第二百七十五話


 船旅も終わりに近づいてきた。


「カズトさん」


「シロか?」


「はい。モデストが、もうすぐ到着だと知らせに来ました」


「わかった。起きるか!」


「はい」


 シロも俺も全裸だ。

 扉の外に、モデストが控えているのが解る。シロを抱き寄せて、キスをする。


 カイとウミは、甲板に出て居る。

 どうやら、海の中に居る魔物を狩るのが楽しいようだ。


 着替えを済ませて、シロの恰好を確認する。

 問題はない。俺の恰好は、シロが確認する。


「モデスト」


「はい。まもなく、到着します」


 扉の外側で、モデストが応える。


「わかった。リヒャルトは?」


「最終確認をしています」


「そうか・・・」


「下船の準備が整うまで、少しだけお時間を頂きます」


「わかった」


 俺たちは最後に下船する。

 ルートが迎えを準備しているはずだ。最後になるのは、先を急ぐ者たちを優先したからだ。俺たちは、ゆっくりで構わないと伝えたら、俺たちが最後に降りると決まった。


 リヒャルトには、商人や、税のまとめを頼んだ。

 そのまま、ルートに渡して、長老衆と、調整をしてもらう。


 船が接岸すると連絡が入って、激しく船が揺れる。

 この辺りは、これから検討だな。これから、船での交易が増えていくだろう。大陸内での需要は落ち着いてきている。リヒャルトが持ってきた報告書を読んだ限りでは、内需は増えているけど、鈍化している。分析された情報から、高止まりの状況になっていくのだろう。


 民衆の不満は二つだけあれば良いとはよく言った物だ。


 ”公平な税制”と”公平な裁判”があれば、民衆は文句を言わない。


 ”公平な税制”は、商人と行商人への”税”を改めることで、少しは公平に近づけるだろう。公平に感じるかどうかは別にして、”税”に対するリターンがしっかりとあれば、民衆は、”公平”だと理解する。多く取られていると感じても、それだけのことを”行政”が行っていれば、しょうがないと思うのだ。公平でないと感じるのは、”税”を多く治めている者たちではなく、”税”で言えば少ない納税額のほうが公平じゃないと感じる。その辺りの采配が難しいのだが、商人や行商人は、”税”以上のリターンがあれば、俺たちの大陸を支持してくれる。使えると思ってくれれば、これからも”いい関係”の状態で居られる。


 ”公平な裁判”は、”税”よりも面倒だ。

 罪と罰のバランスが取れているだけではなく、立場や状況を加味しなければならない。情報を隠すのがダメだ。情報を隠すから、それが弱みになる。皆が知っている事なら、”それがどうした”という考えになり、弱みにならない。裁判も同じだ。公平は、情報を公開することから始まる。すべての裁判の記憶を誰でも閲覧できるようにするだけで、状況が変わる。

 チアル大陸の裁判制度は、”陪審員”を採用している。最終的には、長老衆とルートたちに任せることになっているが、その前段階は陪審員が裁いている。実際に、リヒャルトが持ってきた報告書にも、裁判の記憶が混じっている。当初に比べれば、裁判が開かれる頻度は増えている。しかし、人口から比べたら、低いと思える。


 ここに来て、やはり問題になってきているのは、娯楽が少ない事だ。

 報告書を見て感じたのは、裁判は少ないが、徐々に増えている。ちょっとした揉め事が喧嘩に発展して、そのまま拗れてしまっている。最終的には、当事者だけでは解決できなくて、裁判になってしまっている。


「ツクモ様」


 モデストが呼びに来て、思考を切り替える。

 帰ったら、また考えをまとめよう。まだまだ、考える事は多い。


「わかった」


 荷物はまとめてある。

 着替えもしまってある。脱ぎ散らかした服や下着も片づけた。大丈夫だ。辺りを見回しても、俺たちの荷物はない。服や下着も見当たらない。残されても、多少・・・。恥ずかしいというだけだ。多分。


