第十五話 改造パペットヨミー、改造魔王に立ち向かう

「あ、アドメラルクが死んだ……じゃと?」


 ルスカに知らせにドラクマからやって来た魔族は、唇を噛み締めながら悔しそうに頷く。


「それでは、今このローレライに向かって来ているのは、アスモデスという魔王の息子なのですね」

「ねぇ、ねぇ、須藤ちゃんはどうなったの? アスモデスって子のお母さんなんだよね?」

「須藤さんが? 魔王の母ですか……」


 初耳のアカツキには、地味で大人しいアヤメが、魔王の母とは意外な組み合わせだと、驚く。


 しかし、聞かされたのは須藤綾女の凄惨な最期であった。


 弥生やカホはショックを受けつつも、今は落ち込んでいる暇はないと頬を叩いて気合いを入れる。


 アドメラルクの最後の詳細は、この魔族にはわからなかったが、見たことを全て話す。


「改造魔族でしょうね。あれは」

「うむ、しかも以前より随分と厄介なのじゃ」


 自爆して粉々にしても倒せないと聞き、一同は成す術がないと絶望する。

しかし、ルスカは白樺の杖で床を叩き、注視させると、手はあるという。


「アドメラルクがその身をもって証明してくれたのじゃ……粉々で駄目なら消し去ってやればよい」

「しかし、ルスカ。あれに魔法は……」

「それもアドメラルクが証明してくれた。バラバラになったということは高威力なら効くと言うことじゃ、反射もへったくれもない」


 そう言うとルスカは一人部屋を出ていく。そして、ガラス扉を開き半円状のテラスへと出ると白色の柵を掴み、眼下に広がるグランツリーの街並みを眺める。


「……あのバカたれが。厄介ごとを押し付けれたと思ったのに……見事押し付け返されたのじゃ」


 目を閉じて、その小さな体をを小刻みに震わせ、時折嗚咽する。そんなルスカの背中を声をかける事なく、アカツキと弥生は、見守っていた。


 再び、部屋に戻って来たルスカの眼は少し赤く腫れぼったい。しかし、その事を茶化す者は、ここには居なかった。

今後、アスモデスをどうするか改めてルスカを交え話し合おうとした、その時。

再び伝令の兵士が北の砦からやって来る。


「……全軍全滅しました。ゲイル様も……無念です」


 アスモデスは、既にレイン帝国へと入っている為、分かっていたことではあったが、イミル女王は、ゲイルの訃報が改めて届くと気丈な表情で急ぎ駆け付けた伝令を休ませるように指示する。

兵士が退室すると、イミル女王は座っていた椅子から立ち上がるが、足に力が入らず側にいたアデルに支えられる。


「アデル、ごめんなさい……貴方の、貴方の弟を……」

「陛下。謝らないでください。弟は立派に務めを果たしたのです。褒めてあげてください」


 イミル女王を休ませる間もなく、続いて来た伝令は、アスモデスがレイン帝国の方に向かったという急報であった。


 アカツキは立ち上がり、すぐに帝国に向かおうと提案するが、それを止めたのは意外にもルスカであった。


「アカツキ。気持ちはわかるが、落ち着くのじゃ。今から新しく出来かけの王国と帝国を繋ぐ街道を通って向かったとしても、アスモデスは既にレイン帝国におる。

一番厄介なのは、あれほど巨大なら意外と進む速度が速いということじゃ。下手をすれば、あれの後を追いかけることになり、いつまでも追い付けず砂漠経由でグランツリーに進まれる可能性もあるのじゃ」

「……‼️ そ、そうですね。私が迂闊でした……先読みして迎え撃つのが最善策……です」


 アカツキの気持ちもルスカには分かっていた。ルーカスやヴァレッタが心配なのだろう。願わくは二人が立ち向かうことなく、上手く逃げ出してくれてればと祈るばかりであった。



