04 世界改変④ 異能の開花~全部帳消しだな
『第4事象、異能
異粒子と異生物に適合せし者が生まれる。その誕生こそが世界に抗う唯一の手段である。これによって我らの悲願は達成する。ホークス= シノミヤ』
小学生の頃に、オレは不思議な道に迷った事があった。
いつの日か帰ってこなくなった母の人影をみつけて、商店街の雑居ビルの間をくぐり走っていた時だ。
狭い道を抜けた先はコンクリートではなく広大な大地が広がっていた。
空は深い蒼色に染まり、雲は燃えるような赤い色に染まっていた。
そこからどうやって家に帰ったかはわからない。
長い間そこに佇んでいると、そっと手を差し伸べてくれた人がいた気がした。
あの出来事は夢だった、と月日が経つごとに思うようになった。
けれどあのブラッドマンデーで染まった空を見たとき、俺は懐かしさを感じていた。
夢じゃなかった・・・・あの場所の事を
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「あ!目が覚めたんですね。よかった、お怪我の方は大丈夫ですか?」
目が覚めると見知らぬ部屋の布団で寝ていた。
木造りの古めかしい天井だ。
「!!いっって」
起きあがろうとした瞬間に激痛が走りうずくまったあと、そのまま元の仰向けに戻ってしまった。
「まだ無理しないでください。手当はしたんですけど頭すごく殴られてましたから」
少女が駆け寄ってきた。心配するように顔を覗きこんでくる。
近い、顔が近いですお嬢さん。
頭の包帯を確認しようと手を当てにくるがそれを遮って自分で後頭部をさすってみる。
「いや頭は大丈夫。っていうか頭は全然なんともないから。それよりも全身がバキバキの筋肉痛で・・・なんだコレ」
すると例の声がまた聞こえた。
今度は鮮明に。
『ウフフ、それは君が異能を使った影響だよ』
部屋の隅の角に体育座りしている青年がいた。いや女か?
顔が中性的で性別がわからない。
白い髪にやつれた顔。
裾の長い服までも白で統一していた。
「おはよう、気分はどうかな~?」
やはり聞いた声だった。
「おまえ区民館の前にいたよな。・・・あと治験会場にも。へんなモノ俺に打ち込んでただろ」
「すごい!よくわかったねー」
「おまえの声は特徴ありすぎて判別できるわ。俺に何をしたか説明しろ」
「僕からのギフト。異世界の異粒子を体に取り込めるようになる薬」
「ギフト?あの薬剤がか?全く説明になってないぞ」
「その前に自己紹介するね。僕はエヴァ。
そういって右手を自分の胸に当てて左手をこちらに差し向けてくる。
ハイ君の番ね、的な動作だ。
まあ・・・・名乗るくらいはいいか。
「・・・俺はユウ----」
「
コイツ・・・・。
まあ当然、治験施設で書類を見てるんだろうが、人をおちょくる面倒くさいヤツだ。
もういい、無視だ。
少女の方に振り返った。
「手当てしてくれてありがとう。」
「そんな、私の方が助けてもらったんです。お礼を言うのは私の方です」
「いや、あの場にいたら病院か軍あたりに搬送されて取り調べとか面倒だったから。ここまで運ぶのも大変だっただろ?」
「いえ、運んでくれたのエヴァさんですよ?」
うげ・・・まじか。
エヴァはこちらを見てニコニコしていた。
「いや、お前の企みに巻き込まれワケだから礼は言わねーよ」
「別にいいよー」
「あと・・手当したのは、私の姉です」
すると奥の部屋から女性が入ってきた。
二十歳前後の大人びた綺麗な女性だ。
少し顔色が悪いがその儚さも魅力に感じれる雰囲気がある。
「薬をありがとう。私からもお礼を言いたいわ」
「すみません、薬はハッキリと頂いたモノではなかったのですが、姉の病状から猶予もなかったので勝手に処方させてもらいました。代金はきちんと・・・あのお金は足りないかもしれないので・・・・足りない分は、別の形で・・・」
語尾はゴニョゴニョとしてうつむきだしてのしまった。
そういえばこの子区民センター前でお金以外の手段で支払いしようとしてたっけか。
・・・え?
