第二十二話 デート?!

 学校の行き帰りは、俺がエヴァと一緒に登校する事になった。

 数分の距離だが、それでもクリスは、一緒に行くべきだと主張した。特に、エヴァからも反対の意思表示がなかったので、一緒に登校する事になった。

 実際には、他の皆一緒に登校するのだが、なんとなく俺の横には常にエヴァが居る事になった。


 それから、数日はなんの問題も無く過ごせた。

 ボニートからの襲撃もなかった。学校敷地内の移動だから当然と言えば当然だと思う。あの日は、父兄も来ている事から、誰かの父兄と一緒に敷地内に入ったのだろう。そう考える事にしている。誰かが手引したとも考えたが、メリットも少ない事から、その考えは頭の片隅に留める事にした。


 中等部は、幼年学校とは違って、座学よりも実戦のカリキュラムが多く組み込まれている。

 1年生の時には、主に初級魔法を使った模擬戦が組み込まれている。模擬戦に関してもパーティを組ん対戦する事になっている。1パーティは、3~5人が基本になっていくる。特待生クラスは12名いるので、4人パーティを3つ作る事になった。最初は、3人パーティを4つというアイディアがあったが、クリスが反対した。クリスが提案したチーム分けを見て、なるほどと思ったのは内緒にしておこう。


Aパーティ:ユリウス/ギード/ハンス/クリス

Bパーティ:俺/エヴァ/イレーネ/ギル

Cパーティ:ラウラ/カウラ/ザシャ/ディアナ


 と、なった。ラウラとカウラは俺と違うパーティになる事に強い抵抗を見せたが、常に、BとCパーティは一緒に行動するという事で納得したようだ。これに一番喜んだのは、ギルだったのは余談としておいたほうがいいだろう。実習が始まり、頭の中から、ボニートの事が消えかかっていた時


「アルノルト様」

「なんでしょうか。クリス姫」


 もう悪い予感しかしない。


「エヴァンジェリーナ様が、今度の休みに買い物に行きたいと言っています」

「そう。それで?」

「は?”それで”ですか?」

「なに?あぁそうか、一緒に行けって事?」

「そうですわ。パーティメンバーですし、当然ですわ」

「それなら、ギルでもいいと思うけど・・・」

「アルノルト様がパーティリーダですわよね?」

「はい。はい。それで、エヴァは?」

「アルノルト様からのお誘いを待っておりますわ」

「はぁ?・・・(何を言っても無駄だな)解った。誘ってみるよ」

「ありがとうございます」


 エヴァの部屋の前に言って、ノックをした。奥から、エヴァの返事が聞こえる。

「エヴァ。アルノルトだ。今度の休み。買い物に行きたいけど、よかったら、一緒に行かないか?」


 ドアを開けて、エヴァが出てきた。

「えっよろしいのですか?」

「あぁついでに、エヴァがどこか寄りたいのなら、寄ってもいいぞ」

「あっ」


 エヴァは階段の方を見た。覗き魔クリスが居るのだろう。なぜか、耳まで赤くして俯いている。

「どうする?なんなら、買い物に行くのなら、ギルを誘えばかなり楽になると思うぞ」

「いえ。アルノルト様。ご一緒させてください」

「あぁそれじゃ休みの日に迎えに来るな」

「え?あっ解りました」


 エヴァは、一礼して部屋の中に入ってしまった。

 まぁ第一ミッションクリアって所でいいのかな。


 休みまで、ラウラやカウラが、いろいろと王都の店の情報をまとめてくれている。

 女の子が好みそうな店とか言われても、買い物に付き合うだけだろう。そうだ、誘う時に使った理由である。俺の買いたい物の店を探しておかないとな。

 そうだな。商人ギルドに寄ってアイディア料がどのくらいになっているのか確認して、ユリアンネの誕生日プレゼントを買いに行こう。

 それをエヴァに意見を聞けばいい。一石二鳥だ!


 準備や確認に追われて、忙しく過ごす間に、休みの日になっていた。

 前日から、イレーネとラウラの機嫌が悪い理由がわからなかったが、今は、エヴァの事を考えなければ・・・。


「エヴァ。準備はいいか?」

「はひ」


 何をそんなに緊張しているのか。ただの買い物だろう?

 それも、実習で必要になる物って話だよな?