◇◇◇



「逃げましょう」


 ルーカスが皇帝に出した答えは、これであった。既に帝国の周辺諸国には避難するように伝令を出している。あとは、帝都レインハルトのみ。

逃げという選択は軍事国家である帝国の名前を落とす行為。

しかし、圧倒的なプレッシャーを放つアスモデスの前に、誰もそれを口にはして反論しようとはしなかった。


「しかし、逃げるとしても時間が圧倒的に足りません。そこで、逃げるのは住民のみ。そして、逃げるのはドゥワフ国とグランツ王国の二手に別れた方が良いでしょう」


 続けてルーカスの提案に重臣達に一気に動揺が走る。てっきり自分達も逃げるのだとばかり思っていた。

しかし、ルーカスの言うことも同時に理解出来た。

逃げるのには、人数が多すぎる。

せめて、あの巨人を一日くらいは引き付けておく必要があった。


 重臣達にも守るものがある。腐っても武を尊ぶ帝国の重臣である。

皆の覚悟は決まり、目付きが変わったことに皇帝は気づくと、内心彼らを誇らしく思うのであった。


「ルーカス。お前に全権を与える。見事成し遂げてみせよ」

「はっ! それでは、早速。急ぎ軍を整えよ! 人手が足りぬ。ギルドからも出させよ。それと、ロック殿!」

「えっ、俺?」


 まさか自分に指名がかかるとは思っていなかったロックは、思わず緊張して背筋が伸びる。


「貴方にはドゥワフ国に身内がいる。レインハルトの住民の内、移住してきたり、滞在しているドワーフ中心を集めて引率してドゥワフ国へ逃げて欲しい」

「わ、わかった。任せろ」


 ロックと重臣達は急ぎ足で出ていく。


「ヴァレッタ」

「はい、お父様」

「お前はレベッカ様を始め陛下の家族と共に、残った住民を連れてグランツ王国に逃げなさい」

「わかりました。お父様」


 物わかりのいいヴァレッタにルーカスは、一瞬戸惑う。絶対に一緒に残る、そういつものヴァレッタなら言いそうだったのに、予想外の反応であった。

しかし、ルーカスはヴァレッタの今にも泣きそうなほど潤む目を見て、我慢強い娘を誇らしく感じた。


「お前を独りにする父を許せ」


 天井を見上げたルーカスは、ふるふると肩を震わせながら、ヴァレッタを優しく抱き締める。


「お父様……お父様ぁ……」


 父の胸に顔を隠してヴァレッタは声を殺して泣き出してしまうのであった。



◇◇◇



 一方、ヨミーは一人アスモデスと対峙していた。

人の倍はあるパペットのヨミー、それを更に上回る大きさのアスモデス。

昔ルスカが作ったパペットは、魔王崇拝を謳ったルメール教を征伐するために戦闘に特化しており、武装もされていた。


 しかし、ルメール教がなくなり、一時の平和にパペットの殆どを廃棄して改造を施し、自我を持つが武装のないヨミーを作った。


「ルスカサマ、武装解イタノハ、ミスチャウカナァ」


 ヨミーは、アスモデスに近づいていく。アスモデスが咆哮すると、口元から青白い光が放たれヨミーに命中する。

足元から徐々にヨミーの全身へと凍りついていく。


「舐メンナァ、コラアァッ‼️ ワイニ魔法ナンカ効クカイ‼️」


 力ずくで足元の氷を破壊して一気にアスモデスの懐へと詰め寄る。

近づかれるのを嫌ってか、ヨミーを引き離そうとアスモデスは拳を繰り出すが、ヨミーはそれを三本しかない指のようなもので掴むとガッチリとロックした。


「捕マエタデェ! 覚悟セェヤァ‼️」


 ロックした三本指が手首のところから回転し始める。ロックされて外せないアスモデスの腕が勢い良く捻れていく。


「オラァァァァッ‼️」


 とうとう限界まで捻れた腕は、ブチブチと音を立てながら捻れ切れていく。


「マダマダァァァァッ‼️」


 アスモデスの捻り切った腕を放り投げると、ヨミーはアスモデスの懐に潜り込み腰を回転させてフック気味のパンチを腹へと繰り出した。


 右、左、右、左とまさしく腰の入ったボディブローを受けたアスモデスは、その巨体を踏ん張りながらもジリッジリッと後退させていく。

苦しいのか咆哮するアスモデス。


「魔法カ!? 残念ヤガ、ソノ位置カラダト当タラ──クソッ!」


 攻勢に出ていたはずのヨミーは、急ぎアスモデスから離れていく。

かなりの距離を取ったヨミーは、両腕を顔の前で畳みクロスさせる。


「グウウゥゥゥゥッッ……‼️」


 アスモデスから放たれた赤い光は真っ直ぐにヨミーへと向かってくる。

しかし、ヨミーは避けることなく、真正面からその光を受け止めると爆発の威力に足を踏ん張った。


 対魔法処理が施されているために、傷はないものの背後をチラリと見たヨミーの視線の先には、帝都レインハルトがあった。

皮肉にも守るべきものが、ヨミーの足を引っ張る結果となってしまったのだった。

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