マジで?
俺にもそれ・・・適用できるの?
「質の高い薬だったみたいで、すぐに良くなったの。本当にありがとう。お礼をキチンとしたいわ」
えー!?
妹は読者モデル級の美少女だけどお姉さんは相当な綺麗所だせ?
知り合えただけでもラッキーレベルなのに
そこから、、、、おぉぉ・・・
「腕によりをかけて作ったの」
「お姉ちゃんの料理はすごい美味しいんだよ!」
・・・・・・。
あー、ピュアさがまぶしい。
やっぱ俺グズだな。
ちゃぶ台を運んで夕食をとりながらエヴァに説明させることにした。
居間の障子の外には縁側と庭が見える。
初夏の夕涼みの風が部屋に入り込んで体の痛みも癒えてくる気がした。
古びた家だが畳の上での食事っていいものなんだな。
「ところで君の使った力はね・・・・」
前菜に手を付けだしたところでエヴァが説明を始めだした。
「【ブースト トリガー】っていう麒麟の能力なんだ」
次々と料理が出てくるなか、エヴァの言葉も止まらずに出てくる。
「異粒子適合者は人間の生命力を一時的に向上させるに過ぎないんだけど。ブースとトリガーはさらにパルス信号やシナプス細胞のシグナルを異粒子のエネルギー転換で加速させて、あらゆる感覚を高速状態にする『異能』だと僕らは捉えてる」
「なるほど。わからん。いや言ってる事の内容はわからないワケではないが、前提がわからん。異粒子エネルギーを転換する器官なんて人間のどこにあるんだよ」
「この世界の生物にはもともとエネルギー転換が備わっているでしょ?ミトコンドリア構造物。その異粒子向け器官【マギオソーム細胞】の培養に企業らが成功したんだ」
「それが治験で投与してきたものか?さっきいってたブーストなんちゃらもそれで?」
「はーいそこ開けてくださーい、難しいお話はあとで~お鍋が通りまーす」
話をぶつ切る形で少女、観咲花凛«みさきかりん»が割って入る。前菜から始まり吸い物、焼き物と続いて煮物がきた。
姉、
料理の腕がいいのだろう。
物流の悪いこのご時世に揃う食料は保存食ばかりだがそれに手を加える事でキチンとした料理になっている。
俺の近所で手に入るものもほとんどが保存食だがこのように工夫する発想はなかったな。
結奈さんは勤めの関係で食料配給に関しては優遇されているらしいがそれでも料理にはこだわる人のようだ。
・・・・が、妹の花凛は配膳時に襖の敷居に足をとられ、その貴重な食材でいっぱいの鍋を取りこぼそうとした。
「危ないっ!!」
瞬間、鍋を支えようと反応をしたとき
俺の中で意識の加速が展開した。
目の前が赤く靄ががる。
昼間に体感したゾーン状態だ。
なるほど、前提がわかれば理解できる。
これは神経系統の過剰認知だ。
決して超人になっているわけではなく体の動速に変わりはない。
だがこの認識力によって高精細な動きをすることができる。
それによって汁を一粒もこぼさず、手から離れた鍋をちゃぶ台の上に置くまで厳選されたルートに導いていくことも・・・・・。
ブーストトリガーを解除したときには
鍋が綺麗に着地した形でテーブルに鎮座した。
「うわわ、ってあれ?
