05 世界改変⑤ 適合者の条件~中2病が香りだした

 世界が変異してから学校の生徒は激減した。


 異粒子が都心部ほど濃い傾向にあることと

 異生物も都心部に出没するため地方へと非難していったからだ。


 在学生の中からも中毒発症者の数が増え、生徒数は半数にまで減りクラス同士をまとめていくようになった。

 もともとクラスメイトの顔なんかは覚えてはいないがクラス統合によって一層馴染みのない顔ぶれになってしまっている。

 それ自体はどうでもいいのだか、よりによって一番めんどくさい古雅崎 こがさきが隣の席とは・・・。


 今も睨みつけてきてるし。

 ずっと無視していたが、ついに話しかけてきた。


「ねえ、聞きたい事があるの」


 めんどくさいな。

 役職を持ってる人間の弱点をついてなるべく遠ざけるか。


「風紀委員長が授業中に雑談するのはよろしくないんじゃないのか?」


「たしかに授業中に話をするのは私のポリシーに反するけど、あなたがこの授業だけは欠かさない事を知ってるから。逃げ出さない今のうちに話をさせてもらうわ!」


「郷野の起こした器物破損事件の詳しい事は知らないぞ」


 シラを通せるだけ通そう。

 うちはバイト禁止だから治験のことを知られるなけでもめんどくさいことになる。


「バイトのことは本人が吐いたわよ」


 あのやろー・・・・


「ちなみに私は授業中であろうと公務とみなせば行動の自由が学校から許可されているの。生徒会権限でね。だからあなが保健室に逃げ込もうとしてもどこまでもついていくわよ?」


