第十五話 幼女と青年、蜂起する
アカツキ達の目の前に、縛られたグルメールギルドのギルドマスターのマッド、副マスター、受付のエルフが並んでいる。
「おい! どういうつもりだ!? アイシャ!」
憤るマッドの横っ面に、アイシャの蹴りがめり込み縛られたまま転がっていく。
今まで見たことのないアイシャにアカツキとルスカは顔がひきつる。
「どうもこうもありません! あなた方が麻薬に関わっているのは明白なのですよ!」
「いてて……なんだよ、麻薬って! おれは知らんぞ!」
麻薬と聞いて反応したのは、副マスターと受付のエルフだ。
マッドは知らないと言い張るが、それでもアイシャは容赦なく再び蹴り飛ばす。
「あなたは知らないじゃ、済まない問題でしょう!? どうやら、実際に関わっているのはそこの副マスターと受付みたいですが」
嘘が下手なのだろう、副マスターと受付のエルフは顔を真っ青に染めて、視線を合わそうとしない。
「お前ら……何て事を」
マッドはその目に力が無く、ゆっくり起き上がると、自分の責任を感じてか大人しくなった。
「さて、あなた達二人は話をする気がありますか? 別に喋らなくても更新台を使えば、嘘かどうか分かりますし。今、喋れば帝国ではなくこの国で裁定されます。帝国なら……まぁどうなるかは分かってますよね」
帝国はギルドを各街に置く代わりに、何か不祥事があれば厳しい判決が下される。
今回だと、死刑は確実の案件だ。
だが、王国なら多少の情状酌量が見込めるかもしれない。
確実か、僅かな希望か。
二人がどちらを選択するかなど、明白だった。
「わ……分かりました。全てお話します」
エルフの女性がボソリボソリと小声ながら話を始めると、副マスターも同じように話を始めた。
二人の話によると、やはり二人は王族、というより第一王妃と繋がりがあるようだ。
見返りとしては、街の中での麻薬の売買権。
実際の仕入れでは第一王妃の実家からで、第一王妃の実家のお抱え商人が持ってくるそうだ。
しかも、商人の中にはあの奴隷商も含まれていた。
アイシャは、ナックの元に行き麻薬を隠している場所を伝える。
ナックは黙って了承し、仲間と共に指定された場所へ向かった。
そして大きなうねりが始まる。
アカツキは、二人の話をギルドの外に聞こえるように復唱すると、噂が事実だと知りグルメールの住民の気勢が高まる。
この場はアカツキ達に任せてアイシャは、グルメールの街の外に向かう。近くまで来ているはずのワズ大公の元に。
あっという間だった。一度高まった住民の怒りは城に向かい、口コミで広まり多くの住民が城を取り囲んだ。
◇◇◇
一方ワズ大公の元へ向かったアイシャは馬をひたすら飛ばす。
今度は門番が引き止めにかかるが、馬の勢いを緩めず振り切って通り抜けた。
ワズ大公の軍は、門を出ると街道の先に陣を構えているのが見えており、かなり近くまで来ている。
アイシャは、そのまま走り抜けワズ大公の軍の側に寄ると、ワズ大公の面会を申し出た。
「おお! アイシャ来たか! 首尾はどうだ?」
「はい、ギルドの副マスターと受付が白状しました。やはり黒幕は第一王妃と王妃の実家です!」
陣に用意された椅子にどっしりと座っているワズ大公に対して、アイシャは片膝を付き今までわかった事を伝える。
「そ、そうか……やはり、兄上は自ら麻薬にハマっていた訳ではないのだな……」
ワズ大公は肩を震わせて涙が頬を流れる。
「よし! アイシャ、少し待っておれ」
流した涙を拭うと、陣の先頭に出る。ワズ大公の陣の先には対峙している国軍が。
「国軍の者どもよ! 聞け!!」
ワズ大公は、信じられないほどの大声で国軍に向かって演説を始める。
「我は前国王の弟、大公のワズ・マイス・グルメール!!
今、グルメール王国崩壊の危機!
そなた達は、映えある国軍だ!
そんな汝らに問う、我は逆賊の第一王妃アマンダを討つ!!
第一王妃は麻薬を使い、兄の前国王を殺した逆賊だ!
汝らはどうするのだ!
我の言葉を信じる者は我と共に逆賊を、信じられない者は去ってくれてもよい!! さあ、どうするのだ!」
高らかに演説するワズ大公。
演説を聞いた国軍は静まりかえる、ただ一部を除いて。
しばらくすると、国軍から馬に乗った兵士と馬に引きずられた縄で縛られた者が、ワズ大公の前にやってくる。
「我ら国軍は、ワズ大公に賛同しついて参ります。この者は、第一王妃と繋がりがあると思われる元指揮官です」
縄で縛られた男を、ワズ大公の前に無理矢理
ワズ大公は、興味無さそうにその男を兵士に連れていかせると、再び大声で国軍に向け訴える。
「汝らの総意は受け取ったぁ! 我らに続けぇ!」
国軍、そしてワズ大公の軍から一斉に
ワズ大公は陣を片付けさせ、兵をグルメールの方向へ転換する。
「ワズ大公、あと第一王妃の実家ですが……」
「心配いらぬ、アイシャよ。既に我が領にいる息子に攻めるように伝令を出しておるわ」
「分かりました。それでは、ワタシは次の行動に移します」
アイシャはワズ大公に一つ頭を下げると、馬に乗りグルメールの方向へと走らせる。
準備を終えたワズ大公の軍と国軍もアイシャを追うように首都グルメールに進軍するのだった。
◇◇◇
アイシャは、グルメールの門番に逃げないとワズ大公の軍と国軍に殺されますよと脅すと、やすやすと首都に入る。
アカツキ達の元へ行き、ワズ大公が来る事を城に押しかけている住民にも聞こえる様に伝える。
住民に歓声が上がる中、アイシャは馬を
城の門は固く閉ざされ、城兵が住民を追い返そうと声を張り上げるものの、住民の歓声にかき消され届かない。
アカツキとルスカは先頭に立ち、時折パニックになっている城兵が仕掛けてくる矢や魔法から住民を守っていた。
「ルスカ、あちらです!」
「うむ」
“ウィンドフォール”
住民に襲いかかってくる矢を下降気流の壁が叩き落とすと、地面から土埃が舞う。
「ん!? アカツキ、ワズ大公の軍が来たのじゃ! そろそろこちらも仕掛けるのじゃ」
ルスカを腕に抱えてアカツキは、ワズ大公が来る方向とは逆の城の西側から東側へと移動する。
城をぐるりと回り、東側へと移ると城兵が住民に向け矢を構えていた。
「ルスカ!」
“ウィンドフォール”
再び矢を下降気流の壁が叩き落とし、地面から土埃が激しく舞う。
「このまま門を壊すのじゃ!」
“バーンブラ──くしゅ”
土埃にくしゃみをしたルスカの手のひらから、赤い光が放たれる。光が向かう先は城門……ではなく、明後日の方向に。
大きな轟音と共に崩れていくのは、城の頂上付近。
「……」
「……」
住民も城兵も静まりかえり、聞こえるのは崩れ行く瓦礫の音のみ。
その場にいた全ての人々誰もが目を丸くして動けない。
いや、ただ一人アカツキの腕から抜け出し、その場を抜き足差し足と逃げる幼女のみが動いていた……
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