び・・・びっくりした。ありがとう、 悠希君」
この出来事をなにもなかったかのようにエヴァは鍋から自分の分をよそおい、パクパクと食べだした。
おれは異能の使用でまたぐったりしてしまった。
「なぜ君がこの
「おまえが打った薬のせいじゃないのか?治験でへんなモン投与したオマエにわからないなら俺には全く心当たりないぞ?」
「あの場で打った注射は異粒子を取り込む体組織を急いで定着させる、ただの促進剤って思ってくれればいいよ。かなり無茶な薬だけど君は死にかけてたからね」
「結局おまえには助けられてるワケか」
「でもね、異生物の能力を得るのはもっと別の手段なんだ。それは異生物の体組織をその身に取り込む事」
「その話を信じるとして、なんでおまえはオレにこだわるんだ?」
「君が撃退した
「だから?」
「君は今それに相当する力を持っているという事になる」
「ひっくり返った鍋を拾いあげるだけの能力だろ」
「異能だけで言えばね。けど君がこれから異粒子の通常の力を扱えれるようになってくればそれに近づくんだ」
そう言うとエヴァは立ち上がり縁側から外に出ていく。
「明日からの展開を楽しみにしてる。
君は驚く程に理解が早くて僕のお気に入りだよ。
あ、明日はちゃんと学校に行くことをオススメするよ、ウフフ。」
新宿区民館での襲撃。その直前での新宿区での投薬。
たぶんこいつは異生物の行動を何かしらの手段で把握しているな。
そしてその場への誘導・・・・?
絶対なにかある。めんどくさいから行かないでおこう。
オレはあいつの残したデザートに手をつけて甘味に浸ることにした。
見目麗しい女性宅での手料理だ。
出来る事なら生きてまたご相伴に預かりたい。
「あれ?エヴァさんもう帰っちゃったんですか?」
「うん、俺もそろそろ帰るよ。ご馳走さま。ご飯すごく美味しかったです」
「今日は本当にありがとう。お薬のこと、妹のこと。まだお礼し足りてないから、またご飯食べに来てね。」
「そうだよ!絶対きてね。」
美人姉妹にこう言ってもらえるのなら今日起きた災難は死にかけたことも含めて全部帳消しだな。
そう思いこの日は家路についた。
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翌日
「おい 悠希!ちょっときてくれ」
教室についたところで郷野 に呼び出された。
・・・・俺はなぜか学校に来てしまっていた。
一晩いろいろ検証をしていく中で気になる事が増えてきた結果だ。
そして校舎裏とは、これまた男から一番呼ばれたくない場所だな。
この時点で登校したことを後悔してきた。
郷野 はおもむろにコンクリート煉瓦をもちあげる。
なんだ?
「いいかよく見てろよ、おりゃ!」
ゴン!
おお。
煉瓦に拳を突き立てて胸の前で真っぷたつにしやがった。
まるでプラスチックレンガだったような脆さに見えたが、破壊音はれっきとしたコンクリートの固さの音であった。
「な!すげーだろ。昨日からこんななんだ」
郷野 は目をキラキラさせながら訴えてきた。
まあ突然に超人の力に目覚めたら男の子としては興奮するものだよな。
予測した答えを聞くために質問を問いかけた。
「エヴァには会ったか?」
「おお、会ったぜ。一通りコレの説明受けたけど・・・まさかおまえもか?」
「ああ。で、なんて説明された?」
「いきなり部屋に現れてよ。ナントカ細胞? に適合したから、異粒子でどうこうって。学校で支給されてる抗生剤をこの先投与する必要はないけど定期的に施設に来い。あとはいろいろ言ってきたけどマギド結合とかヘンな言葉並べてくるから聞き流してたら黙ったんだ。そしたら『キミは力持ちになったから世界を救ってね』、て言って帰った」
アイツ・・・この脳筋に理解してもらえなかったからって説明を放棄したな。
けどいくつか俺に抜けていたキーワードがあったな。
マギド結合 ・・・細胞適合のことか?
