第二話 隠居した幼女、静かな暮らしを謳歌する

 アカツキと弥生の子は、ルスカによりフウカと命名される。

この話は、リンドウの街全土に拡がって知られることに。

この街を国を救ったのがアカツキとルスカと知っている住人達は、入れ替わり立ち替わりアカツキの家を訪れて挨拶をしていく。


 一方、ルスカというと、専ら最近は以前着ていたローブと白樺の杖を封印して、短パンにTシャツ姿と、益々幼女っぽい格好をしていた。

髪は以前のように、ストレートではなく、弥生にお願いして編み込んだり結んだりと様々であった。

何故、ルスカがそんな格好をしているかというと、原因は今ルスカの隣にいるアイシャである。


 まずは、アイシャがその後どうなったのかを話さなくてはならない。


 アイシャは、馬渕との決戦後、ギルドの統括官という立場に昇格した。

もともとは、レイン帝国の歴代皇帝が担ってきた役職。

ところが今は、レイン帝国ではなくレイン自治領となっている。

ギルド本部もなくなってしまったが、ギルドの仕事としては、わりかし雑用が多いのだ。

その為、復興を望む声にグルメール王国が主体となって、新たにギルドを立ち上げたのである。


 そして新ギルドの統括官として、アイシャが功績と共に任命された。


 そこまでは良かった。


 もちろん新ギルドの本部はリンドウの街に建てられることに。以前より更に大きくなったリンドウのギルド。

そこのギルマスには“姫とお供たち”の、リーダーだったヤーヤーが着任する。

そして忘れてはいけないが、アカツキ達“イチゴカレー”もリンドウ所属なのだ。


 アカツキ達は、グルメール王国からの褒美を全て固辞していた。

別に金儲けや有名になりたい訳ではない、と。

しかし、それでは国としての面子が丸潰れである。

そこで国からの依頼で権限を駆使して“イチゴカレー”をSSランクのギルドパーティーへと昇格させたのがアイシャであった。


 以前と違い、SSランクだからといって国から援助される訳でもない。

しかし、その効果は抜群で、直接の依頼が各国から殺到したのだ。

ハッキリ言ってアカツキに、そんな遠出をする余裕はない。

身重になった弥生を置いてまで、稼ぐ必要はないのだ。


 結局“イチゴカレー”は解散となり、ルスカはギルドから離れてアカツキ単独で、リンドウ周辺で細々と採集するくらいに。

“材料調達”がある故に、この世界で一番家計に響く食費の心配は無い。


 そして今、ルスカは隠居をして見た目通りに幼女らしく遊ぶ日々を過ごしていたのだ。


「そろそろ完成なのじゃ」

「そうですねぇ。ルスカ様は、満足頂けたでしょうか」

「うむ」


 街のど真ん中完成しつつあった英雄の像をルスカとアイシャは眺める。

この英雄の像は、ローレライ全土に作られていた。


 土台となる場所に貼り付けられた金のプレート。目立つくらいに大きな字でデカデカと“英雄ロックを讃えて”と書かれていた。

今まで着たことないような立派なマントに身を包み、天に向けて剣を掲げる英雄ロックの像。

その顔を見る度にルスカのハラワタは煮えくり返りそうになる。


 アスモデスに立ち向かい、死んだと思われたロック。運良く生きていたことは、ロックの仲間であるマンやチェスターからルスカの耳に入る。


「そうか、そうか。良かったのじゃ。生きていたなら、それで良いのじゃ」と、笑いながら、こめかみに青筋浮かべるルスカ。

そして、ルスカは三国会議の代表という権限をフルに使って、ローレライ全土にロックの像を建てるように、強引に可決させた。


 ロック本人は完成前であったが、ドゥワフ国に建てられた自分の像を見て、泡を吹いて倒れたと、ルスカは聞いていた。


「ワシはな、別に怒ってなどいないのじゃ。ただ、ロックあやつの顔を思い浮かべるとな、イラっとするだけじゃ」

「はぁ、イラっと……ですか」

「二番目はアイシャお前じゃがな!」


 そう言ってニヤリと口角上げるルスカに、アイシャは嫌な予感しかしなかった。



◇◇◇



 アイシャと別れ、ルスカはセリーに会いにいく。


“酒と宿の店 セリー”は、変わらず繁盛していた。新たに建てられた建物は、以前より一回り大きくなり、宿の方はセリーが、食堂の方はゴッツォと、ここに戻ってきたマンが切り盛りしていた。


「あ、いらっしゃい。ルスカちゃん」

「セリー、遊ぼうなのじゃ」


 宿に入るなり、遊びに誘うルスカに困った表情のセリー。今は食堂も忙しく、宿の受付を離れる訳にはいかなかった。


「ごめんねぇ、ルスカちゃん」

「大丈夫なのじゃ。もうすぐアカツキが手伝いに来るのじゃ」


 単独で仕事をするようになったアカツキは、時折セリーの店の手伝いもしていた。

ゴッツォ、マン、セリーの三人は、ほとんどフル稼働で休む暇がない。

そして、この店の仕事内容は、宿では掃除やベッドメイキングや洗濯、食堂では料理や接客。

ハッキリ言ってアカツキにピッタリの仕事内容であった。


 しばらくすると、アカツキがやってくるや、セリーはエプロンを受付台の上に脱ぎ捨てルスカと共にアカツキの脇を通り抜け店を出る。


「いってきますなのじゃ、アカツキ!」

「すいません、アカツキさん。あと、お願いしますぅ。待ってぇルスカちゃん!」

「はい、二人とも気をつけ──あっ!」


 ルスカは大通りのど真ん中で派手に転ぶ。心配そうな表情でルスカに駆け寄るセリーを見てアカツキは、フッと笑みを溢して店内へと消えていった。



◇◇◇



「何して遊ぶのじゃ?」


 転んで半べそのルスカは、平然と見せかけながら服に付いた砂を払う。


「そうだねぇ、リュミエールさんに、お菓子作り教えてもらおうよぉ」

「またなのか。お菓子はアカツキが作った奴の方が美味しいのじゃが……」

「もう。ルスカちゃん。手伝ってくれるって言ったじゃないぃ」


 パクを射るには、まずはリュミエールからと、セリーの策に乗ったことを少し後悔していた、ルスカ。

隠居したとはいえ、三国会議の代表としての立場は残っており、各国の様子が耳に入っていた。

そして、その中には、パクことエルヴィス国王の婚約が決まったことも……。

まだ、公表はされておらず、セリーの知るところではなかった。


 とはいえ、友人の恋を応援したい気持ちもあり、ルスカからは中々言い出せずにいたのだ。


 そして、セリーとルスカの二人は、今日もリュミエールにセリーの印象を良くするために、ナックの屋敷へと向かうのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る