第13話 幼女と青年、クエストと生活の準備をする

「まず、ピーンと言うのがどういう物で何処どこで採れるか、ゴッツォさんに聞いてみましょう。宿も退かなければなりませんし」


 昨日初めて飲んだピーンの絞り汁。ピーンがどういうものかもわからなければ話にならない。

アカツキはルスカと共に本格的なクエストに少し不安にさいなまれながらも、まずは情報収集だと、宿へと戻るのだった。


 酒と宿の店セリーに到着した二人は扉を開けると、受付のセリーが出迎える。


「あ、アカツキさん、ルスカちゃん、お帰りなさいぃ。お家どうでしたぁ? 見つかりましたぁ?」

「うむ、見つかったのじゃ!」


 新しい家が楽しみなのだろう、セリーの質問に真っ先に答えるルスカ。

その目はキラキラと輝いているようにも見える。


「それでは、宿を引き払うのですねぇ。ちょっと、寂しいなぁ」

「家に遊びにくればいいのじゃ!」


 ルスカは、身振り手振りを踏まえて新しい家の中を話す。

その間、食堂の中をアカツキが覗くと盛況でゴッツォは、忙しそうだ。


「ええ!? お風呂あるのぉ? いいなぁ」

「家に来たら、一緒に入るのじゃ」


 やはりセリーの様子を見ると、お風呂は珍しいらしく羨ましそうな顔をしていた。


 ゴッツォが忙しい為、ピーンについてはセリーに聞いてみることに。

アカツキは、すまなそうにルスカの会話に割り込む。


「ルスカ、ちょっと待ってくださいね。セリーさん、ピーンって果物の話を聞きたいのですが。実はゴッツォさんの依頼を私達が受けまして……」

「ピーン、ですかぁ? ちょっと待って下さいね。ルスカちゃん、話は後で聞かせてね」


 後ろ髪にくくった白いリボンを揺らし、パタパタとスリッパの音を鳴らして食堂に消えていく。しばらく待っていると、再び食堂からこちらに向かってパタパタとスリッパの音がした。


「これが、ピーンですぅ」


 セリーが両手で掴んで持って来たのは、グレープフルーツ位の大きさはある、赤紫色の丸い果物。

セリーから手渡されると、アカツキの手が少し下がり、意外に重さを感じる。


「うーん、結構重量ありますね」

「そうなんですぅ。お父さんは食堂が忙しいし、一個ならともかく、私には重いので採りにいけないのですぅ」


 するとルスカがズボンの裾を引っ張り、上目遣いで「ワシも、ワシも」と手を差し出してくる。

一言「重いですよ」と付け加えてから、ルスカにピーンを渡した。


「おお、重いのじゃ。固いし人にぶつけたら怪我しそうじゃ」

「やらないで下さいね、ルスカ」


 物騒な発言に、一応いさめておく。

ルスカは満足したのか「んっ」と声を洩らしセリーにピーンを返した。


「それで、ピーンは何処に行けば?」

「この街の南側の門から出て、半日、街道沿いを歩いて行けば突き当たりますぅ。西側に向かう街道は首都のグルメールへ。ピーンは、その突き当たった森に入って進めば湖が見えますから。その周りに自生してますぅ」