「・・・じゃあ男子トイレにもついてくるか?」


「そしたらあなたが事を済ましている横で話をさせてもらうから」


 冗談が通じない。

 一部の性癖者にはご褒美プレイだろそりゃ。

 あー・・・地の果てまでついてくるなコイツ。


「郷野君の変化が何によって起きているのか、彼の説明では的を得られなかったの」


 そういう細かい説明はアイツ苦手そうだもんな。


「俺は知らないと言ったら?」

「いつまでもあなたにつきまとうわよ」


 ・・・・。


「自覚してないようだから一応言っておくが、一般的におまえのような容姿の女子が側に居続けられるのは世の中の男子にとっては喜ばれる事だからな?」


「あら意外、あなたそんなお世辞も言えるのね。」


 無自覚なのか確信犯なのかわからんヤツだ。

 はあ、もうあきらめるか。


「おまえはそれを知ってどうするんだ?」

「生徒会の立場を利用して聞いてるのだからこれは風紀のため、ということでの質問よ」


 ふむ、その範囲でなら・・・


「郷野の変化は異粒子に影響されたもののひとつだろ。今後の経過はわからんが少なからずアイツの中に校舎や教師生徒への害意はない。

 むしろ善意への意思が強い事から風紀委員に入れて管理する事が双方にとって有意義な結果になるんじゃないか?」


「さすが必要な答えだけを最小限に要約してくれるわね」

「これ以上の情報はない」


 生徒会相手にはな、という一言は心に留めておいて言い切っておいた。


「じゃあもうひとつだけ。

 彼の変化がもし意図されたものだとしたら・・・・それは私にも起こすことが出来るもの?」


 ・・・核心はこれか。

 まさか自分も郷野 みたくなりたいみたいな口振りだな。


 そもそもマギオソーム細胞についてはま俺もまだ詳しくはない・・・



 するとそこで教師が雑談モードに入った。


「古雅崎、しばらく静かにしてろ」

「な・・・なによ?」


 この先生は特進クラスの教師ではない。

 受けた事がない古雅崎にとってはこの授業の価値をわかっていないのだろう。


 おれは学校はサボるが勉強が嫌いというワケではない。

 特に化学のこの教師は教科書にはない時事雑学を交えて俺の知識欲を満たしてくれる。


「えー、そもそも今回の事件の渦中にある加速器というものは、ブラックホールを擬似的に作り出す実験装置だったのではと噂されたことがありましたね。

 私の理論というか、まあ思想みたいなものなのですが、この世にはいくつもの宇宙が存在するという多元宇宙論を信じています。

 もし今回の出来事が多次元のそれとつなげたという事であるならば宇宙の法則そのものに変化がおきる事でしょう」


 ハドロン衝突実験はそもそも宇宙誕生となるビックバン当時のエネルギーを再現、研究する陽子衝突実験であった。

 宇宙法則とはこの先生もまたとんでもなく大きな仮説を出してきたものだが。


「それはですね、例えば電子という素粒子の性質が少しでもかわったならば電気が存在しなくなる事も有り得ます。

 我々の生活から文明が後退して原始的生活を送ることになるんですね。

 実際にブラッドマンデー以降、世界中で発電効率が落ちているという調査報告も上がっているようです。

 逆に異粒子という未知の素粒子が我々に何をもたらすか・・・

 というのが君たちの世代に与えられた大きな課題であるといえるでしょう。

 ぜひ皆さん頑張ってください」


 この先生は思想に偏りがあるものの自身で議論を深める材料を提示してくれる所が素晴らしい。


 そうだな、黒幕であるホークス博士は何を目指していたか、そこに帰結するんだろうな。

 人間にとって異粒子や異生物の影響は銃火器や核兵器が支配する治安や、資本主義による社会構造を一変させる可能性がある。


 世界をリセットしたかった?

 その先に何を見据えているのだろうか。


「古雅崎、郷野と同じ力を得る方法というのは生徒会の立場の範疇を超えている質問だろう?」


「そうね、その通りだわ。・・・実の所個人的な事情に由来しているのだけど」



「あ、いや立ち入るつもりはない。そもそも俺は何も知らないって」


「悠希君、実はね・・・私の血には家系代々伝わる秘術が備わっているの。

 人知れず扱ってきたこの力には制限があるものの、衰退するこの力をさらに解放する手段を一族は探し求めている・・・・」


 ・・・あれ?

 どうした?


 なんか突然ぶっ飛んだ設定が出てきたぞ?


 ・・・・頬杖ついて流し聞きしていた姿勢が崩れてしまった。


「郷野君の変化が私たちの抱えている限界の突破口になるものなら取り込みたい。

 けれどそれがもし我々に害をなすものである場合はその芽を摘む事を私達の立場はいとわないわ」


 おい、なんの設定だ?

 中二病的妄想か?

 こいつそっち方面で痛いやつだったのか?


