第三十一話 黒い石


 アルトワダンジョンを、ウーレンフートから来た者たちに任せて、次の町に向かっていた。

 クォートとシャープが野盗たちを引き渡して帰ってきた。


「マスター。マスターの想定した、最悪のパターンでした」


 絶望感・・・・。あまり、”感”という言葉は好きではないが・・・。共和国も、結局は形を変えた、権力主義の集まりだと認識した。平等を謳っているだけに帝国や王国よりも酷い可能性もある。


「わかった。カルラ。プランA」


 本当は、プランFが良かったのだが・・・。


「はぁ・・・。わかりました」


 カルラの気持ちも解る。プランAは、俺たちが力を付けるが、共和国は確実に力を落す。もしかしたら、内乱に発展するかもしれない。


 俺とカルラとアルバンで、ダンジョンを攻略する。

 難しいものは無視して、物量で攻略を行うが、それ以外は、速度重視で攻略を試みる。


「近くからやりますか?」


「いや、遠くのダンジョンからにする」


 近くでも問題はないが、アルトワダンジョンと結びつける者が出てくるかもしれない。


「わかりました」


 ユニコーンとバイコーンの偽装を解除する。

 俺が単独で、バイコーンに騎乗する。ユニコーンには、カルラとアルバンが騎乗する。3人で移動を行う。クォートとシャープは、アルトワダンジョンに戻って、後方支援を行う事になる。馬車は、アルトワダンジョンに手配した馬が来るので、移動させる。


 エイダは、俺が抱えていくことになった。


 持っていく端末は、モバイルノートを一台と、新しく見つけたFX-870Pだ。

 VX-4もあるが、RS-232Cの接続速度から、FX-870Pを選択した。マシン語が使える。プログラムを書き換えるプログラムが作れる。魔法プログラムとの相性は抜群だ。パラメータで、プログラムの一部を複写して、書き換えてから実行する。所謂ウィルスプログラムの実行ができる。自己増殖と自己改変が出来てしまう。そのうえで、システム領域はROMに書き込まれていて、オーバーライドを行う事ができるが、ハードリセットで元に戻るのも優しい設計だ。ファンクションとして設定している数式もプログラムを割り当てられる。その分のメモリは必要になるが、元々は32KのRAMのはずが、流れてきた機種は拡張ボードがついていて、メモリが64Kに拡張されていた。RS-232Cの拡張も行われていた。


 RS-232Cも実験用の物だろう、LEDが設定されていて信号の流れが解るようになっている。センサー系の制御ができるようになっている。センサーは見つかっていないのだが、実験した所、センサーの変わりになる物が異世界には存在していた。


 魔法だ。

 RS-232Cで、発動した魔法の制御ができる。設置型の魔法の制御が可能だ。


 全力で、バイコーンとユニコーンを走らせること2日。

 攻略目的のダンジョンに到着した。


「兄ちゃん?」


「アル。何か、心配か?」


「この子たちはどうするの?」


 アルバンが、ユニコーンとバイコーンを撫でながら聞いてきた。

 預けていくこともできるけど、ヒューマノイドタイプの二頭には新しいスキルが備わっている。


「カルラ。頼む」


「はい」


 カルラが、二頭に振れながらスキルを発動する。

 ユニコーンとバイコーンが、ミニチュアホース程度の大きさまで小さくなった。カルラが持ってきていた首輪をすれば、従魔だと認識できる。登録も済ませてある。これで、二頭も戦力として考えられる。主に、エイダ用の戦力だが、エイダが自力?での移動ができるようになれば、戦略の幅が広がる。


 低階層では、初心者や自信が無いものが戦っている。軽くだけ戦ってから、降りていく。

 5階層を越えると、人も少なくなるので、戦略を確認した。


 俺とアルバンが前線を支えて、エイダが後方から支援を行う。カルラは遊撃として、崩れそうな場所の支援を行う。

 連携の確認を終えて、持ってきていた食料で休憩をしてから、本格的な攻略に乗り出す。


 階層は、20階層だと言われている。

 まだ、誰も最下層に辿り着けていない。らしい。


 15階層を探索している。

 裏技というか・・・。チートというか・・・。エイダが、探索範囲を広げた事で、ダンジョンの情報に制限付きながらコネクトできることが判明した。コネクトが確立すれば、ダンジョンの情報が参照できる。変更は権限が得られなくて、実行が拒否された。階層を移動する場所は・・・。

