Immer

勝利だギューちゃん

第1話

「何を描いているの?」

クラスメイトの男の子が、キャンバスの前に座っいた。

彼は、何も言わなかった。


クラスメイトの男の子・・・

それしか、接点はなかった・・・

正直、名前も知らない・・・


なので、興味本位で声をかけた。


「ねえ、何を描いているの?」

案の定、彼は何も言わない。


ただじっと鉛筆をもって、イーゼルの前に座り、

キャンバスを眺めている。

何も描かれてはいない・・・


「ねえ、よかったら私を描いてよ」

冗談で言ってみた。


すると彼は、鞄の中からスケッチブックを取りだした。

そして、ボールペンですらすらと一筆書きのように何かを描いた。


そして、スケッチブックからそのページをちぎると、

私に背を向けたまま、私に手渡した。


「こ・・・これは・・・私・・・」

そこには、間違いなく私の肖像画が描かれていた。

恐ろしいほどに、似ている。


「ねえ、次は先生を描いてみて」

すると彼は、同じようにスケッチブックにすらすらと描き、

そのページをちぎり、私に手渡した。

今度は、似顔絵風に描かれていた。


また、ものすごく似ていた。

恐ろしいまでに特徴をつかんでいる。


「今度は、じゃれあっている2匹の子犬を描いてみて」

すると、また彼は同じように、すらすらと描き、私に手渡す。

「か・・・かわいい・・・」

そこには、2匹の子犬がじゃれあっていて、まるで生きているようだった。


「ねえ、どうしたら、こんなに上手く描けるの?」

彼は答えない。

相変わらず、私の方を向こうともしないで、キャンバスだけを見つめている。


しかし、彼の観察力はたいしたものだ・・・

素人目にも、それはわかる。


いくら声をかけても、彼は答えない。

リクエストに応えてくれるのだから、「聞えない」ということはないはず・・・


私は、彼に興味を持った・・・


翌朝、ホームルームの時間に、クラスメイトの男の子が、失踪したという話を、

担任から、聞かされた。

初めて聞く名前だが、おそらくは彼の事だろう。

私は、直感した・・・


クラスメイトも最初は、ざわついていたが、すぐに静かになった。

担任も、何も言わない。

おそらくは、どうでもいい存在なのだろう・・・


放課後、生徒名簿を頼りに、彼の自宅を訪ねてみた。

家の前には、警察の人たちが、たくさんいた。

その中のひとりが、中年のおばさんと、話をしていた。

おばさんは、泣いていた。

おそらく、彼のお母さんだろう・・・

彼は誘拐されたのだろうか・・・


私は、その場を立ち去った・・・

ただ、彼の自宅のポストに、手紙を投函しておいた。

どうか、彼に届きますように・・・


数週間後、学校から帰宅したら、私宛に手紙が届いていた。

差出人は書いていない。

「もしかしたら、彼からかも・・・」


急いで封を開けた。彼からである事を願って・・・

私は、手紙を見て、安堵のため息をした・・・

彼からだった・・・

「よかった・・・無事だったんだ・・・」

彼の名前は、先日のホームルームで知っていた。

急いで中を見る・・・


そこには、一言だけ書かれていた。

「Immer」と・・・

どういう意味だろう・・・

私はネットで調べてみた・・・


どうやら、ドイツ語で「いつまでも」という意味らしい・・・


急いで、彼の自宅に向かった。

彼は無事に保護されたらしく、今は休学しているとのこと・・・

彼のご両親に無理をいって、彼に合わせてもらうことにした。


彼の部屋に通されると、絵描きらしく、絵の道具でいっぱいだった。

彼は私に背を向けて、窓の外を見ていた・・・


私は声をかける事が出来なかった・・・

ただ、彼の背中をみることしができなかった・・・


やがて、思い切って、訊いてみる事にした。

「あの、Immerって、どういう意味なの?」

すると彼は、ようやく重い口を開いてくれた。

私に背を向けたままだったが、少し嬉しかった。


「インマー。ドイツ語でいつまでも・・・

そのくらいは、もう調べてるんでしょ・・・」

「うん・・・」

「君の手紙に対する僕からの、返事です・・・」

そう答えが返ってきた。


その言葉で、私が少しだけの彼の心を開くことができ、嬉しくおもった。

失踪中、彼がどこで何をしていたのかは、詮索しないことにした・・・

もし聞けば、元の木阿弥になってしまいそうで、怖かった・・・


私は、彼への手紙にこう記した。

「私、君のそばにいていい?」と・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Immer 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る