 寮から出ようとした時に

「アルノルト様」

「クリス。なに?」

「さっき、ロミルダ殿に確認したのですが、今日のお昼は、寮では出ないようです」

「え?そうなの?皆はどうするの?」

「数名分なら準備出来るらしいのですが、アルノルト様とエヴァンジェリーナ様の分は用意できそうにないので、外で食べてきてください」

「そうか・・・エヴァが嫌なら一度帰って来て、俺とギルで適当に外で済ますけど、どうする?」

「アルノルト様!」

「あっそうだな。エヴァ。買い物もゆっくりしたいし、おいしい店があるらしいから、行ってみないか?」

「はい!」


 完全にデートだよな。

 クリスにはめられたか?まっエヴァが嬉しそうだから乗せられておくか。


 エヴァと二人で寮を出て、街に向かった。

 最初は馬車を使おうと思ったが、最初は歩いていって帰りは、ギードかハンスが迎えに来てくれる事になった。昼過ぎに、中央広場で待っている”らしい”ので、向かえば、良いと言われた。


 街中を歩き回って、なんとかエヴァの必要な物が全部揃った様だ。

 媒体となる物を自分で作りたかったようだ。教会に話をすれば用意してくれるらしいが、我儘を言っているので、あまり教会を頼りたくなかったのだと言っていた。


 先にエヴァの買い物をして、俺が荷物を持ってあげた。最初、エヴァは遠慮したが、ここで遠慮すると、”俺が荷物持たせているみたいに、見えてしまうから、荷物を持たせてくれ”と、お願いして、なんとか荷物持ちになる事が出来た。


 その後で、商人ギルドに行く。


 魔道具に手をかざして認証を行って、今日来た目的を告げた。

 残高の確認と引き出しだ。

 隣にエヴァを座らせていた事を少しだけ後悔した。

 ギルド職員が読み上げた金額がとんでもない事になっていた。

「マナベ商会様。19,049,348ワトになります」

「は?」

「いくら必要ですか?」

「いえ、その前に、間違っていませんか?」


 受付嬢は少しだけ”ムッ”とした表情をして、

「間違いありません。19,049,348ワトです」

「あっそうですか・・・。なんかごめんなさい。金貨10枚お願いします」

「解りました。少々お待ちください」


 13歳のガキに1千万。身を滅ぼすぞ。それも、何もしないで稼いだ金だぞ。これで二割なのだろう?

 はぁ”リバーシ”だけで約1億稼いだのか?税金の支払いもしておくって事だし、ギルドの手数料も取られた残りだろう?

 どんだけ、娯楽に植えているのだ?


「アルノルト様?」

「あぁエヴァごめん。予想以上だったから、少し考え事してしまったよ」

「すごいですね」

「そうだね。シュロート商会は優秀なのだろう」

「それもですが、アルノルト様が考えられた物でのお話ですからね。すごいのは、アルノルト様です」

「あぁありがとう」


 前世の記憶があって、”その世界で遊んでいた物です”なんて言い出せないよな。

 アリーダが言っていた通り、こっちの世界に転移や転生してきた者は居ないみたいだな。”リバーシ”なんて一番最初に考えつきそうな物がないのだから、いたとしても、すぐに死んでしまったか、言葉の問題があったのかだろうな。俺は、運がいいのだろう。


「マナベ商会様」

「あっあぁありがとう」


 再度魔道具に触れて金貨を受け取る。

 思いもよらない収入を得た。その後、エヴァを連れて、女の子への誕生日プレゼントは何がいいと聞いたら、少しだけ悲しそうな顔をされた。

 今までぬいぐるみを送っていた事を話すと、それならば・・・と、言って、可愛い小物が売っている店に連れて行かれた。エヴァもクリスやイレーネから情報を仕入れているようだ。

 そこで、どんな子なのかと聞かれたので、ユリアンネの特徴を話した。

 それなら髪飾りなんてどうだと言われたので、髪飾りを選んで送る事にした。後は、いつものように"ぬいぐるみ"もセットにした。


「そう言えば、エヴァの誕生日っていつなのだ?」

「え?私ですか・・・・来週です」

「え?そうか、それならちょっと早いけど、エヴァにも誕生日プレゼントを送るよ。妹と同じ店で悪いけど、何か欲しい物ある?」

「え?妹さん?」

「あっ言ってなかった?俺の妹のユリアンネは来月誕生日で、まだライムバッハ領だから、今から送れば間に合うだろう?」

「あっえっ妹さん。(そうだったのですね。よかった)」

「え?なに?」

「なんでもありません。アルノルト様からならなんでもうれしいです」

「・・・うん。そうだね。エヴァ。これなんてどう?」


 選んだのは、エヴァの綺麗な金髪を後ろでまとめるような髪留めで、瞳の色に合わせて”青色”にした。

 手頃な値段だ。なんか、エヴァだけに買うのもいろいろありそうだったので、寮の女性陣全員にエヴァに買った物よりも少しだけ安い物を買うことにした。


 会計を済ませた。

 さて、食事をどうするかと考えたが、前にギルに聞いた店に行ってみる事にした。

 かなり独特な店構えだ、入ってみてギルに文句を言う事が決定した。びっくりする位に高い。回れ右したかったが、ニコニコ顔で着いてくるエヴァを見ているとそんな事も出来ない。

 昼なので比較的リーズナブルだったのだろう。大銀貨3枚で済んだ。どの世界に、昼飯に3万円使う中学一年生が居る?と思ったが、まぁ可愛い子が”美味しいです”と、言いながら食べてくれるのを見られたのだから、よしとすることにした。


