第九話 ワズ大公、死す!?

 再びグランツリーでは、最初の一報のあと次々とグルメールからの報告が入ってくる。


「以前、我が軍苦戦中!」

「アイシャ殿が、リンドウから援軍を出しました!!」

「ワズ大公、兵士を連れて出陣!」


 エルヴィスはいても立ってもいられず、早急に戻りたかったが如何せん、距離が離れ過ぎている。戻ったところで間に合わないだろう。それでも、エルヴィスは、帰国の準備に入っていた。


 そこに、次の報せが届く。それは自国の危機に顔を青ざめるエルヴィスに追い討ちをかけるものだった。


「ワズ大公のお陰で、我が軍優勢に変わりました。ですが……ですが、ワズ大公が──重体に。その、生死は不明……です」


 アカツキ達もその報せには愕然とする。


「大丈夫ですよ。向こうにはルスカとタツロウさんが作った回復薬があります。ワズ大公もきっと……大丈夫ですよね?」


 アカツキはエルヴィスを励ました後、兵士に確認をする。報せには続きがあるものだと。しかし、報せを届けに来た兵士は無念な表情を浮かべる。


「回復薬は……負傷した住民や兵士の手当てで……残っていないかと」


 ルスカはヨロヨロと後退りしてアカツキの足元でもたれるように座り込み、弥生は急にグズり始めたフウカをあやす。ナックは、悔しそうに壁に拳を叩きつけた。


 アカツキだけは気丈に振る舞い、冷静に判断を下す。


「緊急です。エルヴィス国王は、すぐに戻ってください! ナック、それとカホさんと流星は、タツロウさんと連絡後、薬を持ってグルメールに戻ってください!」

「アカツキ、お前はどうするんだよ?」

「流星。私は、ルスカと弥生さんとフウカ、そしてガロンを連れて聖霊王を探しに行きます」

「そうか、だったら俺も行くぜ。グルメールにはナックさんが行けば大丈夫だろ。アイシャさんも居るしよ」

「流星!?」

「すまねぇな、カホ。クリスを頼む。アカツキ、俺も連れていけ。じゃ大変だろ?」


 アカツキにも不安はあった。見知らぬ土地、そして未知なる聖霊王。そして流星が言うと言うのも当たらずとも遠からずだった。


 今、ルスカの戦力は著しく落ちており、ガロンは従っているとはいえ神獣、力が強すぎてよっぽどでないと力を振るうと大惨事になりかねない。弥生は戦闘力は皆無だしフウカを守らなくてはならない。確かに実質アカツキ一人のようなものであった。


「すいません、流星」

「謝んなって。カホ、向こうに着いたら逐一連絡寄越せよ」

「うん、わかってる。流星も気をつけて」

「では、モルクさん、貴方はそこにいるナルホという人物を連れてドラクマへ一度戻ってください。バッハさん、そちらで傍観している方々のこと、宜しくお願いします」

「任せよ!」


 これ以上被害を出さない為にも一刻も例の襲撃者達と話し合わなければと、アカツキは、先手を打つことにしたのだった。


「ナック、アデルさん……」

「どうした、アカツキ?」


 指示を飛ばしたあと、アカツキは準備をしていたナック、そしてイミル女王の王配であるアデルを呼び寄せ耳打ちする。


「くれぐれも気をつけてください。グルメールの急襲のタイミングの良さから、どうやら此方を監視している可能性が高いです。特にエルヴィス国王の帰国時や私たちが居なくなったグランツリーは、最大限に警戒してください」

「監視……」

「……なるほど。アカツキ殿の考えには一理ある。わかった、なるべくここグランツリーにグランツ王国の人々を集め、兵士を此処グランツリーに集中出来るようにしよう」


 こうして、アカツキ達は、大公の安否に不安を抱えつつも前を向き、それぞれの役目を果たすべく、新たに旅立つのであった。



◇◇◇



 アカツキは旅立つ前にヴァレッタに会いに行く。


 片腕を失いながらも懸命に生き残った子供達と生きるのだと、色々な仕事を手伝っていたものの、ヴァレッタは今一つ覇気がない。


「お嬢様。急ですが、明日グランツリーを去ります」

「そう……」


 何か彼女にしてやれないかと模索するもアカツキには何も浮かばずに歯痒い思いをしていた。


 結局、顔を見る程度で終わったアカツキは、その夜弥生に相談する。彼女の為に自分に何が出来るのかと。弥生も一緒になり考える。


「パン屋の再開とかは?」

「厳しいでしょうね。子供たちで役割分担してやっていましたし、人手が足りないですし」


 悩む二人。一番はパン屋の再開だろう。人手不足もレイン自治領からの避難民からの募集で何とかなる。しかし、それでは駄目なのではないかとアカツキは考えていた。目的はパン屋ではなく、ヴァレッタが立ち直ることなのだから。


「ねぇ。アカツキくん。今回の避難民の中には両親を失った子供も居るよねぇ?」

「……孤児院、ですか。片腕のお嬢様には負担が大きいんじゃ……」

「でもね、わたし思うのよ。子供の笑顔ってとても力が湧くの。それこそ生き甲斐になるほど。確かに片腕というハンデはあるけれども、そこは子供達と力を合わせてやれるんじゃないかな?」

「……少しイミル女王に相談してみましょうか」


 もう夜も更けており、今からだと遅いと、二人は明日の朝一緒にイミル女王に相談してみるつもりでいた。



◇◇◇



「わかりました。孤児院の建設などは此方でやりましょう。それと、実はレベッカ様からも話は出ていまして」


 早朝というにも関わらず話を聞いてくれるとイミル女王の元に向かった二人は、意外な話が女王の方から出てきた。


 それは、レベッカが自治領のトップを降りると共に、旧帝国領を全面放棄するという話であった。


「旧帝国領は、我らグランツ王国がこの混乱が収まり次第、開拓するつもりです。初めはそこにレベッカ様に治めて貰おうかと思っていたのですが、彼女は自信を失ったようです。その代わりにヴァレッタ様と、ここグランツ王国で孤児院を開くと」


 皇帝の血を引くレベッカが治めるのが最も筋が通っているが、レベッカの意思を汲みイミル女王は、それを許可したという。


 二人は、イミル女王に礼を言い、急ぎヴァレッタの元へと向かう。そこには既にレベッカも来ており、アカツキはヴァレッタにある物を渡す。


 それは、昨夜寝ずに作ったアカツキによるパンのレシピ集。材料自体にローレライには存在しないものもあるが、その代用品となりそうなものも、アカツキがここローレライに転移してきてからの知識で、しっかりとカバーしたものであった。


「お嬢様。あなたは一人ではありません。子供達やレベッカ様、それに私達も居ます。だから元気出してください。旦那様やメイラ、亡くなった子供達、それにレイン皇帝の墓を再び同じ場所に造れるように私も尽力します。ですから、その際には一緒に墓参りに行きましょう」

「アカツキ……ありがとう……」


 堪えきれずに涙を溢すヴァレッタをアカツキは優しく胸を貸してやる。隣で見ていた弥生も、何も言わずに黙ったまま二人を見守っていた。

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