DNA
カゲトモ
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「お孫さんですか?」
そういや孫の話は聞いた事がなかったような気がするけど、なんてことを思いながらも訊いた。だってこの純喫茶メアリーには似合わない小さな女の子がいたから。
「うん、そうなんだ」
ずらした老眼鏡から優しげな瞳でこちらを見て女の子の方へ視線を動かす。女の子は無邪気にピザトーストを口に運んでいた。
「娘の子供でね、一足先に一人でこっちに来たんだ」
「そうでしたか」
この店に来るたびに店主である夏目さんとはよく話していたけれど、こんなに小さいお孫さんがいることは知らなかった。息子さんは俺より年上だし、お孫さんがいたとしてももう巣立っていてもおかしくない歳だろうし。いや、それは偏見か。
「娘は子供がなかなか出来なくてね、遅くに産んだものだからあの子はまだ小学四年生なんだよ」
「へぇ」
娘さんがいたのも凄くぼんやりとしか覚えていない。どちらかというといつも亡くなった奥さんとのお話を聞いていた気がする。
「明後日には他の孫も娘たちも帰ってくるから賑やかになるんだけどねぇ。あの子はなにか夏休みの勉強の一環とかで一人でここまで来たんだよ」
「そうなんですね、すごいな小学五年生なのに。どこから一人で来たんですか?」
感心して夏目さんに訊くと、ぺろりとピザトーストを平らげた彼女がこちらに走りながら答えた。ハキハキと元気な口調で答えたそれは、ここから新幹線を乗り継いで来ないといけないような結構な距離のある地名だった。
「うわ、凄いねっ」
「えへへ」
椅子に座った俺と同じ目線くらいの彼女は少し照れたようにしながらも胸を張って見せた。
本当にこんなに小さな女の子が一人で? いくら乗り換えがスマホで調べられると言っても、座席に座ればとりあえずは移動できると言ってもとても凄いことだと思う。
「切符も自分で買ったの?」
「うんっどの電車に乗るのかも自分で決めて切符も自分で買ったよ」
「凄いね、大変だったでしょ?」
この年齢になっても初めて行くところはドキドキするし、何度も調べた列車と時刻を確認してしまうくらいだぞ。それをこんなに小さい子が。凄いじゃん。
「だってもう四年生だもん」
「そうだよね、モモちゃんもう立派なお姉ちゃんだもんね」
夏目さんが皺の刻まれた優しい手のひらで女の子の頭を撫でる。彼女は身体を捩りながら照れた。
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