ライラック

勝利だギューちゃん

第1話

「ねえ、結城さん、この花は何?」

「それは、ライラックって言うのよ。高村くん」

「ライラック?」

「うん、北海道が有名だけどね・・・」

「そっか・・・」

「ねえ高村くん・・・」

「何?」

「覚えておいてね。ライラックの花言葉は・・・」


僕には、彼女がいない。

仲のいい女の子の友達はいるが、友達どまりで、

恋愛に発展したことはない。


僕もそうだし、相手もそうだろう。

どうしても、友達としてしか、見る事が出来ない。


断っておくが、プレイボーイではない。

自分で言うのもなんだが、真面目だと思う。

それが、長所でもあり、短所でもある。


ある日、僕は休みを利用して、旅に出た。

北海道まで行こうと思う。

飛行機は嫌いだし、免許はないので、列車を使う。


僕は、列車の旅が大好きだ。

車窓に広がる風景を見ると、心が癒される。


同じ事を考える人は多いのか・・・

車内には、何人かのグループがいる。

ボックスシートで、楽しそうに話をしている。


僕は、ひとりでボックスシートに座っている。

4人掛けを占領している。

「少し、贅沢だな・・・」

満喫しようとしていたが、そう上手くいかないものだ・・・


「あの・・・ここいいですか?」

次の駅で、ひとりの女性が乗ってきた。

他の席は、グループばかりだったので、ここしかなかったのだろう。

「いいですよ」

「ありがとう」

そういうと、彼女は僕の向かいに座った。

帽子を深く被っている。


歳の頃なら、20代前半だろうか・・・

僕と同世代だな・・・

(でも、女性に歳を訊くのは失礼なので止めておいた)


「あの・・・おひとりですか」

いきなり、彼女が声をかけてきた

「はい。ひとりです。」

「私もひとりなんです」

彼女は声をかけてきた。


「お仕事ですか?」

「いえ、休みをとっての、気ままな一人旅です」

「私もなんです。一緒ですね。」

軽く会話をかわす。


休む間もなく、彼女が声をかけてきた。

「失礼ですが、どちらまで?」

「北海道です」

「飛行機は、使わなかったんですか?」

「列車が好きなんです」

「そうですか・・・一緒ですね」

いつの間にか、彼女に心を開き始めている自分がそこにいた。


でも、恋愛とまでは、当然行かない。

彼女とは、列車が目的地につけば、もう会うことはないのだから・・・


なので、互いの名前は、明かさなかった・・・


数日後、僕は北海道のラベンダー畑にいた。

ここは年中いろいろな花が咲く。

今の時期は、ライラックが見ごろだ。


「男のくせに」と言われるが、僕は花が好きだ。

写真をみただけで、その花が何なのかが、殆どわかる。

当然花言葉もわかるが、これは少しいい加減だと思う。


「奇麗ですよね」

振り返ると、数日前の女性がそこにいた。

相変わらず、帽子を深く被っている。

「あなたも、ここにいらしていたんですか?」

「はい。あなたもですか?」

「ええ、花っていいですよね・・・」


しばらくの間、ふたりで眺めていた。

もう会えないと思っていた、彼女と再会できた。

これも、何かの縁なのか・・・


「まだ、わからない。高村くん」

「えっ?」

僕は驚いた。

なんで、彼女は僕の名前を知っている。

名乗ったはずはないが・・・


「あの・・・失礼ですが、先日が初対面では・・・」

「じゃあね。これならわかる。」

そういうと、彼女が帽子をとった。

すると、髪が風になびきなから降りてきた。

ロングヘアーだ。


彼女は、僕を笑顔で見つめていた。


しばらくすると、バラバラになっていたパズルが、頭の中で出来上がっていく・・・

「ゆ・・・結城さん・・・結城さんなの?」

「久しぶりだね。高村くん」


彼女と会うのは、実に高校の時以来だが、ずっと大人っぽくなっていた。

まさしく、女は魔性だ・・・


「高村くんの活躍を、ずっと見てるよ」

「そう・・・」

「うん、自慢しているんだ。『友達だ』って・・・」

嬉しいような、なんだかくすぐったくなった。


僕の仕事は、作家だ。

植物をテーマにした、作品を書いている。

ベストセラーとまではいかないが、それなりの人気を得ている。


「だからっていうわけではないんだけどね・・・」

彼女は、ふところから花の苗を取りだした。

「なんの種だかわかる?」

「ライラック」

「正解!さすがだね」

僕は、くすぐったくなった。


「昔、話したこと覚えてる?」

「ライラックの花言葉のこと?」

「うん。この種は今の、私のあなたへの気持です。

受け取ってくれますか?」

僕は少し、躊躇した。


「なら、ライラックの花でいいんじゃ」

彼女は首を横に振る・

「それだと意味ないの・・・だって一緒に育てたいから・・・」

彼女の意図を理解した僕は、その苗を受け取った。


この瞬間、僕は初めて、好きではなく、愛する女性を得た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ライラック 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