第十七話 青年、真相に近づく
アカツキ達の目の前で、小さなチワワとなった神獣ガロン。その巨体故に出入口を塞いでいたのだが、こうなってしまってはもとも子もない。
アカツキと流星は、平然と祭壇のある広場から出口を通って行く。
『マ、待テ! 話ガ違ウ!』
アカツキと流星は示し合わせたかのように、ダッシュして逃げる。後ろを見ると小さな足で懸命に追いかけてくるガロン。
「こ、これは……アカツキよぉ」
「ええ。父親になった私たちでは無理です」
懸命にアカツキ達に追い付こうとするガロンの姿は、まるで幼子が父親を追いかけていく姿とダブる。
父親になった二人は、自分の子供の姿を思い出してしまい、足を止めてしまった。
「ガロン……敢えてガロンと呼ばせてもらいますよ。大人しく私たちに力を貸してくれるなら連れていってあげます」
踵を返してガロンを見下ろすアカツキは、ガロンの首根っこを掴みそのまま運んでいく。
『コ、コラッ! 犬ト同ジ扱イハ止メロ!』
「犬じゃないからですよ。小型犬ならこんな持ち方しません」
アカツキと流星、そしてガロンはそのまま宿へと入った。部屋でくつろぐ間もなく、アカツキはガロンに知っていることは、全て話すようにと伝えた。
かさのあるお皿に入った水を舐めていたガロンは、舌の動きを止めることなくコクリと頷くのであった。
◇◇◇
『マズハ魔石ダナ……』
ガロンの話では、心当たりが二つあるという。一つはドラクマに鉱山があるはずだと。
しかし、それは直ぐにアカツキが否定する。
魔王であったルスカが知らないはずはないし、恐らく今まではその鉱山の魔石で賄っていたのであろうと予測した。
もう一つは聖霊王が所持している可能性が高いという。
魔法を使うにおいて聖霊の使役は必要不可欠。
魔石はその聖霊の死骸の集まりだとガロンは話をした。
「なるほど。聖霊王ならば聖霊達の死骸が身近にあるだろうし、魔石を持っていてもおかしくないと」
『シカシ、問題ハ聖霊王ガ何処ニ居ルノカガワカラナイコトト、聖霊王ト神獣ハ仲ガ悪イノダ』
「机上の空論ですか。聞くだけ無駄でしたか。いえ、待てよ。ルスカなら知っているかもしれませんね。そう言えば何故聖霊王と神獣は仲が悪いのですか」
結局魔石に関する手がかりは、ナーちゃんの故郷である森エルフしか残されていない。しかし、僅かな可能性としてもっと聖霊王の事を知っていく必要があると、仲が悪い理由を尋ねた。
『神獣ハ神々カラ、ローレライトドラクマヲ守護スル役目トシテ、各地ヘ移動スル。ソノ
これはルスカに聞くしかない。聖霊王の力の一片を使うルスカなら何かを知っているかもしれないとアカツキは考えた。
『次ハ歪ミカ……』
もし故意に発生させたのならば、それは人の範疇を越えた力だと、ガロンは前置きする。
「ガロンの言う通りだと、人を越えた力……もしかしてルメールという神が復活したのでしょうか?」
この一連の事件の原因が元々ルメールという神を信仰していたローレライの原住民だとすれば、ルメールを復活させてその力の一端として歪みを発生させる力を得たのではと考えた。
しかし、復活はしていないとガロンは言い切る。
『神獣ガコノローレライニ居ル理由トシテ、ルメールノ復活ヲ見張ルト言ウ理由モアル。復活スレバ神々カラ神獣ニ連絡ノ一ツモアルハズ』
「でもよ、実際に歪みは起こっているんだし、何かしらの可能性は無いのか?」
流星の問いにガロンもアカツキも唸る。
「えっ……!?」
アカツキは何かに驚き声を上げる。
それは複数の映像がアカツキの目の前に広がっていた為に。
今までルメールに関して沈黙を保ってきたレプテルの書からの解答であった。
レプテルの書が見せるのは、過去の歴史。初めに見せてきた映像は、奇妙な映像。空が裂けて、そこに吸い込まれる大きな何か。
その巨体が何かは分からなかったが、大きな鍵爪状の手をしていた。
(この手……何処かで見たような……)
直ぐに二つ目の映像に切り替わる。そこにはフードを目深に被った見覚えのある男二人ががっちりと握手をする映像であった。
「……ま、馬渕。それにもう一人……この人も何処かで……」
馬渕と握手を交わすこと自体が、本来この世界の住人からしたら奇妙な気が。
この世界に来てからの馬渕は、殆んど本性を隠さずにいた。
つまりこの握手を交わす人物は、無警戒に馬渕に近づいていることになる。
「転移者か」
向こうでは優等生を演じていた馬渕。同じ転移者を騙すのには、もってこいである。
そして最後の映像。先ほど馬渕と握手を交わしていた男が映っていた。
馬渕が側には居ないが、以前ルメール教を装って襲ってきた時と同じマント付きのフードを被った者達と言い争いをしていた。
そして次の瞬間、男が言い争いをしていた相手に手を向けると、マント付きのフードを被った連中が逃げ始めた。
しかし、行く手を阻むように空間に亀裂が入ると、フード付きのマントを残して文字通り砂と化して吸い込まれた。
アカツキは今と違い、昔は人にあまり興味がなくクラスメイトの顔を殆んど覚えていない。
映像を見終えたアカツキは、流星に直ぐ様、その男の特徴を伝えた。
背丈は馬渕と比較してもかなり低くぽっちゃりとしており、瞼が腫れぼったく薄目を開けているような容姿。
流星は、一言「そいつが、原田勇蔵だ」と答えたのだった。
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