17 求める者たち⑦ 大霊術~不利な条件なんじゃないのか?
公園に辿り着くと銃声が鳴り響いていた。
警視庁対策部隊の婦警、如月京子の銃弾だ。
木の影に隠れて遠距離からスナイパーライフルを撃っているようだ。
「・・・さすが特殊工作員、あんな銃も持っているのか」
だが着弾した
公園に俺がたどり着いた時にはすでに
如月婦警は次弾の装填後、再び狙いを定め始めた。
俺は遠距離から情報が届くように大声で弱点を伝える。
「如月!白毛は狙うな!!体毛のない所を狙え!!」
対異生物貫通弾だ。いくら装甲を誇る相手でも生身部分ならば耐えられない。
だが思わぬ言葉が狙撃場から大声で帰ってきた。
「狙撃手のあたしに向かって声をかけるヤツがいるかアホー!場所がばれるだろがー!!」
うわ、あの人バカだ。
人間ではなく獣相手に俺は広範囲に向けてしゃべってたのに。
狙撃方向から声を出したらそれこそ自分の隠密を明かしてる事になってるだろうが。
案の定、大獣
遠距離狙撃者から片付けようと知能が働いたのか、如月に向かって走りだそうとする。
「くそー、撤退だ!」
如月は銃を戻し木々の深いエリアへ入ろうとする。
そこに出来た隙を雅血族が突いた。
『江雅和流 斬空旋!』
『雅間流 暗煌群!』
『敷雅流 退火滅却!!』
達人や老兵から様々な技、分析不能な変性術が放たれた。
空気の刃や業火。現代物理学とは別の領域の仕組みに思える。
そのどれも並の異生物なら確実に仕留められるであろう威力だった。
しかし体毛装甲をすでに半分以上回復させていた大獣級異生物には届ききらなかった。
どんな原理なんだよ。本当に異能じゃないのか?この防御力は。
その防御力の自身からなのかゆっくり歩いていたが、次第に足を早めついには手を地面に突き両手両足で走り出した。
やばい!ブーストトリガーを・・・
あの装甲に対して俺の霊樹武器の異粒子エネルギー変性術では回復した
『身体強化!』
異粒子高エネルギーを筋力向上に転換、さらに異能の意識加速は使わず雅流変性術にエネルギーを回した。
『雅流変性術
俺が道場で敷雅から食らった3つの技のうちの最初の技だ。
風の壁と上昇気流の揚力を生み出す。
だがこの技でもあの体躯を制止させる事はできない。
だが一瞬でも歩を遅めれば俺の身体強化(加速版)が如月婦警までの距離を詰め、彼女を確保できる。
俺は衝撃緩和のためにスピードを弱め、如月婦警を抱え上げた。
そのまま走り、別方向の木影へ滑り込み身を隠す。
今のスピードで如月は目を回してしまったようだ。
無事助けられたのでこれで大丈夫だろう。
ここに置いて再び雅血族の所に合流しに歩く。
俺の方を向いた敷雅がこちらに歩みより声をかけてきた。
「まさかもう雅流を使いこなすとは驚いたぞ。
私がお主に放った技をすでに修めているとは」
「試合で俺に使ったのは基礎技だろ?
さっき見たあんたたちの技は高度すぎて真似できる気がしないよ」
古雅崎も集まってくる。
「だからって一回食らっただけで変性術というのは理解も体得もできるものじゃないわよ?
あなたこれから身体強化と組み合わせたらさらにすごい事になりそうね。期待以上だわ。」
「期待ではなくて今現状の打開策を講じたいんだが。・・・奥の手とかはあるのか?」
そう聞くが皆沈黙をした。
どうしたんだ?古来より続いている退魔師達なんだろ?
「この場所は異粒子が濃いようで霊樹の地脈霊気が弱っている。
雅継血の力は異生物の生身に簡単に届かせられないのだ」
「だが我々は決して諦めはせぬ」
「祖の意思によって紡がれた血の絆は、例え死すとも裂かれる事はない!」
「大霊術 冥府離罪魂・雅四連星を放つ!!」
なんか雅のおじいさん達までもが中2病っぽい言葉を口にして盛り上がりだしてきた。
「なあ古雅崎、おまえの設定的口調って実はさ、絶対この霊樹武器の影響が関係してるだろ。」
「なにそれ。君は前から私に変なこと言ってくるけど、コレ設定的な口調じゃくて私たちは古い言葉をなぞっているだけよ?
