何でも屋
四月十日(日)先負
ここは村の中心にある『何でも屋』。もとは他の地域と交流を交わしたり情報を発信、受信する場所だったようだが、店主が居なくなってから、ここはある姉妹が管理している。
何でも屋…その名の通り、ある程度のことは何でも実行してくれる。恋愛相談など些細なものから人探し、仕事探しなど…困っている人々を助ける。それが彼女らの仕事だった。
「ねぇさん。聞いた?移住者の話。」
姉妹の妹、
「えぇ。近日ここに引っ越してくるそうですね。」
明の姉、
「いや、もう来てるってよ。昨日弥生が言ってた。」
「そう。」
「もしかしてねぇさん、興味ない?」
と、そこに会話を割ってある人物がここを訪ねる。この村の村長だ。
「おう!いらっしゃい、村長。」
「また貴方は…少しは礼儀正しく対応しなさい。」
「ははは、若いのはいいことさ。貴方も姉の立場で大変だろうが、そう彼女を責めてやるな。」
「…もう。」
「それで?今回のご用件は?長月さん。」
彼は、非常に困った様子で何があったのかを説明し始める。
「いやぁ、実は卯月さんのところの息子さんが行方不明になったそうでね。それが発覚したのは昨日の夕べらしいんだけど、君たちにも協力を依頼したくてね。」
「行方不明?それは流石に警察の仕事だろ?誰がどこにいるか、わかんないから変わりに探してきてくれ程度の人探しなら承るけどさぁ」
「卯月家…代々医者を務めてる伝統的な家の方ですね。どうしてまた…?」
「おいおいまてまて、ねぇさん。まさか協力するのか?」
「目の前で人が困っているんです。手を貸さないわけにはいかないでしょう。それで村長さん、何が起きたのか詳しく説明してもらえますか?」
あぁ。といって村長は事のいきさつを話し始める。
昨日、卯月家の長男、
「その、遊んでた子供たちは?」
「そういえば子供たちを送り届けてから帰宅したっていってたな。」
「なら、最後に送り届けられた子なら何か知ってるかもしれませんね。」
そして私たちはその子供の家に向かった。
「そらおにーちゃん?ぼくと一緒に返ってきたよ?」
「うぅーん…これは…」
「最初は何かの冗談かと思ってましたが…警察に連絡を入れることも視野に入れた方がいいかもしれませんね。」
「まさか、あんな真面目な人がねぇ…」
奥からその子の親らしき人がお茶をもって部屋に入ってきた。同時に舞が席を立ち、電話でこのことを卯月家の人に伝えようとしていた。
「あっ、どうも。」
「…とりあえず、私たちも村の皆さんに声をかけて捜索しますが、何かあった場合は…はい。よろしくお願いします。」
「さて、仕事か。」
「えぇ。明。行くわよ。」
私たちは親子と村長に別れを告げ、二手に分かれて聞き込みを始める。長期戦になりそうな予感がしたが、開始数十分で、姉の方にアタリが来たようだ。
「おっと、ねぇさんから電話だ…」
「…もしもし、ねぇさん?何かヒントみつけたか?」
「ヒントも何も本人を見つけたわよ。喫茶店まで来てくれる?」
「本当か!?今行く!」
なんだ、割とあっけなく見つかったな。そう思いながら私はこの村唯一の喫茶店に向かう。
喫茶店に入ると、奥の席にねぇさんと青空が座っているのが見えた。
「ほんとにいた!」
「やぁ、迷惑かけたね。」
「全くだぜ、青空!おまえ一体どこに行ってたんだ?」
「あぁ、今日、愛犬の命日でさ。墓地までお参りしてたんだ。」
「墓地…あぁ、あのくっそ遠い場所か。」
「でも、それだけでこんなに時間かかります?徒歩で往復しても三時間程度だと思いますが…」
「いやぁ、それが家に戻ってきたのが夜七時くらいなんだけど家が俺のことで大騒ぎしててさ。なんか帰りづらくて。」
てへへ、とでも言いたげに彼は後頭部を掻く。なんだ、そんなことか。と明と舞は脱力する。
「とりあえず、無事そうならいいわ。でも早く家に帰った方がいいわよ?そろそろ警察沙汰になるから。」
「…まじか。悪い、じゃあ先に帰るわ。」
そういって彼は会計を済ませてそそくさと帰っていった。とりあえずは何事もなかった安心感からか、私はふと思い出した。そして回答をまだもらっていない質問を自分の姉に尋ねる。
「で、一件落着だけどねぇさん。結局移住してきた人に興味はないの?」
「全くないと言えば嘘になりますが…その方の名前は?」
明は、話題に乗ってくれた姉に得意げに伝える。
「ねぇさんも知ってる人だよ。」
「…?」
「華山一族。ついにこの場所に戻ってきたか。って感じだけどね。」
「あぁ、華山の。」
なるほど、それで村の人たちが軽い騒ぎになっていたわけだ。と、舞も納得する。
「その人は…うちに来るかしら?」
「来るんじゃないかな。生活するためには仕事が必須だし。そのうち何でも屋のうわさを聞き付けてやってくるよ。」
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