 ハッキングを試したのだが、壊すだけなら出来そうだけど、壊した場合に、ダンジョンがどうなるのか解らないから実行はしていない。


「兄ちゃん。このダンジョンは攻略するの?」


「コアの破壊か?」


「うん」


「ここは、残すつもりだ」


 ここまでは順調だ。

 ダンジョンにアタックしている者も少なくなって、15階層では誰も居なくなった。魔物が強くなってきているが、俺たちには誤差程度だ。


 しかし、16階層に降りると、状況が一変した。


「マナベ様」


 カルラが慌てるのも理解ができる。

 16階層になってから、魔物が変わった。黒い靄のような物を纏っている。それに、通常なら、群れることがない魔物まで、複数で行動している。それも、気持ちが悪いくらいにシンクロしている。ゲームの魔物のように、一定の場所を守っているようだ。

 数が、尋常ではない。

 既に、1,000以上を倒しているが、終わりが見えない。


 武器だけで対応が難しく思えてきた。スキルを発動しないと対応が難しい。


「カルラ!アル!攻性のスキルを使う。範囲攻撃だ。俺の後ろに引け!エイダ!」


『はい。支援スキルを使用します』


 エイダから、俺にスキルの威力があがる支援を付与する。


 刀を構えて、スキルを発動する。

 黒い靄を纏った魔物たちは、光のスキルに弱いのは判明している。あとは、雷だ。


 久しぶりに使う。


 刀に付与しているプログラムを起動する。パラメータとして、属性を与える。

 魔力を刀に注ぐ。刀が光りだす。


「光龍!雷龍!」


 属性龍が、刀から発出される。

 目の前に居る魔物たちを、龍が飲み込んでいく。俺お魔力の1/3を与えた龍だ。魔物たちを飲み込んでいく。


「アル!カルラ!」


「はい」「!」


 龍が倒し損ねた魔物を、飛び出したカルラとアルバンが倒していく、俺は龍の制御を続けている。

 二匹同時だとまだ余裕がある。


「エイダ!処理領域に余裕は?」


『あります』


「雷龍の制御を頼む」


『了』


 このダンジョンを出たら、エイダの核とユニコーンとバイコーンの核を、今の物よりも大型の物に変更しよう。

 あと、エイダは生命線になっている。複数の核を持てるように変更しよう。あと、流れてきていた Raspberry Pi を組み込もう。8GBモデルがあったはずだ。センサーの処理を肩代わりさせる。本体は、謎技術の塊だけど、センサー系や魔法の制御系なら、プログラミングが可能だ。


 何体の魔物を倒したか解らないが、万に届いている可能性がある。


「旦那様」


「カルラ。この黒い靄を纏う状態を知っているか?」


「いえ、初見です。それに・・・」


 カルラが言いたいことは解る。

 ダンジョン内では、魔物はドロップを落すか、消えるのだが、黒い靄を纏う魔物は、どんな魔物を倒しても、全部”石”が落ちるだけだ。それも、黒い石だ。俺は、見たことがない黒色の魔石なら見たことがある。ただの石なら転がっているが、真球に近い黒い石だ。それも、倒した瞬間に黒い石になる。

 魔力を纏っているかと思うが、魔力を感じない。本当に、黒い丸い石だ。


 ひとまず、黒い石の件は、考えても解らない。

 この階層にいた魔物は倒したと思う。増える可能性もあるのだが、今の所、新たに襲ってくる魔物は居ない。


 黒い靄をまとった魔物の特徴は、とにかく好戦的だ。


 次の階層でも同じ魔物が出現した。

 通常の魔物は、俺もアルバンもカルラも見ていない。エイダに索敵をさせたが、探し出せない。

 索敵を行って気が付いたのだが、黒い靄を纏う魔物は、索敵対象にならない。近づかなければ、敵意が向かないので、索敵の対象にするのが難しい。生命を探査するスキルにも反応しない。


 16階層も、17階層も、18階層も、19階層も、同じ魔物で階層が埋め尽くされていた。


 変化が現れたのは、19階層から20階層に向かう階段の手前だ。


 階段だと思われる場所には、透明な壁が存在していて、降りる事ができない。

 壁の横に、いつもの設置されている。それは、問題ではない。


 問題になりそうなのは、少しだけ離れた位置にある。見たことが・・・。正確に言えば、俺は見たことがある装置が置かれていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る