「・・・古雅崎、おれはオマエに関与する気はないからもう勝手にしてくれ。

 郷野を摘むとか自由にすればいいから」


「ダメよ。私の秘密を知ったからにはもう無関係ではいられないわよ」


 おまえが勝手に話したんだろうがっ。

 と、突っ込もうした時、どこからか叫び声が聞こえたような気がした。


 女子生徒の声すら・・|別教室からだ。

 みな振り返ってざわついてるので気のせいではない。


 ふと窓からグラウンドを眺めてみると

 そこには信じられない光景がみえた。


 見覚えのある、一見すると臨死の記憶が呼び覚まされる恐怖の存在がいた。


「・・・・おいおい、エヴァのやつこの展開を予言して学校に行けっていってたわけじゃないよな」



異生物 麒麟ハイライズホース



 グラウンドのど真ん中に雄大と立って校舎を見上げていた。

 もし興味本意で近づくやつがいれば昨日の片腕をもがれたバット男の二の舞になるだろう威圧感を放っている。


 あの異質な風貌の生物に対して、隣にいる古雅崎が反応を示した。


「あれは・・・玄魔!!」


 ヤバイ! また中二病臭が香りだした。


「おい、風紀委員長! まずは生徒の安全確保だろ! 正気に戻れ!」


「は! そ・・・そうね」


 古雅崎は携帯を取り出して風紀関係者相手に電話をしだした。


「もしもし、至急校内放送を。

 危険生物がグランドに出たため立ち入りを禁止を伝えて。

 ええ、避難ルートは正門ではなく裏門ルートで」


「あとは銃器員の要請もだ!」


 治安悪化と異生物の被害多発から各自治体は銃規制の緩和策か施行された。

 猟銃の保管・使用に関する条例が緩められたのだ。


「あいつは私がしとめる」

「は?なにいってんだおまえ!フツーに考えろ。害獣だって駆除が難しいのにあれはどうみたって異生物だろ。何で仕留めるっつーんだよ」


「薙刀を取りに行く」


 そういって教室を出ていった。


 グラウンドでは体育で出ていた男子生徒のうち二名がふざけながら近寄っていた。

 どちらが近くまでよれるか度胸試ししている。

 一人がタッチする所まで近寄ろうとした瞬間・・・・


 腕がもがれていた


 もといた場所からハイライズホースは消え10m離れた別場所で、またこちらの校舎を見上げている。


 男子生徒の惨事で近くにいた生徒達は叫びながら一斉に離散した。

 彼には気の毒だったが、もう無駄な被害者はこれで減るだろう。


 あとは銃器員が到着すれば。。。。


 すると郷野 のヤツが威風堂々とした仕草で近寄っていた。


「あのバカ! ヒーロー気取りの舞台にココを選んでやがる」


 どうする?

 ぶっちゃけ誰が死のうがどうでもいいんだが、郷野 は俺と状況が似ているので比較するのに大事なサンプルだったりする。

 窓から離れて教室内を見渡す。


「おいそこのおまえ、たしか野球部だったよな」


 クラスにいた坊主頭の同級生に声をかけた。

 会話したことはないが朝から晩まで部活に勤しんでいる姿はよく見かけている。


「バットもってるか?」


「?? ああ一応、あのバックが野球道具入れだけど。」


 郷野をあの場から連れ出す際の護身道具としてバットを選んだ。

 実は学校設備の中でもとりわけ耐久度の高い道具であり、昨日俺が麒麟ハイライズホースを撃退した手段でもある。

 何より手によく馴染む。


 さて、現場に向かうがアイツはまだ無事だろうか。


 郷野から聞いたエヴァの言葉を解釈すると、細胞の適合によって異粒子をエネルギーに出来るようになり、身体は強化されるという事だ。

 もしかしたらレンガを素手で壊せる程の力があれば異性物を撃退できるのではないだろうか。


 そう期待しながら廊下に出て階段の踊り場越しに郷野の状況を伺う。


「ああやっぱりだめだったか・・・」


 郷野は麒麟の速さについていけれてない。


 あ、・・・・やられやがった。


 郷野はついに、麒麟の突進を真正面から受けて吹っ飛ばされた。


 俺は靴をキチンと履き替えてから校舎を出る。

 そこへ郷野がゴロゴロと足元に転がってきた。


(もういいや、コイツ死んでるの確認したら引き換えそう)

「おい郷野 、死んだか?」


 仰向けになった体に確認をした。


「おお!きてくれたか仲間よ!これであいつを挟み撃ちにできるな!」


 死んでるどころかビックリするくらい元気一杯だった。

 すげーなマギオソーム細胞適合者。

 どうやら相当頑丈になるようだ。


 逆にコイツの後頭部ぶんなぐってでも連れ出そうとしたがその手は無理という事か。


 胸部を抑えながら立ち上がり、元気とはいえない顔つきで肩で息をしていた。  


 よく見ると急速に傷が自然治癒されている。

 痛み苦しんでいた様子は呼吸が進む程落ち着いた表情にかわっていった。


 一方の麒麟は、いまの一撃で仕留められなかったことから完全な臨戦態勢に雰囲気を変えている。


「なあ、一応聞くがここを引く気はないか?」


「こんな絶好のヒーロー舞台・・・他にないだろう!

 ここで活躍しなければどこでヒーローをやるというのだ」


 ヒーローバカめ。

 くそ、付き合うしかないか。


 なんとなく麒麟の意識が俺に向いてる気もする。

 ・・・・顔を覚えられてるんだろうな。


 ちょっと郷野 から離れてみよう。

 ・・・・うん、首ずっとこっち向けてくるね。

 逃げ切れないなこりゃ。


 しかたない、やってみるか。

 背中にしょっていた野球道具入れからバットを取り出す。


 実際の山中での動物狩猟においても、罠にかかった猪や鹿の動脈を切るために手近な木棒で頭ドついて脳震盪させておく手段がとられる位だ。

 きっとこれでイケる。


「いいか、俺がアイツに一撃を入れたらおまえはすかさずその馬鹿力で捕まえるなり首元締め上げるなりしろよ」

「悠希、あいつのスピードは凄まじいぞ?」


「知ってる。昨日は捉えた」


 ゆっくり麒麟に近づく。

 エヴァ曰く、オレと麒麟の異能は同質のもの。

 昨日の一戦でわかったが同じ異能を持っていればその能力自体に優劣の差はなかった。


 あとは・・・・

 麒麟の姿が高速移動を始めるその消えかけの瞬間、コンマ数秒の差で俺は異能を発動する


《感覚ブースト!!》


 間に合った。

 異能によって俺の動体視力と認識速度が加速されスロー世界が広がる。

 そのブースト空間の中でも高速に動く麒麟の姿を見つけた。



 左に迂回して側部から狙ってくるつもりだ。


 帰りうちにしてや・・・・・


 うげえええ、だめだあああ!!