 会計をして店を出ようとした時に、店員から

「お客様」

「え?なに?」

「お客様。お客様が入られてから、店の前でこちらを見ている方がいらっしゃいます。よろしければ、裏口からお帰りなさいますか?」

「え?本当?」

「はい。弊店は、このような店ですので、お忍びでお使いになる方も”おお”ございます。その為に、セキュリティには十分な気を使っております」


 あぁそれで、殆どが個室か半個室だったのか、そして表通りから直接中が見えないような感じになっているのだな。


「ありがとう。心当たりがある。裏口から帰らせてもらう。いいよな?」


 エヴァに向いて尋ねると、悟ったらしく、頷いた。気を使ってくれた店員にチップを渡す。

 店からは、見つからないで出られたと思う。店を見張っていたのは、間違いなくボニートの関係者だろう。時々感じた視線ももしかしたら、そうだったのかもしれない。ボニート本人なら、あいつ相当暇なのだろう。


「エヴァ。悪いけど、今日はもう帰ろう。馬車も来ているはずだけど、歩いて帰ろう。もしかしたら、馬車も見張られているかもしれない」

「わかりました。アルノルト様」

「ん?なに?」

「いえ、なんでもありません」

「うん。急ごう」

「はい!」


 店から少し離れた所で、大通りに出ることにした。

 裏道を行く事も考えたが、今の俺の戦闘力では、襲われたら、エヴァどころか、自分自身を守れる自信がない。


 大通りに出る道を急いでいると、1軒の店が目に入った。

 古ぼけた看板で、武器/防具屋である事は解った。

「エヴァ。ごめん。少し寄り道をする」

「え?あっはい」


 店に入った。

 こんな時でもなければ、じっくりと見ていたい感じがする店だ。

 老婆が一人で店番をしているようだ。


「珍しい。こんな店に何のようだい?」

「あっ申し訳ない。武器を探していて、ご婦人の店が飛び込んできたので、足を向けてしまった」

「おや「おや」それは「それは」」


 ん?

 奥から同じ顔の老婆が出てきた、目の錯覚かと思ったが、双子の様だ。


「ようこそ「ようこそ」武器ガウクへ「防具ガウスへ」」


 どうやら、武器屋はガウクと言って、防具はガウスと言うらしい。

 双子の老婆の雰囲気に飲まれたのか、俺の服の裾を握っている。


「ふふふ」「へへへ」


「どんな武器があるか見ていていいか?」

「勿論ですよ」「防具はいいのかえ?」


 店自体は古い感じがするが、綺麗にされている。チリひとつないという事は無いが、普段から掃除している感じがする。

「ご店主。ここの武器や防具は、ご主人達が?」

「いやですわ。こんな老婆に作れるわけはない」「違う。違う」


 どうやら、工房があってそこから卸されて来たり、持ち込まれた武器や防具を売っているという事だ。


 陳列されている武器や防具はどれも一点物の様だ。比較的安い物でも、大銀貨5枚程度だ。一般的な武器屋だと、下は大銅貨数枚程度で買える事から考えると少し高めなのだろう。

 ゆっくり見ていたい気持ちはあるが、時間もそんなに有るわけではない。見張っていた奴らも、俺達がなかなか出てこない事から、裏から逃げたと考えるかも知れない。


 店の奥に一振りの”刀”があった。

 この世界の剣は、直剣が多く。短剣や長剣が主になっている。大剣と呼ばれて、”切断する”というよりも叩き潰す事を目的とした物が主流うだ。剣技もそれらの剣を、うまく使う事が目的になっている。

 そこに有るのは、紛れもなく”刀”だ、長さは80cm位だろうか?太刀に分類されるのだろうか。

 値段は、金貨3枚。他の長剣が金貨10枚とか書かれている所から考えても、格安だ。


「ご婦人。これは?」

「どこかの冒険者が、持ち込んだ物じゃそんな細くて長い物なんて使いみちがないからのぉ」「ないない」

「どこで作られたとか言っていませんでしたか?」

「さぁな。どこかの島国とは聞いたが、忘れちまったわい」「昔の話。昔の話」

「そうですか・・・。抜いてもいいですか?」

「抜く?好きにすればいい。壊すなよ」「壊したら、買い取り。買い取り」


 太刀を持って、鞘から抜いた。身長的にきついかと思ったが、素直に抜けた。

 刀の良し悪しは解らないが、頭の中に久しぶりに声が響いた

”刀の加護を得ました”

 え?いま?確認は後だ、ようするに、俺に”これ”を買えということなのだろう。

 一振りでは不安になる。刀と一緒に、脇差しが置かれていた。


「ご婦人。この両方を買うので、金貨5枚にまけてくれませんか?」

「ガウス。どうする?」「ガウクの好きにすればえぇ」

「そうじゃな」「そうじゃな」


「ご婦人。金貨5枚と大銀貨5枚でどうでしょう?」

「ええよ」「売った。売った」


「ありがとうございます」

 代金を払って、店を出た。


 遅かった・・・か・・・。

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