第十六話 幼女と青年、捕縛される

 現在、ワズ大公は王の間で両耳を指で塞いでいた。


 ワズ大公の前には瓦礫の中から見つかった第一王妃と王妃の取り巻き達が縛られており、そこに同じく縛られているアカツキとルスカもいた。


 ルスカが頂上付近を破壊した後は、あっという間だった。



◇◇◇



 誰もが呆然としている中、ワズ大公が到着するや否や開門を促すと、あっさり門が開き城へと突入する。

現在いる王の間は無事だったものの、王妃のいた部屋は、散乱し半分崩れた屋根の瓦礫にまみれていた。


 王妃は側近に庇われたものの、瓦礫の下敷きに動けずアッサリと捕らえられる。

住民にその事を伝えられ、どさくさ紛れに逃げようとしているルスカのフード部分を掴んでいるアカツキと共にルスカはワズ大公の兵士に捕らえられたのだ。



◇◇◇



「なんでじゃ! なんでじゃ!! ワシは何も悪い事をしてないのじゃ! ちょーっと、手元狂っただけなのじゃ!!」


 ルスカはブレイクダンスを彷彿とさせるほど、床をローリングしながら足をばたつかせる。


「何が、ちょーっと、だ! かろうじて、この王の間は天井にヒビが入っただけだが、王族が住む部屋のほとんどが使い物にならんわ!」

「うるさいのじゃ! ワシは悪くないのじゃ!! 全ての元凶はそこのおばさんなのじゃ!!」


 ルスカにおばさん扱いされた第一王妃は、顔を真っ赤にして怒り心頭になるが、すぐに取り押さえられて言葉を発せない。

その事をいいことにルスカは、ギャーギャーと騒ぎ立てる。


「アカツキ、何とかならんか」


 ワズ大公は、自分で捕らえておいてアカツキに助けを求める。


「ルスカ、飴食べますか?」

「食べるのじゃ!」


 後ろ手に縛られたままアカツキはアイテムボックスから瓶を取り出し飴玉を一つ摘まみ出すと、ルスカはすぐさま指ごと口に入れる。


 コロコロ、コロコロ


 頬っぺを右左と膨らましながら満足げな顔を浮かべるルスカは静かになる。


「す、すまぬな、アカツキ。なに、エルヴィスがここに来るまでだ。辛抱してくれ」


 ワズ大公はアカツキにそう言うと、第一王妃に向き合う。


「アマンダよ、申し開きがあるなら一応聞いてやるが。まあ、何言っても無駄だと思うがな」


 第一王妃アマンダを押さえつけていた兵士が離れると、アマンダはワズ大公を睨み付ける。


「うるさい! 第二王妃の癖に出すぎた真似をするからだ!」

「我は、第二王妃ではないぞ? 何を言って……」

「黙れ! 私の大事な息子を殺しておいて、よくも!」


 話が噛み合わない。アカツキも不思議に思い、ワズ大公を見るが、首を横に振るだけ。


「何を言っておるのだ、お前は! お前の息子が亡くなったのはエルヴィスが産まれてからだ。エルヴィスを産んですぐに亡くなった第二王妃に殺せる訳がなかろう」

「黙れ、黙れ! 王と一緒になって、私の……私の大事な息子を……」


 国王は長子を失い気落ちしていると聞いている。そんな王が、長子を殺すはずがない。

どうも、第一王妃のアマンダはおかしい。


「麻薬か……」


 ワズ大公がそう思っても仕方がないくらい、支離滅裂なのだ。

しかし、アカツキは違和感を感じアマンダをジッと見る。


「ワズ大公、恐らく麻薬ではないと。麻薬にしてはやつれていませんし」


 確かに言われると肌つやはいい。結局アマンダの取り巻き達に聞いても終始ずっとこうだったと言う。


 アマンダに対する疑問は残るものの、アマンダと取り巻きは牢に入れ、アカツキとルスカは別室を用意された。



◇◇◇



 第一王妃の失脚から三日が経ち、ワズ大公が次王になると思っていた住民達は不安になり、度々城の前に集まる。


 アカツキ達は、縛られたままだが部屋は綺麗でメイドと思われる女性が度々世話をしてくれ、不自由はなかった。


 しかし、当初ルスカがトイレに行きたいと訴えた時は大変だった。

てっきり縄を解いてくれるものかと思っていたが、メイドはルスカを大股開きに後ろから抱えてトイレへと向かっていく。


「ちょ……ちょっと待つのじゃ! こ、これは恥ずかし過ぎるのじゃあぁ!!」


 部屋の外に響くルスカの声を聞きながらアカツキは、自分もかと思うと、ゾッとしダラスを呼び懇願し、何とか尊厳は保たれる事になった。