最近の若者が、その文化を面白おかしく真似してるだけなんじゃないの?」
いや、それだと俺が同じような口調で技名を恥ずかしげもなく突然叫びだしてしまう理由にあてはまらないだろ。
自覚症状なしか。霊樹武器の副作用、おそろしや・・・。
そんなことよりも雅の霊気が落ちているとすると、
エヴァの私兵に期待するしかないか?くれば状況が好転するかもしれない。
もしくは地下霊脈の届く別場所に移動するか?
大霊術ってのがなにかはわからないが-----------
って・・・・そういう陣形を取る技なのか。
それは詠唱を始める中年と高齢の四人の前に古雅崎と敷雅が立つフォーメーションであった。
前衛として雅本家長女と雅当主代理が壁になり後衛を絶対遵守するつもりだ。
それだけ大霊術に全てをかける価値があるってことか。
「・・・仕方ないな」
前衛の二人の所へ近づく。
さらに二人よりも前に立ち、俺は大獣に対して霊樹箒を構えた。
あー、なんか気が高ぶってきたー。
これやっぱり霊樹武器使う人への副作用なんだろうなぜったい。
『マギス細胞結合による筋力硬化と、異粒子転換型霊樹変性術の力をみせてやる!』
これから使う技名、そしてその成り立ちまでを大声で叫んでしまった。
「おお、貴様もイケるクチだな」
敷雅まで褒めてきた。
終わったらもうこの武器投げ捨ててやろう。
「グゴアアアアアアアァァ!!」
体躯の様相がかわる。
全身の白体毛が逆立ち
[第二形態]
古雅崎の言葉にあった警戒状況だ。
「またあれか、骨が折れるな」
「悠希君、変性術ではなく身体硬化に力をすべて使って。アレは私たちの変性術で食い止める。」
「おい、どんな作戦考えているんだよ。詠唱はどれくらいかかるんだ?」
「この霊脈ではわからない。
でも第二形態は縦横無尽に高速で飛び回る回避も防御も不能の攻撃をしてくるわ。
だから私たちが捨て身で変性拘束術技をかける。
それがもし破られたときにせめて君が最後に四連星の大霊術を守って」
「それは本当に最善の作戦なのか?
いくら霊力が落ちてるからってもっと攻め方があるだろ。
おまえたち何百年も続いてきてた歴戦の一族だろ?」
古雅崎、敷雅は変性術を展開しながら前に出る。
「私たちはもともと妖鬼妖魔のような対幽生体の退魔師。
実体を持つ相手に対抗できる技は限られているのよ」
「勘違いするな?妖魔相手なら我々は最強の血族だ。
だからどんな相手でも負けるわけにはいかないのだ。
だからこそ四連星の大霊術の詠唱を完成させる。
幽体も実体も関係なく魂の存在を消し飛ばす奥義だ。」
古雅崎は風の牢獄を
敷雅はさらに踏み込み、変性業火をその牢獄の中に放つ。
そうだ、ずっと違和感があった・・・。
これだけの歴史的勢力を築いていたにもかかわらず大獣とはいえ異生物一体に異常に苦戦していたのだ。
霊樹の弱体化という点ばかりに目がいっていたがそもそも自分たちのフィールドではない状態だったのか?
幽体相手ではない、実体「異生物」を相手にする技はもしかしたら全体の半分に満たないのかもしれない。
大気変性術という非直接的な技しか使っていない。それ以外はただの剣術だった。
「それってメチャクチャ不利な条件なんじゃないのか?」
「だからといって私たちは見過ごしはしないわ。
雅のあるこの街で、そして私たちのこの世界で、異界に勝手な蹂躙などさせはしない!」
『
圧縮された空気が格子を形づくり、そのフレームに炎が伝い束縛が高熱を伴いその身を焼き閉じる。
「グゴアアアアアアアアアァァ!!」
しかし硬化した体毛は炎の影響を耐え、そして第二形態の獰猛さが風の牢すらも打ち破った。
最も拘束に適した技、それがたやすく砕かれてしまった。
「ぐあっ!」「くっ!!」
圧縮していた空気が反射し暴風として二人が俺の足元まで吹き飛んでくる。
さらにそのまま身体強化で耐えた俺に向かい
これは異粒子エネルギーの超硬化型の体当たりだろう。
俺の身体強化をブーストしても耐えられないレベルだ。
俺の全てを賭しても、直線上に並ぶ古雅崎、敷雅、そして4人の雅は紙くずのように散ってしまう。
今でも彼らは必死に詠唱を続けている。
わずかな時間を共にしただけの一族、だがその歴史の深さに触れた。
異界化する新世界においてもその歴史を紡ぎ続けていくと決断していた。
儚く散りかけるこの枯れ木を、再び大樹として返り咲かせるために・・・。
まだ出来る事はある。
俺の体の底のさらに奥深く・・・その可能性をすくい上げるんだ。
まだ繋ぎきれていない、内に漂う異能の断片の粒をひとつづつ繋ぎ合わせて実現する、異能の無形体得!
