第二十一話 魔王と魔王、開戦する

 アドメラルクは腰に携えた剣を抜くと、構えることなく切っ先を地面に向けて立っていた。

舐められていると感じた。

魔族どもは、かつての王だった者に“お前ら相手に構える必要無し”と言われていると。


 魔族どものボルテージは上がり、かつての王に向かっていく。相手はたった一人。数で押せばなんとかなるだろうと。


 ──それが魔族どもの欠点であった。今の魔族でアドメラルクの実力を知っている者は、現在グランツリーを攻めているモルクのみ。


 アドメラルクには全盛期ほどの力が無い、復活して日にちが経っていないため全力は出せない、そういった情報は魔族どもも聞いていた。

聞いていたが故に見誤る。


 先頭に立った蛇顔の魔族が、三又の槍を持って襲いかかる。

そのままの勢いで突けばいいものの、アドメラルクの寸前で立ち止まり槍を自らを鼓舞するように振り回す。

全くもって無駄な動き。


 アドメラルクは、脱力の状態から、一歩足を踏み込むと腰を回して斜め下から上へと剣を振り抜くと、蛇顔の魔族の胴が二つに別れた。

青黒い血がベッタリと付いた剣を振り払うと、血飛沫が地面に。


 まさかの一太刀で斬られるとは思わず魔族どもは、再び怯む。

背後からはアスモデスが魔族を脅すように怒気を纏い、前面にはアドメラルクが静かに闘気を立ち上らせる。


「くっ……か、囲めぇ! 取り囲むんだぁ!」


 アドメラルク一人に多勢が取り囲む。一見有利に見えるが、これは愚策。

統率されている者達ならば、指揮官の指示で的確に攻撃を仕掛けるだろうが、指揮官がいなければ好き勝手にやってしまう。

多数で囲んでも攻撃出来るのは数人であとは、邪魔なだけである。


 多数対アドメラルクの有利な状況から、一変して数人対アドメラルクの形になる。

しかも取り囲む幅を魔族全員が狭めるものだから、一度に襲える人数は更に減ることに。

お互いの体がぶつかり動きが止まるは、長い獲物も味方が邪魔で奮えないは、魔法など使うものなら避けられて味方に誤爆する有り様。


 その点アドメラルクは、腕の力と腰の回転、足捌きでまるで剣舞を踊るかのように斬り続け、死体の山を築き、それが邪魔で魔族どもが更に動きが鈍る中、一人アドメラルクは舞い続ける。