 ルスカに対しても、初めの一度だけで二度目からは縄を外してくれた。


 部屋で大人しくしていたアカツキ達をダラスが呼びにくる。


「今、早馬が来ました。そろそろエルヴィス王子がグルメールに来るそうです」


 アカツキ達はダラスに連れられて、城の庭にやってくる。

城門は開かれ、城のすぐ外には多くの住民が何事かと集まって来ていた。


「エルヴィス殿下の御到着です!」


 一頭の馬に乗った兵士が住民をかき分け城に入ると、住民が左右に分かれ道が開かれる。

そこを馬に乗ったアイシャを先頭に真っ白な馬車が通っていき、城門をくぐった。


 馬車は、ワズ大公、ダラス、第一王妃アマンダを初め取り巻きの犯罪者達、そして未だに縛られたままのアカツキとルスカの前に止まると、御者をしていたハンスとアイシャが目を丸くする。


 何せ、アカツキとルスカが縛られているのだ。無理はない。

ハンスは急いで、馬車の扉を開けると中からはミラとちょっとしたドレスに身を包んだリュミエール、そして最後に立派な青い服のパクこと、エルヴィス王子が降りてくる。


 エルヴィス王子を先頭にワズ大公に挨拶をしようと歩を進めると、三人は固まる。


 ワズ大公の前にはアカツキと、胡座をかいて不満げなルスカがいるのだ。


「えーっと……初めまして叔父上。エルヴィス・マイス・グルメールです。ところで何故アカツキ様やルスカ様が?」


 ワズ大公は腕を組み目を瞑ったまま、指を一本、天に向けると、エルヴィス達も目線を上げる。


「城を破壊しよった」


 一言そう言うと、大きくため息を吐く。


「叔父上、縄を解いて頂けませんか? 城などどうでもいいではありませんか」


 エルヴィスはワズ大公に訴えるが頑として動かない。


「エルヴィス、いやエルヴィス国王。我は臣下となる身だ。お願いではなく、命を下すのだ」


 元々本気ではないのだと気付きエルヴィス達は思わず、吹き出しそうになると必死に堪え、改めてワズ大公に命を下すのだった。



◇◇◇



「うー、ひどい目にあったのじゃ! ワズ大公め、覚えておれよ」


 ルスカは年寄り臭く肩を回しほぐし、大きく腰に手をあてながら背筋を伸ばす。


「ルスカ様、申し訳ありません」


 エルヴィスが頭を下げようとするが、それを手で制止する。


「国王が気安く頭を下げてはならぬのじゃ。それより、王女は何故そんなみすぼらしい格好を? 初めに来ていたドレスは……あっ!」


 今の衣装も決してみすぼらしい訳ではないが、初めに見た純白のドレスと比べると見劣りする。

しかし、そのドレスは今アカツキのアイテムボックスの中だ。


「みすぼらしいとか、あんまりですよ」


 リュミエールは、なるべく立派な衣装で身を包みアカツキに会いたかったのだが、リュミエールのイメージに合わないどぎつい紫色のドレスしか胸元が合わなかったのだ。


「アイシャさん、お疲れ様です。疲れたでしょう?」


 アイシャは、アカツキ達にワズ大公が来る事を伝えた後、エルヴィスを迎えにリンドウの街まで駆け抜けていた。


「いいえ、なんのですよ」


 アイシャは平気だと、明るく振る舞う。


 そんな中、エルヴィスは一歩、第一王妃の側に行き見下ろす。

取り巻き達は、必死に延命をエルヴィスに訴えるが、兵士達に頭を押さえつけられる。


「義母上、何故こんなことを……」


 エルヴィスは悲痛な顔をしていた。

元々アマンダの長子とは仲が良く、特にアマンダに対して嫌ってなどもいなかった。

だからこそ、自分の手でアマンダの命を左右することに躊躇う。


「誰だ、お前は?」


 アマンダは覚えていないのか、不思議そうな顔をしてエルヴィスを見る。

リュミエールが態度に怒りを覚え、一歩前に出るとアマンダはリュミエールを睨み付けてくる。


「この、悪女め! お前さえ、お前さえ居なければ!」


 突然の暴言に兵士が押さえつける。


 リュミエールは驚き困惑するが、ワズ大公から自分に第二王妃の面影を浮かべたのだろうと言われて、哀れんだ目でアマンダを見下ろすのだった。

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