第三十話


 アルトワのダンジョンを、ベルメルトに任せて、次の町まで移動した。

 野盗の頭は、ダンジョンの肥やしになってもらうので、ベルメルトに預けてある。頑丈だし体力もあるので、いい肥しになるだろう。野盗のメンバーも同時に預けている。ダンジョンの中層に放置しておけば、”いい”実験ができそうだ。

 元町人の犯罪者たちも、ダンジョンで働いてもらうことが決定している。命の灯火が燃え尽きるまで、ダンジョンから出る事は不可能だ。それが、俺から彼等に課した罰だ。この罰に文句があるのなら、神でも相手になる。

 彼等は、俺から、大事な友を、部下を、家族を奪おうとした。利己的な理由で・・・。だ。許せない。そして、彼等は俺を殺すと言い切った。なら、自分たちが殺されても文句はないだろう。


 アルトワ町に行っていたクォートとシャープが戻ってきた。

 少しだけ打ち合わせを行ってから、隣町に向かって移動を開始した。


 次の町が見えてきた。

 しっかりとした塀が作られている。アルトワ町とは大違いだ。しかし、門番が居ないことや、町の周りが有れていることから、この町も期待ができない。


「マスター」


 馬車の中でプログラムを作成していた俺に、クォートが声をかけてきた。

 すでに、方針は決めている。皆にも説明を終えている。いくつかの状況が予測される物事にも、それぞれの対処を考えている。大きく外しても、俺たちなら何とか対処ができるだろう。


「予定通りにしてくれ」


「かしこまりました」


 クォートとシャープで、野盗+元町長+元町民を、引き渡すことになっている。

 元町長は、もう自分の無罪を訴えることができない状況になっている。町民たちも同じだ。野盗たちは、生き残った者の半分はダンジョンに連れていかれて、こちらには、従順になっている者たちだけを連れてきている。


 町長の罪を無かったことにしたら、共和国も”その程度”だと考えて、新たな力を得るための”素材”と考える。


 クォートとシャープが、町に向かう。馬車は使わないで、拘束した奴らを連れていく。


「カルラ。共和国内にあるダンジョンで、攻略されていないダンジョンは?」


 共和国の収益は、半分以上がダンジョンに依存している。はずだ。

 食料も、ダンジョンのドロップに頼っている町が存在している。だから、アルトワ町も農業だけではなく、産業が衰退していった。


「全部で、12。20階層程度のダンジョンばかりです」


 低階層で終わっているダンジョンばかりだな。ドロップを得るのは、難しくは無いのだろう。

 わざと攻略を行っていないと考えてよさそうだ。それとも、ウーレンフートの様に、最下層に”なぞかけ”があるのか?


「わかった。アル。共和国の対応次第では、ダンジョンの攻略を行う」


 カルラを見てから、アルバンに宣言する。

 共和国の連中が、”なあなあ”で終わらせるような対応を取るのなら、ダンジョンを攻略して、資源を減らす。交易品が減ってくれば、その時点でどうするのか考えても、衰退が始まっていたら手遅れだし、いち早く気が付いても、対処が難しい。俺たちをダンジョンから締め出すしか方法がない。でも、実際に交易品を絞るのは、準備が整ってからだ。


「うん!カルラ姉ちゃんも?」


「そうだな。クォートとシャープも一緒に行く。もちろん、エイダも連れていく」


「準備は?」


「食料も、ベルメルトが持ってきて、大量に補給できた。問題は、馬車とユニコーンとバイコーンだな」


 準備は必要ないだろう。

 武器を持っている。武器が傷んでも、修繕ができる状況だ。


「兄ちゃん」


「ん?」


「おっちゃん達に頼めない?」


 アルバンの提案は一考する価値がある。


「それは、考えてみてもいいかもしれないな」


 俺とアルバンの話を聞いて、エイダが割り込んできた。


『マスター』


「ん?」


『それならば、クォートたちと同タイプを呼び寄せれば良いのでは?彼らなら、眠る必要もありません』


 そうだ。

 アルトワダンジョンなら、繋がっている。

 呼び寄せるのに不具合はない。


 基礎は、クォートとシャープを作った時のエンジンを使って、職制別にカスタマイズを行えばいい。プログラムの基礎は出来上がっている。

 疑似感情は、職制で切り出したデータから生成すればいいだろう。それほど、難しい事ではない。基本データの違いで、個性を出せばいいだけだ。姿かたちは、パラメータで振り分けを行えばいい。それらしく見せるのは、ウーレンフートで十分なデータが収集できている。


