第二百十九話


 もしかしたら・・・。


 以前から、実験をしているという疑惑はあった。

 ドリュアスが新種の後から付いていくように移動している人種を見ている事から、スキル操作を使っているのはほぼ確定だろう。


 複数がスキル操作を使っているという疑惑まで出てきている。


 なんのために?

 安全に魔物を狩るためか?


 エントやドリュアスの大陸が襲われたのは、それで納得できるかも知れないが、ドワーフやエルフの大陸やアトフィア教も襲われている。俺たちも襲われた。戦闘訓練をしていると考えるのが妥当だと思えてくる。


「なぁシロ。スキル操作は、俺以外で使った話しとか聞かないか?」

「スキル操作ですか?」

「あぁ」

「僕はそれほど詳しくないのですが・・・」


 シロが語ったのはある意味納得できる話だ。

 まず基本的に、スキル操作を使ってなにかをしようと考えた人は”いないと思う”という事だ。

 考えてみれば当然なのかもしれない。スキル操作は、レベル7なのだ。100万円するスキルを無闇に使うとは思えない。


 そうなると、新種はどうやって・・・。簡単な事だな。

 俺が作ったようなコントローラーを使ったか、スキル操作が固有スキルとなっているが存在するかのどちらかだろう。


 後者の可能性は低い。

 今までの話しから、新種は一体だけと考えるのが妥当だろう。

 その上で、行動パターンが複数存在している。


 スキル操作が固定されているスキル道具を入手した者がいると考えるのが妥当だろう。


 ダンジョンの支配下になった所は襲ってこない。まだ確定ではないが、執事エントメイドドリュアスからの報告を聞いていると間違いなさそうだ。


 考えてもわからないものはしょうがない。


「そうだ。シロ。ゲームの仕上がりはどうだ?」

「問題は無いです。誰でも楽しめます」

「そうか、それは良かった。街からの報告も問題はなさそうだな」

「いえ、それで問題ではないのですが、いえ、問題ですかね?」


「なにがあった?」

「ヨーン殿が・・・」


 あぁ前に申請が有ったものだな。

 ルートガーに言っても許可が降りなかったら、シロに直接言ってきたのかも知れないけど、シロに権限は存在しない。


「わかった。ヨーンには俺が話をする」

「ありがとうございます」

「次にヨーンと会うときに教えてくれ、俺がヨーンとあって話をする」

「はい・・・」

「どうした?」

「明日なのですが大丈夫ですか?」

「ん?明日なら大丈夫だぞ」

「ありがとうございます」


 シロの表情からなんとなく事情が読み取れる。

 今、ヨーンがチアル大陸全体の防衛を賄っている。そのヨーンからの申し出を断るのには少しだけ戸惑いが出てしまっているのだろう。


 簡単にヨーンの要望を聞き出してみると、それほど難しい事ではない。

 モンスターをハントするゲームの中に入りたいという事だ。訓練で使えないかと考えたようだが、コントローラーを使うから死なないのであって、実際に戦えば怪我もするし死ぬこともある。

 シロはしっかりとそれを説明したのだが、ヨーンとしては訓練で怪我や死ぬのはある程度はしょうがないと思っているらしい。


「まぁいい。どこで、会う予定だった?」

「はい。迎賓館に来られるという事でした」

「わかった。ルートガーにも連絡していこう」

「わかりました」


 他にも、シロが俺に話が有るようにしていたのだが、俺が聞く前にシロが移動し始めてしまった。最近、シロとすれ違っているように思えてしまう。寝る時や風呂は一緒にいるのだが、それ以外で一緒にいる事が少なくなってしまっている。やっている事が違うのでしょうがないのかも知れないが少しだけ寂しい。


