以下、作者より
遅くなって申し訳ありません。忙しくて書けませんでした。後、数日間続くため書くことが出来ませんが次回を楽しみにして貰えるとありがたいです。
以上、作者からでした。
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