「シロ。順番が来たようだ」


 シロも忘れ物がないか確認している。

 二人で確認すれば大丈夫だろう。


「はい」


 手を差し出すと、シロが握ってくる。


 シロを立たせる。服装に問題がないことを確認する。


「カイとウミは?」


 周りを見ても、戻ってきていないので、甲板に居るのだろうと推測はしている。

 ウミだけなら心配だけど、カイが一緒に居るから、安心している。海に落ちるような事はないだろうし、落ちていたとしても、カイとウミなら大丈夫だろうと思っている。


「すでに、降りています」


 さすがは、モデストだ。甲板に居たカイとウミの動向も掴んでいた。


「そうか、わかった。モデスト。ステファナは?」


「はい。荷物を持って、先に降りています。馬車の誘導を行う予定です」


「荷物?エルフ大陸から持ってきた物か?」


「はい。それと、リヒャルト殿から渡された資料です」


 資料を忘れていた。

 リヒャルトの部屋でまとめた状態のままだった。リヒャルトがまとめた物は、まだ確認していないから、行政区に着く前に確認しておくか・・・。


 シロの手を引きながら、船から降りる。

 モデストが宣言した通りに、ステファナが馬車の前で待っていた。


「ステファナ。ありがとう」


「いえ」


 どうやら、ルートたちは来ていないようだ。

 当然だな。俺たちは、これからゆっくりと、PAとSAに寄りながら帰る。それに、付き合うほどの暇はない。はずだ。長老衆は、体力の面で港まで来ていない。と、考えてよさそうだ。


 周りを見ても、ルートたちも長老衆も居ない。


 ステファナが待っている馬車に向かうが、誰も乗っていない。

 俺の横にシロが座る。


 ステファナとモデストは御者台に座る。


 ステファナが、馬車の中にやってくる。


「まずは、近場のPAに向かいます。通る道はどういたしましょうか?」


「モデストに任せる。問題がありそうな場所は避けてくれ」


「かしこまりました」


 ステファナには、モデストも任せると伝えたが、この港から最初のPAは決まっている。そのあとも、ほぼ決まっていると言ってもいい。

 しかし、モデストの眷属たちが事前調査を行っているので、”問題がある”場所には立ち寄ることにしている。泊まるのは、問題がない場所と決めている。


 リヒャルトがまとめた物を読み込んで修正案をいくつか追記する。

 シロにも意見を求める。


 最初のPAでは問題が発生してはいなかったが、それ以降は様々な問題が発生していた。

 解決は無理でも、内容の把握が出来れば、あとは人を派遣するなりして対処が可能なレベルまで落とし込む。


「カズトさん?」


「ん?あぁ少しだけ考え事をしていた」


 問題ごとも、些細な事から拗れてしまっているように思う。

 今までなら問題になっていなかったことが表面に現れ始めたのかと思ったが・・・。


 シロが心配そうな表情をしている。


「ん?あぁ大丈夫。小さな問題が重なっているのは解っている」


「はい」


「PAやSAで、場所や状況が違うのに、問題が似ているのが気になっている」


「そうですね。どれも、同じような原因です」


 そうだ。

 問題が似ているのではなく、原因が似ていると考えれば、すんなりと納得できる。


 原因が似ているから、問題が似て来る。

 状況も場所も違うのに、なぜ同じような問題が発生している。


 余裕ができたことに起因しているのか?

 余計な事を考える時間ができたからか?


 他人を見る時間ができた事で、心の余裕が潰されてしまったのかもしれない。”隣の芝生は青く見える”のだろう。暇を潰させれば、娯楽は、中央にしか作っていないのが問題なのかもしれないな。


 新しい娯楽・・・。PAやSAにもすぐに配布ができるような娯楽玩具を考えようかな?

 カトリナに任せたら喜んで対応を考えそうだな。条件は、PAやSAにすぐに配布ができるか、運営が可能な物か・・・。


 まだ、中央に到着するのには時間がかかるだろう。

 何か考えてみるか・・・・。


 心配そうなシロの頭を撫でながら、新しい玩具娯楽を考えてみる。ギャンブルに繋がりそうな物は、中央だけにした方がいいだろうな。見える場所に留めた方がいいだろう。

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