 恐らく丁寧に説明したかったのだろうが、要は南にずっと進めという話である。


「ありがとうございます、セリーさん」


 礼を言い胸に手を当て、ゆっくりと真っ直ぐの姿勢から丁寧に頭を下げるアカツキ。

まるで上流階級が見せる挨拶のようで、セリーは見惚れてしまっていた。

ルスカも「ふむ……」と顎に手を当てながら、感心している。


 二階の部屋の荷物をまとめて降りてくると、ゴッツォも見送りに食堂から顔を覗かせる。


「ガハハハッ! ありがとうよ、アカツキ、ルスカちゃん。依頼を受けてくれたそうじゃねぇか。オレはこの通り出掛けらんねぇから助かるよ」

「また、来て下さいねぇ。あ、よく考えたら依頼が終わったら来ますねぇ。てへっ」


 大きな口を開けて笑うゴッツォと舌をチョロっと出して照れ笑いするセリーに見送られ、繋いでいた馬の手綱を取り家へと戻っていく。



◇◇◇



 依頼書を確認すると期日まで、まだ五日ほど余裕がある。片道半日、往復で一日となるとそれなりに準備も必要になってくる。


「ちょっと、先に身の回りの物を買い揃えましょうか」


 家に帰る道すがら、店を見て回る二人。指折り必要な物を列挙していく。


「まずは食器ですね。鍋は……使っていたのがありますし。うーん、包丁も欲しいですねー。あとまな板と……」

「ちょっと待つのじゃ、アカツキ。それだと調理器具ばかりではないか」


 見事に調理人の思考だったアカツキをいさめる。


「えーっと、美味しい料理やお菓子を作るのに必要なんですが……」

「ならいいのじゃ!」


 あっさりと手のひらを返すルスカ。ウキウキして楽しみで楽しみで仕方ないルスカは、アカツキと手を繋ぎながらスキップをしながら鼻歌を歌う。


 結局、思いついたのは調理器具、寝間着や着替え、掃除道具と、まるで主夫である。


 さっき紹介された豪邸と自分達の家への別れ道である十字路の角に差し掛かると、金物屋らしき店が。

決してキレイとは言い難い店内に入ると、調理器具や掃除道具も、そして何故かフルプレートの鎧まであり、最早何の店かわからない。


「何か用かのぉ」


 置物の狸が喋りだし、二人は軽く跳び跳ねる。暗い店内でわからなかったが、置物の狸ではなく座っているお婆さんだった。


「何か用かのぉ」


 再び喋る置も──お婆さん。


「調理器具と掃除道具を探していたのです。少し見させて貰いますね?」

「あぁ~?」


 耳が悪いのか聞き返してくる。再度アカツキは大きい声で同じ内容を伝えるが、答えはまるで頓珍漢とんちんかんな答えが帰って来た。


「わしゃ、今年で十六ですじゃ」

「絶対嘘じゃ!!」

「嘘じゃないわ! ガキンチョ!!」


 ボケているような答えにルスカは反論するも、それまでと違ってハッキリ否定され、ビビったルスカはアカツキの後ろに隠れた。


「アカツキ~、このババァ怖いのじゃ」


 アカツキの足元に隠れて出てこないルスカ。取り敢えず必要な物を持ってお婆さんの前に置いた。


「ん~? 全部で銅貨八枚ですじゃ」


 桶とほうき、包丁に新しい鍋にフライパンとザル。更に二組の皿とナイフとフォークそして、ランプを三つ全部合わせて銅貨八枚は、破格である。


「そ、それじゃここに銅貨八枚置いておきます」


 足元に銅貨を分かりやすく一枚一枚並べると、突然銅貨が消えた。


「毎度ありですじゃ」


 どうやらお婆さんが受け取ったのだろう、手のひらで一枚一枚確かめていた。


「アカツキ~、やっぱりこのババァ怖いのじゃ。早く帰ろう」


 ちょっと涙目で訴えてくるルスカ。アカツキは買った物をアイテムボックスに入れると、ルスカの手を取りに足早に店を出た。


 価格が破格なので恐らく今後も利用するが、ルスカは一緒に行きたがらないだろうなと考えながら、ふと店内を見るとお婆さんが笑っていた。



◇◇◇



 必要な物を買い揃え、家へと戻ってきた二人。


「アカツキ。 ワシが、ワシが開けるのじゃ」


 一番に家に入りたいのだろう、鍵を寄越せと両手を伸ばし、アカツキの手にある鍵に向かって跳び跳ねる。


「じゃあ、ルスカ。お願いしますね」


 杖をアカツキに渡し、鍵を受けとると一目散に扉の前に行き背を目一杯伸ばして鍵を開け、取っ手を両手で掴んで扉を開けた。


 すぐに家へと入り他には一切、目もくれずトイレへと駆け込んでいく。

どうやらよっぽど金物屋のお婆さんが怖かったらしい。


 アカツキは買った物をテーブルへと並べると、すぐに裏庭に行き、新しい桶に水を入れ、今まで使っていた桶に飼い葉を入れると裏庭に繋いでいた馬に与えた。


 トイレから出てきたルスカは、裏庭にいたアカツキの様子を覗いている。

アカツキは、それに気づくと手招きして呼び寄せた。


「ルスカ。お馬さんを洗うの出来ますか? 今まで良く頑張ってくれてきたのでキレイにしてあげませんと」

「それくらい出来るのじゃ。任せるのじゃ!」


 張り切るルスカを見て、いくつか注意事項を説明する。


「絶対大きな音を出さない、後ろに立たない、これから何をするか話かけて体を触りながら安心させる。これを守らないと蹴られちゃいますよ」


 当然ルスカの背では、体に届かないので馬に座ってもらう。


「それじゃ、今から体洗うのじゃ!」


 布を見せながら話かけると、馬は、ぶるるるっといななく。

首の辺りから、ゆっくり洗い始める。その様子をしばらく見ていたアカツキは大丈夫と判断したのか、家の中へと戻って行った。


「さぁ、掃除を始めますかっ!」


 まずは寝室からと、掃除道具を持って二階に上がって行くアカツキの目は、爛々と輝いていた。

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