「わかった。エイダ。手配を頼む」


『はい。同じタイプと、ハンタータイプを準備します』


「任せる。全部で、5名か?」


『いえ、7名です。実験的に護衛対象2名と護衛5名のパーティーにします。そのまま、行商が可能な体制を整えます』


 確かに、行商まで考えれば、7名+馬車で考えればいい。

 俺たちが使っている馬車は、オーバースペックだから、ウーレンフートで用意できる物でいいだろう。


 別に持ってくる必要はないな。

 アルトワダンジョンでも、馬車は用意できる。馬の手配だけだが、ヒューマノイドタイプで用意すればいい。


「わかった。人選は任せる」


『了』


 名前を考えないと・・・。


「エイダ。名前は、最初の者から、デイトナ/シカゴ/メンフィス/カイロ/ジョージア/ウィスター/ブラッコムだ」


 パーティーを組ませるのなら、識別はナンバーリングでいいな。最初だから、デイトナ・アインスだ。ツヴァイ/ドライ/フィーア/フュンフ/ゼクス/ズィーベン・・・。と、増やしていけばいい。

 この7人を1組として行動させる。情報を共有するように設定すればいい。


 共和国の出方次第だけど、問題がなければ、そのまま通常の行商を行えばいい。


『了』


 エイダが作成作業に入る。

 パラメータを渡すことで、個性を出す。情報共有部分は、新しいモジュールを組み込む必要があるのだが、エイダと同じ仕組みが使えるだろう。エイダで使っているモジュールを派生させて、パラメータを増やそう。蓄積方法は、変更しなければならないから、エイダのモジュールにも少しだけ手を加える。基底クラスは変更の必要がない。プロパティに保存先のオブジェクトを渡す形になっている。だから、エイダモジュールのプロテクト部分をオーバーライドすればいい。

 簡単なテストを行って・・・。問題はなさそうだ。

 記憶という重要な部分だから、保存されないのは困る。モジュールと負荷を分散するために、保存場所のクラウド化は行っていない。遠隔でできるような作業ではない。

 そうか、保存部分は、バッチ処理になっているのだから・・・。保存した物から、ウーレンフートにバックアップを作成する。保存先で、ミラーリングやバックアップを行えばいいのか?

 細かい処理は、落ち着いてから考えるか?

 同期を考えなければ、アインスだけなら問題にはならない。記憶の混在も防げている。


「エイダ!パーティーに持たせる連絡用のモジュールも用意する。テイマー職にして、動物型のヒューマノイドを用意しろ」


『了』


 これで準備はいいかな?

 ヒューマノイドの生成は・・・。生成にリソースを全振りして3時間くらいか?


 ウーレンフートにも余裕が出来てきたのだな。


 6時間後には合流が出来そうだ。


 それまでには、クォートとシャープも戻ってくるだろう。


「カルラ。共和国は、食料の自給率は低いのだよな?」


「はい。商業で成り立っています」


「その商業も、ダンジョンからの採取が必要だよな?」


「はい。輸出品は、ダンジョンからの採取が殆どです」


「材料を仕入れて、製品を輸出は?」


「行っていません」


 少し、クォートとシャープが戻って来るまで、共和国の現状を調べる必要が有りそうだな。


 一般常識レベルの話なら、カルラに聞けば判るだろう。

 大凡の方針を決めて、あとは状況を見て、調整を行えばいいかな?


 共和国の全体というよりも、3つの大国と大商人たちへの対応を考えればいいか・・・。


 アルトワダンジョンを結合して解ったのだが、処理速度を上げることができる。

 俺の直接的な力にはならないが、魔法プログラムの効率を考えれば、ダンジョンの結合は必須だと思う。

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