「何か他に特別な異能とかの説明はあったか?」
「異能?聞いてないな。異粒子をガソリンみたくする事で人よりも馬力が出せて、頑丈で怪我の治りが早くなったってのは聞いた。それの事か?」
まあ分かりやすく例えた説明か。
けどやはり異能ってのは特殊なモノで・・・
郷野 の変化は細胞適合による一番オーソドックスな変化、ということか。
昨日の夜、オレも実験を繰り返していて
郷野 ほどではないにしろ筋力の向上が自身にも確認できた。
頭のケガの回復の速さも説明がつく。
身体強化は異能とは定義が違うということで間違いないだろう。
「なあ、俺これでスーパーヒーローになれるよな!」
テンションがやけに高いので悪ノリしてみる。
「そうだね、おれもTHE BOOST TORRIGERって能力に目覚めたっぽいんだ」
「マジ!? やっぱおまえも? なにそれかっけーじゃん! やべーよ、オレたちアベンじゃえるよな!」
どうやらアメコミヒーローに強い憧れを持っているヤツだったようだ。
「勝手にやってくれ」
「オイもう少し乗ってくれよ!なんでそんなに冷めてんだよ」
「俺たち3人部屋だっただろ?有野の方はどうなんだ?」
「ああ、そういえばアイツの方も何かあったかもしれないな。
3人揃えば地球滅亡を救うチームが組めるな!ちょっと探してくるわ!」
「待て。俺を頭数に入れるのはヤメロ」
「なんだよ、おまえはこんな力を持ってワクワクしないのか?」
「しない。オマエ以上にやばいヤツに俺は昨日まっさきに会った。アレをどうにかするのは絶対ムリ。いいか?オマエが巻き込まれるのは構わないが力をひれかして俺に迷惑をかけるなよ?」
「あー・・・それがな、、、」
ピンポンパンポーン
『2年3組の郷野、早く職員室に来なさい!』
校内放送から有無を言わさない呼び出しがされた。
「おい、おまえ早速か?・・・・さっそく何をした」
「いやあ、柔道部の朝練に出てたんだよ、んでトレーニング中にちょっと力込めたらさ、学校の備品から設備いろいろを壊しちまってよ・・・」
「オマエは制御の効かない緑色巨人かよ!老朽化してたって言ってゴマかしてこい!」
「教師はゴマかしたんだぜ?けど風紀委員に一部始終見られちまってたみたいでよ・・・。たぶんこの呼び出しは古雅崎が情報を耳にいれてバックにいる気がする」
げげ。
何を思ってるのか二年生でありながら自ら風紀委員長に立候補した女子だ。
学内の風紀を厳しく取り締まっている。
名家の出のようで清廉さを絵に書いたような黒髪ロングの長身女性。
サボりがちな俺への風当たりも強く、事あるごとにつっかかる面倒なヤツだ。
そう、ちょうど郷野の後ろに立ってるようなヤツ。
・・・・っていうか本人だ。
「郷野 武志!アナタを職員室に連行します!」
木造りの薙刀を肩に担ぎ、鬼の形相で仁王立ちする古雅崎がいた。
なんだこの恐ろしい出で立ちは。
その薙刀はなにをするために持ち歩いてるんだ?
古雅崎は郷野 の襟元をつかみひきづって連れていこうとする。
ズルズルと。
おいおい柔道男子を女が引きづってるよ。
風紀員ってすげーんだな。
俺は踵を返してその場を去ることに・・・・
「 悠希遥架君、今日はちゃんと登校してるようだけどあなたにも聞きたい事があるわ」
「断る!郷野 、いいか俺を巻き込むなよ」
郷野 を職員室に連れていく目的がある以上俺に深追いはしないだろう。
見目麗しい美人ではあるが特殊細胞を得た郷野 を取り扱えるゴリラ女子とは距離をとろう。
友人を見捨て颯爽とその場を去った。
世界を救うチームは結成する間もなく即解散だ。
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ちなみにこの不安定な社会情勢の中でも学校は半正常に機能している。
政府は学業の維持を緊急の新政策の柱にした。
新世代育成のために高齢者向け予算を削減したのだ。
これまで優遇していた高齢者向け医療費予算を大幅にカットした理由はシンプル。
数が少ない抗体薬を体力が少ない老人に適応しても効果が薄かったのだ。
人数比率の多い高齢者よりも、働き盛りで未来を担う若者に優先するという英断だ。
国民平等を掲げる野党からは猛反対。
当然ながら高齢層ほど中毒死者率は上がり、政府は激しい批判を受けている最中、
それでも教育機関への警備投資や抗体薬の優先支給を進めいる。
・・・・そして教室。
そんな安全で優遇されているはずの学校で真面目に授業を受けている俺は隣の鋭い視線に怯えている。
古雅崎名鶴はいつの間にかクラスメイトに、そしてなぜか隣の席になっていたのだ。
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