 麒麟の速度が俺の動きを大きく上回っていた。


 この異能は時間を止めれるワケでも俺だけ早く動けるものでもない。

 周りがゆっくり動いているように見え、物事を高精度に認識出来るだけのもの。


 相手についていけなければなにも出来ない。

 麒麟との差は、まるで俺が金縛り状態で止まっているように見える位だ。


 昨日みたくナメてくれてなかった。

 本気の攻撃だ。

 ・・・異能は同質、だがこの差は四足動物の身体能力の差か・・・・?


 いや、あいつは異生物。

 いわば異粒子高エネルギー結合の本家なワケだ。

 昨日今日覚えたての俺の身体強化とはケタが違う。


 麒麟は一歩一歩、確実に死をまとってオレに近づいてきた。


 異生物はその朧げおぼろな存在感もありその表情は全くわからない。

 怒ってるのか楽しんでいるのか、本能にただ準じているだけなのか・・・。


 やってみよう。


 異粒子エネルギー結合・・・・身体強化!


 そしてこの神経伝達系を



 異能で【ブースト】する!!



 全身の細胞が急速に呼吸をしたかのように〈気栓〉が開き高速周転した状態に入る。


 次の瞬間、ブーストした意識空間でスロー状態だった俺の体は等速度で動けるようになった。


 よし、たぶん体は高負荷で悲鳴を上げているがそれは後で考えよう。


 向かってくる麒麟を迎撃するようにその場でバットをスイングする。


 インパクトするタイミングはと場所を頭部に向けて合わせる。


 ブースト空間のこのスピード感であれば麒麟の実際の突進スピードは約100km/h前後。


120km/h越えのボールをバッティングをしていた時の感覚に比べれば造作もない。


 ドンピシャに合わせてやる!


 と思ったら・・・・ゲゲ!


 さらにスピードを上げてきた。


 クソ!!こっちはもうスイング速度をこれ以上あげられないっ!


 それでもイチかバチかで振り切った。


 どうやら打点はインパクトには至らず・・・・手元で詰まってしまったようだ。

 だが当てれた。


 ブーストを解いて、現実スピードの中で結果を確認する。


 麒麟はダメージを受けたようだ。

 こっちのバットは根本からひん曲がっているが。


 そして・・・・全身筋肉の激痛が走り出した。


「ぐああああああっ」


 昨日の比にならない程の痛みだ。

 通常の異粒子エネルギー結合による身体強化であれば、郷野を見ればわかるようにこんなペナルティはない。

 

 この激痛症状の原因は身体強化を 異能ブーストでかけあわせたせいだろう。

 立ち続けられず、地面に膝を落とした。


そして叫んだ

「郷野 おおぉぉぉ!」


 顔は伏せていながらも、ヤツに声が届くように腹から声を出して進撃を呼びかける。

 今がチャンスだぞ。


 昨日と今日の打撃でわかった事がある。

 麒麟は見た目程に耐久度はない。

 郷野 のレンガを軽く割るほどの力ならば倒せる。


「あとは・・・任せた・・・・ぞ」


 どっと倒れて顔が横を向いた。そこから目についたもの


 それは・・・・


 オレと同じように倒れて悶絶している郷野だった。

 なんでだよ!


そして・・・・



「血が共鳴している、やはり悠希君も彼と同じ適合者だったのね」


 威風堂々と薙刀(木造り)を持ってポージングをする黒髪ロングで長身の姿。


「禁断の境界を越えし魔界の迷い怪よ、我が鮮血にて混沌の闇へと滅するがいい!」


 中二病のセリフを恥ずかしげなく叫ぶ残念美少女、古雅崎であった。










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