第十一話 弥生達、山エルフと出会う

 麓から険しい山道が続く。赤子を連れては苦労するのが目に見えていた。

預けてきて正解だと弥生は、足を進める。

それでも案内人のダットを先頭に進む一行の進む速度は、落ちていく。


「はぁはぁ……まだかよ、山エルフの住み処は……」

「はぁ……ナック、もうへばったの? 貴族になって不摂生ばかりしてるんじゃないの?」

「やよちゃん、これいいダイエットになるね」

「わたし、太ってないわよ!」

「私、ちょっと先を見てきます」


 さすが獣人というか体力には人一倍自信のあるアイシャは、軽快に先を登って行く。


「もう少しで、平坦な場所があります。ここで、一度休みましょう!」


 姿が米粒大になったアイシャの声に一行は、少し奮起するのであった。



◇◇◇



「ダットさん、山エルフの住み処ってまだ遠いの?」

「ハッキリとわかっている訳ではないが、そこの山道を過ぎたところだと言われている。ハイネルもあれから色々と調べてくれたのだ。この道順が最も山エルフに遭遇しやすいとな」

「そう……それなら少し警戒して進んだ方がいいかもね。……って何よ、ナック。変な顔をして」


 ニヤニヤとしながらナックは横目で、ずっと弥生を見てくる。思わず弥生は、腕で自分の胸を隠すように身構える。


「いや、ヤヨイー。似てきたなって思ってな、アイツに」

「うんうん。やっぱり夫婦って似るんだねぇ、やよちゃん」


 カホも賛同して首を何度も縦に振る。アカツキに似てきたと言われて弥生も満更ではない様子であった。


「私はいつ結婚出来るんだろ……」

「アイシャさんにはお世話になりっぱなしだし、この一件が終わったらアカツキくんにも相談してみるわ」


 それは、この一件が終わらない限り無理だと言われているようで、喜んでいいのか悲しんでいいのか、アイシャは複雑そうな表情をするのであった。



◇◇◇



 休憩を終えた一行は、ダットが示した山道を再び歩き始めた。段々と、登っていく度に肌寒くなっていく。

ナックとアイシャの二人はダットより一歩前を歩き始めた。


「見られてんな」

「見られてますね」


 二人は、先ほどから視線や物音らしきものが聞こえ警戒レベルを最大限に上げていた。

左手側は崖、右手側には木々が広がり襲うには絶好の場所である。



「ヤヨイー!!」

「はい! “障壁”!!」


 ナックの合図で間を取ることもなく周囲に光の壁を張る弥生。障壁には確かに何かぶつかる手応えを感じていたが、その正体が見えない。


「何!? 何が来てるの!?」


 正体不明の攻撃にカホは狼狽えるが弥生の方はいたって冷静であった。

本来、物理的な攻撃しか防げなかったスキル“障壁”。

しかし、ルスカとの修行を経てからは魔法も防げる事が可能になっていた。

相手がルスカということもあり、そんじょそこらの魔法の攻撃を防ぐ弥生にとっては、お手の物である。


 姿形は不明であるが、幾度となく風切り音がすることから、風の魔法による攻撃だと弥生にも理解出来てきた。

それにいち早く気づいたナックも流石としか言いようがない。


 そして、もう一人。


 弥生が障壁を気づいた瞬間、アイシャは弥生の陰に隠れた。身軽なアイシャは、直後、背後の崖から迂回して攻撃してきた場所へ回り込む。

英雄バーン・カッシュの曾孫としてアイシャは、その名に恥じない動きを見せた。


 木々の間を音をなるべく立てないように走り抜け、一気に襲いかかる。相手は虚をつかれ、その美形な顔立ちを歪ませる。

そして、ナックも動く。敵の視線がアイシャへ集中した瞬間を逃すことなく、一気に駆けていく。


 敵を視認したナック達。どれもが美形と呼べる男女で耳が特徴的に長い。


 ナックは、美形な男性を見て思う──苛立つ、その顔を変えてやる、と。

 アイシャは、美形な女性を見て思う──自分もそんな美形ならとっくに玉の輿に乗れたのに、と。


「お、お前ら、一体何者なのだ!?」


 戦場から少し離れた木の陰から現れた、深い皺が却って渋みを出す老齢な白髪の男性が叫ぶ。

しかし、アイシャもナックもそれを無視して、殺さないように手加減しながら鎮圧していく。

私情を挟みながら……。


「ナック、アイシャさん、終わった?」


 二人は弥生の声に応え、サムズアップする。


「それじゃ、お爺さん、この落とし前どうするの?」

「お、落とし前って一方的ではないか!? お前ら本当に何者だ」

「一方的に攻撃してきておいて、それはないんじゃないの?」


 弥生に正論をつかれ、白髪の老人は言葉を飲み込む。

それどころか、弥生の迫力にすら臆して一歩後退りを見せた。


「あなた達、山エルフですよね。少しお話したいのだけれども……住み処に案内してもらえないかしら?」

「こんなに多くの怪我人出しておいてぬけぬけと!!」

「こちらには特別な回復薬があるんだけど?」

「すぐにご案内します!!」


 九十度に腰を曲げ先ほどと態度を一変させた白髪の老人は、怪我の軽傷な者に倒れている山エルフを運ばせて、弥生達一行を案内しに先導するのであった。

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