(6)ケンカするほど仲が良いらしいですね

 魔王が最強堕天使ルシファーと対峙している頃。

 デビーとロンリーは言い合いをしていた。


「どけよ、ロンリー。魔王さまがピンチなんだよっ」

「だーから、その魔王さまが部屋から出るなって言ってただろう」

「うるさいぞ、へっぽこ勇者め。その剣をどけろ」


 怖い顔をしてにらみつけてくる小悪魔デビー。

 ロンリーは聖剣を握り締めている手に力を入れる。


「いやだ。大人しくしてろよ、デビー。俺だって君に剣を突き付けるのは、苦痛なんだからさ」


 第9圏コキュートスで異常発生を察知した魔王は、すぐさま対応しに走ったのだが、その時、付いてこようとするデビーに待機するよう命じることは忘れなかった。


「お前はここで待っていなさい」

 魔王はしがみつくデビーの頭をぽんと叩くと、ロンリーに言った。

「こいつを部屋から出さないようにしてくれ。危険だからな」


 というわけで、ロンリーはドアの前で聖剣を構えて立っていた。そうされるとデビーは肌がピリピリするし、魔力が弱まる。おかげで部屋から出ることも、転移魔法をつかって移動することもできないのだ。


「卑怯だぞ、ロンリー。魔王さま、ロンリーがいじめますぅ」

「いじめてないだろっ。それにこれは魔王さまの言いつけを守ってるんだ。わかってるだろ」


 にらみ合う二人。デビーはあの手この手でロンリーを攻略しようとした。鳥型に変化したし、噛み付こうとしたり、引っ掻いたり、怒鳴り散らしたり。しかし、一番彼に有効である泣き落としの手段は思いつかず、じりじりと時間ばかりが過ぎる。


「もうっ、ロンリーなんか嫌いだ。魔王さまに何かあったらお前のせいだからな。二度と口きいてやらないぞ」


「デビーはここで待機って、魔王さまの命令だろ。それを破ろうとするなんて、君の方が悪い子だぞ。俺は言いつけ通りに従ってるだけだ」


「キーッ、頑固者。だから人間は嫌いなんだ」

「ああそうかい。俺だってこんなわからず屋の悪魔なんて嫌いだね」


「べーっだ」

 下まぶたを引っ張って変顔するデビー。

「こっちこそ、べーっ」

 同じく変顔をする大勇者。


「ぶーっだ」鼻を上に向けるデビー。

「がーっだ」口に手をつっこんで口裂けをする少年。


 ……で、そこで気づいた。


「あっ、剣がないっ」

「ありゃりゃ、ラッキー!」


 突然、手から消えた聖剣を探すロンリー。

 ぱちん。

 音に顔をあげると、デビーの姿は消えていた。


「うそだろーっ。デビー、デビーぃぃぃ」


 剣もない。デビーもいない。

 大勇者ロンリーは、フラフラと膝をついた。


「大変だ。どうしよう。俺、どうしたらいいの」


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