第三十九話 噂話


 カルラの案内で、共和国で一番大きな国であるデュ・コロワ国の首都に到着した。


 移動は、人に見られない場所を全力で駆け抜けた。

 ステータスが上がっている関係で、それほど疲労はしていない。


「兄ちゃん?」


「解っている。アル。耐えろ」


 アルが音を上げている。俺も、かなり辟易している。

 首都に入るのは楽に入られた。王国の貴族章を使わなくても、カルラが用意した”商人”の身分で楽に通ることができた。


 宿も、確保できた。

 カルラが、報告のために一時的に離れたが、俺とアルで武器や防具や消耗品の点検をしていた。


 報告が終わって戻ってきたカルラを交えて、ダンジョンアタックの日程を決めた。

 最下層まで行くことが出来ればいいが、深度を考えれば、一度のアタックで攻略は不可能だと思われた。


 それでも、準備にはしっかりと時間を使う。

 準備を怠って、ダンジョンの中で屍を晒すような自体は避けなければならない。特に、エヴァのことを考えれば、自然と生き残る方向に思考が流される。強くなるのは大事だが、その前に生き残らなければ意味がない。


 準備を終えて、ダンジョンアタックの倍の日数分の食料を買い込んで、最難関だと言われるダンジョンの入口に向かった。


 入口に付いたのは、太陽が昇るころだ。

 既に、太陽は昇りきって、眠っていた首都を起こしている。気温も、俺たちが並び始めた頃から考えれば、4度くらいは上がっているだろう。風が拭けば、肌寒いと感じていたが、日差しのおかげで、寒さは感じない。汗ばむ寸前だ。


 列が進まない理由を、周りに並んでいる者たちに、聞いても誰にも解らない。

 そこで、周りにいる連中に話をして、カルラが列の先頭を確認してくる事になった。


 ソロでダンジョンに入る者は居ないが、二人パーティや三人パーティが多い。


 後ろに並んでいる冒険者の一人が話しかけてきた。


「お前さんたちは、3人か?」


 カルラが居たのを見て知っているのだろう。俺とアルとカルラの3人だと考えたのだろう。実際に、”エイダ”が居るけど、エイダを”一人”と数えるのには無理がある。


「そうですが?」


 3人で1人が離れている。

 何か、狙っているのか?


「中で誰かが待っているのか?」


 中?

 待っている?


「え?」


「違うのか?」


 違うも何も・・・。

 ダンジョンの中で待ち合わせ?意味があるのか?

 新しい情報だ。


「はい。3人で行動しています」


「ほぉ。言葉の感じから、この辺りじゃないよな?」


 言葉で判断されるとは思わなかった。

 ごまかしてもしょうがない。ライムバッハ家との繋がりだけは隠しておいた方がいいだろう。あとは、正直に話しても、冒険者マナベなら問題にはならない。建前の話だが、建前を押し通すのも大事なことだ。


「はい。ウーレンフートから来ました」


「そりゃぁ凄いな。本場だな」


 凄い?本場?


「本場?」


「知らないのか?」


「え?何を?」


「今、噂になっている奴を?」


 噂?

 ウーレンフートで何かあったのか?

 冒険者たちの噂になるようなことがあれば、俺に報告が上がってくるはずだ。カルラも何も言っていない。ダンジョンの中なら、把握ができるはずだ。


「いえ、ウーレンフートを出たのは、かなり昔なので・・・」


「そうか?ウーレンフートで大改革があったのは知っているか?」


「改革?」


「あぁギルドが解体されて、そのギルドを潰した奴が、ウーレンフートの代官や貴族や商人を巻き込んで、ダンジョンの上にホームを築いた」


 え?