いつか体力が尽きるだろうと魔族の淡い期待を嘲笑うかのように。


 魔族の数が実に半分ほど減ったあたりで、魔族どもは動きを止める。

アドメラルクの周囲には幾つもの魔族の死体が積み重なっていた。


「どうした? 終わりか?」


 アドメラルクが一歩動く度に取り囲む魔族の円が少し広がる。

ここに来て、魔族どもは揺らぐ。本当にアスモデスについてきて良かったのだろうか、と。


 最早、魔族にアドメラルクと戦う気概は無くなっていた。逃げ出したい──しかし、背後からアスモデスが睨みを効かしている。


 そんな魔族どもに救いの手がさしのべられる。


「アドメラルクどの! 魔族達は我々に任せよ‼️」


 魔物を追い払い終え、二軍をまとめたルーカスとゲイルが、魔族相手に斬り込んで行く。

魔族どもは、良い言い訳が出来たと、喜び勇んで応戦し始めた。


 魔族対人間。一対一ならば人間が不利だろうが、先ほどまで逃げ腰だった魔族と、魔物を追い払い意気揚々としているグランツ・帝国連合。

統率が取れ、指揮官ルーカスの指示で的確な動きを見せる。

それに対して好き勝手暴れる烏合の衆。


 勝敗は明らかだった。指揮を執るルーカスも、本能で動かれる魔物よりも、自分で考え、感情が分かりやすい魔族の方が随分と楽であった。


 一人が逃げ去り、その姿を見てもう一人が逃げ去っていく。

複数の人数で一人の魔族にあたられ、その数はどんどんと減るばかり。

逃げ去る連中を追いかけて行く。

追いやられ崖へと落ちていく魔族達。

登りは持ち前の筋力や、その特性を生かして飛んだり引っ付いたりしていた崖から見事に落ちていく。


 残りはアスモデス。それに対峙するのは父親のアドメラルク。

その実力は、現在はアスモデスが圧倒的に有利である。

アドメラルクの力は間違いなく落ちていた。


 対峙する二人は互いの力量を見定める。アスモデスにはアドメラルクが実際より大きく見える。

アスモデスは、完全にアドメラルクの実力を読み違えていたのであった。


 アドメラルクは息子に声をかけることなく、剣を握りしめて正面から襲いかかる。

本気も本気。殺すつもりで振るったアドメラルクの剣は、アスモデスの纏う魔力に囚われ逸れてしまう。


「ちっ!」


 想像以上にアスモデスの守りが固い。ああも容易く防がれるかと、アドメラルクの眉はピクリと動き、動揺を見せる。

しかしアスモデスは、逸れたとは思っておらず、ただ、アドメラルクがからかっているのかと。


 ──圧倒的な経験の差。それがアスモデスから冷静な判断を奪っていた。

まともにぶつかっていれば、アドメラルクの実力を見間違えなかっただろう。


 剣の握る力を強め、再びアスモデスに襲いかかると先ほどと違い、纏う魔力に剣が通り抜けるが、振るう剣の速度は落ちる。

刹那、アスモデスは身をひるがえし避けることに成功した。


 今度は間違いなく実力で。しかしアスモデス本人が「避けれた!?」と驚く有り様。

一方、アドメラルクは表には出ていないが内心で苦悶の表情だろう。

かなり全力に近い一撃を放ったつもりであったが、それでも一瞬剣速が落ちるほどの魔力。

自分がいない僅かな期間でこれほどの力を身につけたアスモデスの背後には、ある男の影が見えていた。


(リリスに力を与えたように、息子にもか……)


 忌々しく馬渕の顔を思い浮かべてか、顔を歪めるアドメラルク。アドメラルクは瞳に魔王紋を浮かべると、金色の長髪が激しく揺れだす。

右手には剣、左手には魔法の準備を整え始める。


 アドメラルクはここでアスモデスを完全に敵として殺す気に変わる。親に逆らう息子ではなく、馬渕に操られた哀れな魔王として。


“バーストブラスト‼️”


 左手を向け、赤い光を飛ばすと同時にアドメラルクは動き出す。アスモデスも咄嗟に同じ“バーストブラスト”で迎え撃つ。

お互いの赤い光がぶつかると、激しい音と共に爆発を二人の間で起こし、土煙を巻き上げる。


 爆発が収まるが、土煙はモクモクと登る。その土煙を掻き分けるように、体中に傷を負ったアドメラルクがアスモデスの眼前に迫る。


“バーストブラスト”


 現れたアドメラルクは、左手をアスモデスに向けたまま突撃をしてきて、魔法を放つ。

アスモデスも負けじと後方に飛び退きながら、魔法で迎え撃った。


 再び二人の間で爆発が起こる。至近距離、二人とも吹き飛ぶがここで、差が出てしまう。

身に纏う魔力に守られ、ほぼ無傷のアスモデスに対して、一度目、そして二度目の“バーストブラスト”の巻き添えを食らいアドメラルクの腹部から、そして左腕から出血を起こしていた。


 アドメラルクの表情は変わらずに平然と見せていた。一方アスモデスの表情は一変する。

ニヤリと口元を緩ませて嗤う。目には先ほどまでなかった自信に満ち溢れていた。


「く、くくく……あーっはっはっは‼️ そうか、そういうことか。残念だったな、元魔王。思っていた以上に俺とお前には差があるようだ!」


 アスモデスもようやく気づく。だが、アドメラルクの表情は揺るがない。

あくまでも平然と、その立ち姿は威風堂々としていた。 

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