Z easy

柊木緋楽

chapter.0 resurrection

地に埋まる死体。

それは腐敗を始め、朽ちる早さは徐々に早くなって行く。

蛆虫が群がり、美味い、美味いと頬張る。

肉体の一部が剥がれ、そこからは白い壁が見える。


屍……いや、死体と言った方が分かりやすいだろうか。


ともかく。

死体と呼ばれるそれは、生物が生まれた際に出来た、偶然の産物である。

生物は生きて、死ぬ。

それはその者の人生が幸福であろうと、不幸であろうと変わりはしない。

そして、死体となった者は、二度と自身で動く事は出来ない。


……そのはずだった。



――あの日までは。















東京都、新宿区にあるとある高校の校庭で、それは起きた。

地に埋まる、腐り切らぬままにミイラと化した屍者の男が、目を覚ました。

……辺りは一面真っ暗で、何一つ見えない。

彼は体を動かした。

……どうやら地中に埋まっているようだった。

彼にはなぜか、知性と記憶があった。

自身がゾンビとなっている事は理解したが、どうやら映画等で見るようなゾンビとは違っているようだった。

その証拠の一つとして、言葉が喋れた。

彼は一言、か細い声で「出してくれ」と言った。

だが、彼を掘り出す者は一人も居なかった。

地上に居る者達には、彼の言葉は一切届いていなかった。

当たり前だ。

彼は思った。

だってここは、墓の跡地なのだから。

彼が死亡したのは、1987年、12月30日の事だった。

そう、大晦日の前の日。

大晦日・イブとでも言うべきだろうか。

そんな事はどうだっていい。

彼は新年を迎える儀式すら行うことが出来ぬまま死んだ。

彼はその事が、とてつもなく悔しかった。

彼は生前、新聞社のジャーナリストの仕事に就いていた。

そして彼は毎年のように、大晦日の大家族への突撃取材をするのが楽しみだった。

だが、その前の日の朝、彼はとある事件の取材を行っていたところ、刃物を持った男に胸を貫かれた。

それは一瞬だった。

彼の意識は、即時に闇の中へと堕ちて行った。

だが、彼は今、こうして生き返った。

それは何故?

そして、そんな彼は思った。

今は何年、何月何日だ?

そう思い、彼は頭上の土をかき分けた。

彼は、地上へと手を伸ばし……


いや、待てよ?


彼は思った。

通常のゾンビならば、もし外が日中になっていれば、自分の身体は燃え尽きてしまうのではないか?と。

彼は、そんな疑問を頭に浮かべ、外の様子を穴から見回した。



――間違いない。

日中、それも一番日の強い昼だ。

ならば、なぜ俺は焼け死なない。

彼は考えた。

そして、一つの答えにたどり着いた。


俺がミイラ化しているからか?


……そう。彼はミイラ化とゾンビ化を同時に成していた。

果たしてそれが指し示す物は、善か否か。


――彼はそのまま、土の中から這い上がった。

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