「あぁ風の噂で・・・」


 ごまかすしかない。

 共和国まで話が流れてきているとは・・・。


「そうか・・・」


「どうしました?」


「その、ギルドを解体した奴・・・。プラチナデビルと呼ばれているようだが、どんな奴なのか、情報が流れてこなくて、出身なら何か知っているのかと思っていな」


「・・・。プラチナデビル?」


「知らないか?」


「えぇ残念ながら」


 何、その恥ずかしい名前は、厨二でももう少しましな通り名をつけるぞ。帰ったら、誰が流したか確認しなければ、多分ギル辺りが”おもしろい”とかいう理由で流し始めた気がする。


 男性は、それ以外にもウーレンフートのホームがどれほど素晴らしいか語りだした。

 共和国にはない考えで、資源をホームが管理して適切な値段で卸しているのも評価が高い。それだけではなく、ホーム内の訓練場での試験に合格しないと、ダンジョンに入ることができないのも、冒険者を守っていると評価されている。他のダンジョンでも真似をする場所が出始めている。地域を聞いたら、クリスや同級生たちの領地が多い。


 男と話をしていたら、カルラが戻ってきた。


「旦那様」


「どうだった?」


「はい。家名までは把握が出来ませんでしたが、貴族家に仕える者がもめていました」


「はぁ・・・。またか・・・」


「ん?また?」


「お前さんたちは、コロワダンジョンは初めてか?」


「はい。せっかく、共和国に来たので、最難関と言われるダンジョンに入ってみようと思いまして・・・。ここは、入場の時に、税を払えば、誰でも入られると聞いたので・・・」


「間違っちゃいない。問題は、このダンジョンじゃなくて、周りのダンジョンだ」


「どういう?」


「共和国のダンジョンで、低階層のドロップが減っている」


 うん。知っている。

 俺が攻略したダンジョンは、ドロップが極端に少なく鳴るように設定を変えた。


「え?!それは・・・」


「すぐに、共和国が困るようなことにはならないが、渋いダンジョンは、どうしても冒険者が減るだろう?」


 これも、確認している。

 調整をしているから、減ったダンジョンに潜っている者たちには少しだけいい物をドロップするようにしているが、以前よりも渋いのは変えていない。


「そうですね。ドロップがなければ、潜る意味も少ないですよね」


「そうだ。以前は、10日潜れば、1ヶ月くらいは生活ができたが、最近では10日潜っても、消耗品を買いなおしたら、4-5日しか過ごせない」


 そこまでとは考えていなかったが、もうドロップするようにしてもいいかもいれない。

 それとも、採取系は増やしてもいいかもしれない。冒険者や市民が困ってもいいとは思っていたが、思っていた以上な状況は制御が難しくなってしまう。


「それでは、潜る意味があるのですか?」


「ない。だから、ドロップがいいダンジョンに人が集まる」


「でも、それだと」


「そうだ。ドロップは同じでも冒険者同士の奪い合いが発生する。それだけではなく、ダンジョンに依存していた貴族が、こことかドロップが変わらないダンジョンに騎士を送って、資源を奪おうとしている」


「それは、なんというか・・・。迷惑な話ですね」


「あぁまだ、それだけなら良かったのだが、食料をダンジョンに依存していた貴族は、民衆の反乱にあって、酷い事になった場所もある」


 当然だ。

 下を見ない為政者なんて、必要ない。一人を全力で助けるのが、為政者の行う作業だ。一人を切り捨てて、全体を守るのなら、切り捨てられる一人は為政者自身でなければならない。


「そんなに?でも、ダンジョンに食料を依存って無茶なことをしますね」


「ハハハ。ウーレンフート出身は違うね。だが、共和国なら一般的な考え方だ」


「へぇそうなのですね。知らなかったです。そうか、それで、貴族が揉めるのは多いのですか?」


「あぁそうだな。お前さんは、3人だから問題はないが、6人以上で入ろうとすると、なぜかダンジョンの難易度が上がってしまう。その為に、入口で6人未満になるように調整しているのさ。6人以上で入る場合には、税も10倍近くになる。危険な行為として認知するためだな」


「へぇでも、中で・・・。あぁだから、仲間が先に入っているのか?と、聞いたのですね」


「そうだ。その仕組みが、このダンジョンを最難関にしている理由だな」


「え?」


 最難関になっている理由?

 すごく興味がある。カルラも、この話は知らなかったようだ。


 コロワダンジョンに潜っている者には、当たり前過ぎて情報としての価値が低いと判断されているのだろう。男の表情から、コロワダンジョンなら知っていて当然だと思っている雰囲気がある。俺が、ウーレンフートの出身だと言ったので、知らないと思って説明をしてくれるようだ。

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