授業中に告白してくるX

池田蕉陽

Xからのラブレター


 あー授業早くおわんねーかなー。


 数学の先生が理解できない数式をベラベラと述べながら、それを黒板に書き尽くしている。


 てかこの話前もしてなかったか?


 この老いぼれの数学教師は一回した授業をもう一度別の日にすることが多々ある。


 まあ、どうでもいいけど。


 俺はその上の壁に飾られた時計をもうこの授業で10回は見ている。


 あと15分か……それまで寝るか。


 腕枕に顔を埋めようとしたその時、俺の背中を誰かがつついた。


 俺は後ろを振り向くと、天草 詩音あまぐさ しおんが四つ折りにされた紙を渡してきた。


「これ、あずまくんにまわしてって」


 天草 詩音が片手で口を隠し、声を潜めながら言った。


「え、俺? 誰から?」


 俺は対して普段通りの声量で喋った。


「わかんない……私も後ろの雨宮さんから受け取ったから……」


 雨宮 小百合も後ろのやつから受け取ったのか?


 一瞬、天草の後ろの雨宮と目が合うと雨宮がニコニコしながらこちらに手を振った。


「ふーん、そうか」


 四つ折りの紙を受け取ると、前を向き直りそれを広げていく。


 丁度退屈してたんだよなー、なにが書かれてんだ、もしかして佐藤がまたふざけた絵でも送ってきたのか?


 佐藤とはふざけ合える友達で席が隣の時は、よく教師の似顔絵なんか見せてきて俺を笑かしてきた。


 しかし、その紙には佐藤のふざけた絵は描かれていなかった。



『ずっと前から東くんのことが大好きです。


 私と付き合ってください Xより』


 それは女の子らしい可愛い字で綴られていた。


 俺は10回くらい読み繰り返し、その度に顔が熱くなるのがわかった。


 お、お、お、お、俺のことが好きだと……!?


 気持ちが舞い上がったが、すぐにこの紙が佐藤からのイタズラでないかと疑った。


 俺はやや離れた席に座る佐藤を見るが、そいつは気持ちよくヨダレを垂らして寝ていた。


 佐藤じゃない……? じゃあ誰だ……? もしこの手紙を俺に渡した女子がいるなら、きっと今俺の反応を見ているはず!


 俺は辺りの女子を必死に見渡した、遠藤、勝又、林、池田、辻林……


 くっそぉぉ!全員俺のこと見てねーよ!


 俺はもう一度手紙をみた。


 そう言えばこのXってなんだ……?


 X……頭文字? いやそんなのは存在しない。なら特に意味は無いのか? ただ俺に告白したいだけで自分だとはバレたくないから? だとしたら、Xと書かずにそこは空白にする気がする。


 X……X……X……。


 俺は何度も頭の中でXと唱えた。でもいくら唱えた所で該当するやつが見当たらない。


 そもそも俺のこと好きなやつなんているのか?俺はあまり女子とは話さない、ほとんど男子とつるんでいる。


 やっぱりいたずらか...


「えーですからX=a+bにしてですね……」


 ん? X=?


 俺はついXの言葉に反応して顔を上げ、爺さんを見た。


「でーその後bに13を代入しまして……」


 よぼよぼの爺さんが死にかけの声でそれを言った途端、俺は閃いた。


 これだ! この爺さんはよく同じ授業を2回することがある。このXはこれを利用して俺にヒントを与えてるんだ!


 俺は教師のヒントになることばをノートに書き記した。


『X=a+b……bに13を代入……X=a+13』


 俺はこの数式を凝視した。aとbを足すとXになる……つまりこれを解くと正体が分かる寸法か。


 多分このaがXの頭文字になっているんだろう。


 ん? てかこれだけで誰か分かるんじゃね?


 いや無理だ……。


 a、つまり「あ」、「あ」から始まるやつはこのクラスに5人もいた。雨宮、安藤、浅田、天草、アーノルド・クリスチャン。


 しかも、5人とも女子なのだ。きっとこれもあってまずは頭文字がaという事を示した。


 だったら次のbが分かれば確実に絞れる!


 b……さっき爺さんが言ったように13を代入した形に直すのか。つまりb=13? 13!? 13ってなんだよ!


 13でひたすら思いつくことを考えた。


 13……出席番号? 確かムキムキの大村だ、多分関係ない。


 13……13……くっそぉぉぉぉ! なにも思い浮かばねぇ! てか始めもアルファベットなんだから次もアルファベットにしてくれよ……ん? アルファベット?


 俺は閃いてしまった。


 アルファベットの順番を指で数えていった。そして13番目はM! これだ!


 a+m! 頭文字が『あ』で次がま行だ!


 ってことは2人に絞ることができた。雨宮と天草だ。


 くっそぉぉぉぉ! さっき手紙の話に関係した2人じゃねーか!


 いや待てよ、そーいえば天草は雨宮から渡ったと言っていた。ならこれは雨宮? かと言ってこんな難しいヒントを出しときながらすぐに雨宮と答えを出されるような真似はしないはず。


 だったら天草? 天草は雨宮から渡った手紙と嘘をついて渡してきたのか? でも天草が本当のことを言っていたら雨宮になる。


 結局2択だ。


 どーやって正解を導きだす……。


「はいじゃあ次の問題行きますね、先程のX=a+bにsを足して答えを導き出す問題ですね」


 っ!? まだヒントは残っていた! これでsを足せば完全にXが誰か分かる!


 sはaと同じそのまんまで考えるのか?


 だとすると、さ行? でも天草も雨宮もどっちも3文字目にさ行はこない。


 sはそのままじゃだめなのか?


「えーあーそうそう、sで思い出しましたが実はですね、先日孫と公園で戯れていたのですが、孫娘がsの形をした、えー針金をですね、えー見つけて喜んでいたんですよね〜でも10分くらいでそれを無くしまいましてね、えー必死に探してたんですよー、しかも途中で雨も降ってきちゃってねー、えーびしょ濡れになりながらも探してようやく草むらで見つかって孫娘が大喜びしたわけですよねー、この時の孫娘の顔の可愛いさと言ったら……もう堪らないんですよねーえーこれが、えーでは問題に戻りまして」


 クラス中全員が苦笑しているのがわかった。当たり前だ、もうこの話は2回目だし大して面白くも興味もない。


 しかし、俺だけは全神経を耳に集中してその話を聞いた。


 これも計算通りなのか、爺さんの話のキーワードに「雨と草」が現れた。


 くっそぉぉぉぉ! 結局どっちなんだ!? 3文字目にSに該当……いや、まてよく考えろ。


 aは1文字目、bは2文字目、sは3文字目を表している。これらを足すとXに辿りつく。でも『雨』の場合だと3文字目にその『雨』がきてXが『雨雨』になる。


 でも『草』だとどうなる? 3文字目にそれがきて『天草』になる


 天草……天草!!


「そうか天草か!! 俺を好きなのは天草だったんだな!!!」


 俺は謎が解けた喜びからつい勢いよく立ち上がり、そう叫んでしまった。


 しまった……。


 と思った時はもう遅く教室がシーンとなり、みんなの視線が俺に集まっていた。


「え、えーと……」


 顔が赤くなり俺は頭をかきながら後ろの天草を見てみると、彼女は俺と比べ物にならないほど顔が真っ赤になっていた。

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授業中に告白してくるX 池田蕉陽 @haruya5370

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