眠る湖


夜の湖は,黒々とした穴である.

漣が打ち寄せても,水鳥がどこかで羽ばたいても,湖はひとりで眼を開いている.

山陰の合間から月が出ると,湖面には光が伸びて行く.それは前触れもなく消えるが,しばしば誰かが渡ることもあるようである.

湖はまばたきもせず夜空を見つめている.


湖が眠るのは,おそらく朝の始まる頃である.

小鳥の囀りが騒がしくなる頃にはもう,湖はひとりで瞼を閉じる.

眠る湖は乳色で,無数の粒を吐き出し続ける.それらは風もなくうごめいている.

葉付きの小枝が一本,水面に落ちる.

波紋が随分と広がっていった.





2018.09.01

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