ギアーズ重工適合者の斥力異能!!
『ソニックウェイブ』
俺の前方に巨大な空気の歪みが生まれる。
それは衝撃波として、軌道上にある全てのものに超大圧力をかけ粉々にしていく技。
テレキネイサーが
激しい衝撃音が突き抜け、巨大異生物の突進は止まった。
だが・・・・
「クソ!意識が・・・・遠のいてきた・・・!」
ソニックウェイブ使用の反動だ。
未だになぜこの能力が使えるのかわからないが、確実にマギオソーム細胞がオーバーヒートしている。
それでも俺は地面に転がっている霊樹武器、薙木刀と木刀を拾いあげて
エヴァが考えた雅が生き残る手段のひとつ・・・
霊樹武器と異粒子適合血液との結合だ。
『身体強化ブーストモード全開!!』
俺は古雅崎と敷雅のふたつの刀を
刃先がのめり込んだ所でさらに深く押し込む・・・押し込む!!
ダメだ・・・また意識が遠のいてきた。未取得の異能使用の反動が大きくなる・・・。
「グ・・・グゴオオオオオオ!」
拳を振り下ろそうとする
俺はもう異粒子エネルギーを切らしてしまっている。
血に浸すための時間はこれで足りているか?わからん・・・だがもう引き抜く力すら・・・・
ズドオォォン!!!
スナイパーラーフル・・・如月婦警か!
動く巨体の左目に寸分狂いなく命中させた。
よしっ!
このチャンスを、繋げる!!
「うおおおおおおおおお!」
朦朧としながらも両手で掴み続けていたふたつの武器を、ただの腕の力だけで押し込み、そして抜き取った。
「古雅崎!敷雅!受け取れ!」
赤く染まったふたつの霊樹刀をふたりへ投げ渡した。
その武器は禍々しさを付与されて、元の持ち主の手に返っていった。
「あとは・・・任せた」
ふたりは受け取った武器を眺め、自分の指を口に運び、雅の血を異生物の血で染まった霊樹武器に混じらせた。
『雅神式霊刀・終尽転散斬!』
『雅神式霊刀・終尽転散斬!』
異粒子血液を定着させた霊樹武器による雅の剣術奥義だ。
麒麟相手の時に郷野のわずかな血でも行われたが、その時とは異粒子適合血液の量はまるで違う。
大きな威力は生み出すその力は、第二形態
「グオオオオオオオオオ!!!」
まだ命にまでは届かない。
体毛に加え筋肉も厚い。
もうそろそろいいだろ雅の詠唱陣共!いつまで待たせてるんだ・・・・
「お前たちよくぞ耐えた・・・離れろ小僧!!雅四連星っ・・・!!」
倒れ込んでいた俺を古雅崎と敷雅がとっさに対象範囲の外へ連れ出そうとする。
視認できるほどの濃厚な霊気がまるで冥界の死神を形取ったかのような姿で異生物へと放たれた。
生体も死霊も全て、その魂という内在幽子を根こそぎ刈り取る雅血族の奥義・・・
『大霊術 冥府魂断衝 !!』
大気が大きく振動する。
波動が幽子暴走因子を生み出している。
この波動の中で全ての生物はアストラル崩壊を引き起こす。
冥界における生命定義、魂という存在が引き裂かれるのだ。
そこに物理的絶対防御の硬さも、異世界の物理現象を利用した衝撃無効の効果も意味をなさなかった。
身の硬さを誇っていた
そして心臓の鼓動を打ち続けたままその魂だけを冥府へと明け渡していったのであった。
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