 また今度話を聞く機会は訪れるだろう。


 翌日になってルートガーが俺を呼びに来た。


「ツクモ様。ヨーン殿の話をお聞きになると聞きましたが?」

「なにか問題でもあるのか?」

「いえ、良かったです。ツクモ様にご相談しようと思っていた所だったのです」

「相談?」

「はい。ヨーン殿の話は俺も聞いていまして、効果的なのですが現実としてできるのか判断できないのです」

「わかった。とりあえず、ヨーンに会って話を聞くよ」

「ありがとうございます」


 ルートガーと一緒に元老院に行きながら、ヨーン以外の事を聞いたが、他は今の所困っている事がなさそうだ。

 細かい所では問題は出ているが、対処はできているという事なので安心する事にした。


 今日は、シロは連れてきていない。

 代わりに、シャイベが俺の肩に乗っている。


「ツクモ様!」

「ヨーン。いいよ。座ってよ。急に悪いな」

「いえ!」


 うーん。ヨーンの態度が崇拝に近いのがどうも気になってしまう。

 気にしてもしょうがないので、ヨーンの前に座る。ヨーンにも座ってもらう。


「それで?シロになにか頼み事をしていたようだけど?」

「はい!申し訳ありません」

「必要な事なのだろう?それはいいから、話せよ」


 ヨーンが重くもない口を滑らかに語りだした。

 ようするに、死なない場所での訓練を実行したいという事だった。


「ヨーン。残念だけど、あの中に入ったら普通に死ぬぞ?」

「そうなのですか?」

「そうだな。シロも同じ様に説明したと思うぞ?」

「それでも、訓練の場所が欲しいのは本当です。難民の中からも志願する者が出てきていますし、普段の訓練では対応できなくなっています」


 訓練の場所か・・・。


「どんな所がいい?」

「あのゲームが一番適しているのですけどダメですか?」


『シャイベ?』

『はい』

『まだ、使っていないダンジョンコアが有ったよな?』

『はい。あります』

『ロックハンド周辺に設置する事は可能か?』

『反対側なら支配領域から外れています。かなり海に近い場所になってしまいます』

『それは大丈夫だ。なんなら入り口は海の中でもいいくらいだ』

『それなら、海の中にダンジョンの入り口を作ってみてはどうでしょうか?』

『メリットは?』

『侵入が海の魔物だけになります。新種や陸からの隠蔽が可能です』

『そうだな。他には?』

『バレた時に、新しく発見したダンジョンだという事ができます』

『そうだな。わかった』


「ヨーン」

「はい」

「少し時間がかかるができると思う、死ぬのは変わらないぞ?」

「訓練で死ぬ事もあるのは変わりませんので、大丈夫です」


 訓練は大事だけど、死んでほしくない。

 それなら、通常のダンジョンと違って、魔物をモンスターに変更して、難易度を調整できるようにすればいいのかも知れない。

 一撃死するような攻撃を抑止すれば死ぬ確率を減らす事ができるように思える。


「わかった。準備ができたら、ルートガーか元老院に連絡を入れる」

「かしこまりました」


 ヨーンが、テーブルの上に出ていた珈琲を一気に煽ってから、同じくテーブルの上にあった菓子をひとつかみして出ていった。


「ツクモ様。よろしいのですか?」

「うーん。死ぬのは困るけど、訓練をしたいというヨーンの気持ちも解る。それに、ヨーンの所が強くなってくれれば、それだけ街が・・・。大陸が安全になる」

「そうですが・・・」

「どうした?」

「いえ、こう言っては失礼なのはわかっているのですが、アトフィア教の事や、ゼーウ街との件や、他にもいろいろ有りまして、この大陸に手を出してきそうなのは居ないと思いますよ?」

「そうか?」

「はい」

「ルート。考えてみろよ。でも、新種の驚異が去ったわけじゃないし、もしかしたら、新種を操っている奴がいるかも知れない状況だぞ?」

「そうでしたね」

「それに、大陸はまだ他にも有るのだろう?チアル大陸一つで完結している状態だから俺たちは安全を確保できているのだからな」

「え?」

「例えばだけど、ゼーウ街を守ろうと思ったらどうする?」

「あっ・・・。そういう事ですか?」


 簡単な事だ。

 海が有るために兵力が分散されてしまう。チアル大陸は、他の大陸と違って海に出られる場所が限られている。

 限られているがために、攻められる場所が決まってしまうのだが、守ろうと思ったときには、その場所をしっかりと守ればよい。ルートガーが命令して、大陸の地図を作成しているのだが、海岸線を先にやってもらって、四箇所以外では海に出るためには、断崖絶壁をどうにかする必要がある。攻めてくる場合も同じだ。


 チアル大陸は、内部が統一されていればかなり守りやすい大陸なのだ。

 エルフ大陸やアトフィア教の大陸よりは守りやすいのは間違いない。だからといって、ヨーンたちの守備隊が弱兵では困ってしまう。

 最低限でいいので力をつけて欲しい。そのための武器も用意している。


 やっとクロスボウの大量生産ができるようになった。

 魔の森にクロスボウに適した木材が存在していた。乾かすのも数年が必要なのだが、ホームの権能を使って一気に乾かして加工に使える状態にした。


「ルートもやるか?」

「遠慮しておきます」

「遠慮しなくていいぞ?次にやったら、俺に勝てるかも知れないぞ?」

「それこそ、もうやりませんよ。ツクモ様1人にも勝てないのに、カイ様やウミ様がいらっしゃいますし、リーリア殿やオリヴィエ殿にも勝てそうに無いですからね。それに、刺し違えてもなんて事はもうやりません。守る者ができたのです!」


