第八話 グルメール、騒乱の鼓動

 アイシャと別れて全滅したアルステル領から逃げるように弥生達は、徒歩でファーマーの街を目指していた。

日も暮れ始め、木々の茂みに隠れるように休憩を入れる。


「しかし、急に現れる……か。不気味な奴らだな」

「やよちゃんを狙った……って訳じゃないよね?」

「そんな感じじゃなかったけど……ただね、前から感じていた視線、今はしないのよ」


 最近ずっと弥生が感じていた視線。もし、その原因がアルステル領を襲った奴らなら、奴らをアルステル領に連中を連れて来たのは、弥生ということになる。

そう考えてなのか弥生は、酷く落ち込み始めた。


 ナックもカホも上手く慰めようとするが言葉が出てこない。そんな中、フウカは無垢な笑顔で手を差し向ける。

普段と変わらぬ笑顔のフウカに励まされながら、弥生達は道中、小さな街に立ち寄る。


 そこで馬を調達して手頃な荷馬車も手に入れた弥生達は、ファーマーへ向かう速度を上げたのだった。


 途中、アイルの街に立ち寄る。ここまで来ればファーマーまですぐだが、ここはカホの家があり、更にはクリストファーの墓がある街である。

墓前で手を合わせて、各々クリストファーに報告を述べたあと、すぐに旅立つ。

この間、何とか流星やアカツキに連絡を取ろうとスキル“通紙”で試みるが、アカツキ達の方に紙がないのか空振りばかり。


 こうなってくるとカホや弥生は、アカツキ達に何かあったのではないかと不安になる。

そしてファーマーの街の直前で、ようやく二人と連絡が繋がる。


 まずは、カホと弥生がひたすら愚痴る。アルステル領で起こったこともそうだが、すぐに出てくれなかったことの不安をぶつけた。

そして、互いに情報を擦り合わせる。


 アカツキ達は、ロックから魔石を受け取り現在森エルフの住み処に向かう途中で、森エルフが何者かに襲われたようだと話し、弥生達は魔石を手に入れた直後にアルステル領が襲われたことを伝えた。


「そうだ、アカツキに伝えてくれねぇか? 奴ら、ちょっとおかしな事を叫んでいたんだよ。“ローレライを取り戻せ”とか“取り返せ”とか」


 カホがスキルでアカツキにナックの言葉を伝えると、すぐに返答はなく、何か考えているのか暫く間が空いた。

そして、アカツキからの返答は、「内密に」とを前提に弥生達にも伝えられることに。


 それはローレライの負の遺産とも言える、忌まわしき過去。

元々住んでいた者達を追い出して、現在自分達がこのローレライを我が物顔で闊歩していると。


 それを聞いたナックは勿論、弥生もカホも悲痛な表情を浮かべる。当たり前にローレライで過ごしてきたことが、追い出した者達の犠牲の上に成り立っていることに。


「こんなこと、他の奴らに伝えられねぇ……恐らくその事実を知っている奴も、このローレライで何人居るか……。しかし、それは追い出された奴らもそうじゃないのか? かなり昔の話だし、生きているとは思えねぇけど」

「ナック……それは、代々伝えられるものよ。わたしの元に住んでいた世界でもやっぱり似たような事は、ずっとあったわ」


 追い出された領土を取り返そうと、内戦やテロなど行動で起こす者、緊張状態がずっと続きいつでも戦争を起こせる準備に備える国々。

幾ら年月か経とうと、人々からの記憶が薄まることはないのだ。


 アカツキからは直ぐにリンドウの街へ戻るように伝えられるが、ファーマー、それに山エルフの住み処まで目と鼻の先でもある。

途中、アルステル領近くを通るよりはとの説得で弥生達は、このまま進む事を決めたのであった。



◇◇◇



 一方、弥生達と別れたアイシャは、首都グルメールへ。グルメールでは、エルヴィス国王の結婚で盛り上がる中、アイシャの報告に王宮内は激震が走った。

すぐにワズ大公を中心に重臣が集められ、会議が執り行われた。


「すぐにでも出兵を!」と意気込むワズ大公。しかしながら、馬渕が倒されてからは、平和そのものであった為、軍縮の方に進んでおり人手が足りずにいた。


 ならば、ワズ大公自らが軍を率いてアルステル領に向かう。

表向きは危機感溢れる行動であったが、勿論腐ってもワズ大公。

心底フウカを心配しての行動であった。

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