 ルートガーはもう過去を見る必要がなくなった。

 クリスと未来を語る事ができるようになったのだ。


「・・・」

「それで、どうされるのですか?」


 そうか、ルートガーにはシャイベとの話は聞こえなかったのだよな。

 念話だったから余計にわからなかったのだろう。


 ルートガーに、簡単にシャイベとの話を教える。


「そうですか・・・海中にダンジョンを作るのですか?」

「反対か?」

「いえ、賛成です。それに、移動は転移門を使うのですよね?」

「そのつもりだ。ヨーンたちには、訓練場が有る場所は教えない予定だ」

「それならよいと思います。それにしても、重要施設がロックハンドに集まっていますね」

「そうだな。イサークたちしか居ない事もだけど、今後も住民はそれほど増える予定がないからな丁度いいだろう?」

「そうですね。最低限の人しか住まないでしょう」

「だろう?だから、丁度いいと考えたのだけどな?」

「わかりました。おまかせします」


 ルートガーの許可も出たことだし、さっさと作ってしまう事にした。


 ダンジョンの基礎部分は、シャイベに頼む事にした。

 階層を、31階層と少し大きめにする。


 いろいろなフィールドを用意するためだ。


 森林フィールド/市街地フィールド/城内フィールド/草原フィールド/沼地フィールド

 5つのフィールドを用意する。

 そして、レベルを1~5で用意する。出現するモンスターのレベルは、ヨーンと調整する事にする。

 5つの階層では休憩所として、寝られる場所や風呂を用意した。モンスターは出現しない状態にして、食べられる低位の魔物が出現するようになっている他にも、果物なども用意したので、休憩場所として自由に使ってもらうことにした。そのうち要望が上がってきたが、執事エントメイドドリュアスたちに簡易宿泊所を運営してもらってもいいのかも知れない。


 移動に関しては、それほど考えなくても良さそうだ。

 訓練は基本的にはサイレントヒルで行われている。チアル街に訓練生はまとまっているので、ペネムダンジョンからの移動が可能なのだ。

 一つの転移門を作成して、ロックハンドに作成した新しいダンジョンにつなげてしまえばいい。訓練を受けている者は、ペネムダンジョンのどこかに移動したと考えるだろう。


 フィールドがなんとか形になった事を確認してから、各フィールドにモンスターを配置していこう。

 他と同じ様にして、モンスターがポップするようにしておけばいいだろう。希少種や変異種が産まれてしまう可能性を考慮して眷属に常駐してもらえばいいだろう。

 ヨーンには、眷属には攻撃を加えるなと厳命しておけばいいだろう。


 あと・・・。なにか忘れている者がないか確認して・・・。

 そうだ。コントローラーで全部の階層を見て回ればいいかな。俺が見て回ってもいいけど、面倒だからな。


 ホームに戻ったら、丁度いい人材が来ていた。


「フラビア。リカルダ。頼みたい事が有るけど大丈夫か?」


 問題は無いようなので、一通りの説明を行って、31階層を見て回ってもらう事にした。

 ティアとティタとレッシュとレッチェとエルマンとエステルを一緒に行かせた。

 眷属の中では弱い方だけど、この6体で対処できない様なモンスターが湧いていなければ第一段階は終了と考えて、ヨーンに引き渡しても大丈夫だろう。

 フラビアとリカルダがコントローラーを使って、31階層を見て回って、修正を行えばいいだろう。


「ツクモ様。この件は承諾いたしました。終わりました、ご相談・・・。いえ、お話がありますが、お時間をいただけますか?」

「大丈夫だ」

「ありがとうございます」

「頼み事なら、今言ってくれてもいいぞ?」

「いえ、仕事の報酬としていただきたい事もあります」

「わかった。ログハウスにはスーンたちがいるだろうから、連絡してくれ」

「かしこまりました」


 フラビアとリカルダが、シロとなにかを話してから、立ち去った。

 コントローラーと愛機を持っていくのは忘れなかったようだ。

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