第二百二十話


 フラビアとリカルダから、ダンジョンの改善依頼が大量に来た。全部対応する事もできたのだが、意味が不明な物があったので、モンスターの出現位置やマップ上に仕掛けていたトラップを外す事から行った。


 難易度がヌルい様にも感じるが、これで十分だと言われた。

 俺が想定していたレベルよりも、二段階くらい下げる事になっている。イージーモードで作ったのだが、フラビアとリカルダからは、訓練生が実際に戦うのにはハードモードだと言われてしまった。


 レベルを落とすのは難しくないので、ベリーイージーモードの更に下になるように作成した。

 想定していた物よりも2段階レベルを落とす事になってしまった。


 理由も説明された。

 通常の意識が無い魔物は、攻撃パターンが限られているが、ゲーム内のモンスターは、攻撃パターンが複雑になっている為に、意識が芽生えていない魔物と同列に扱う事ができないという事だ。

 そのために、ダンジョンに出てくるような魔物と比較してもモンスターたちは強く攻撃が厄介だという事だ。


 状況がわかったので、サクッと作業を行った。

 階層のレベルを徐々に下げておいた。フラビアとリカルダからは、モンスターの出現率を少し上げたほうが訓練生のためになると言われたので、出現ポイントを減らして出現頻度が上がるように設定を変更した。


 全部の設定を変更した所で、もう一度フラビアとリカルダが挑戦した。

 次の改善点は、フィールドが広すぎるという事だが、これは、フィールドに多数のセーフエリアと転移門を設置する事で対処する事にした。


 フラビアとリカルダの二人から及第点が出たので、ルートガーに連絡をして、ヨーンに精鋭を連れて来てもらう事にした。


 後日集まった精鋭たちは、初期メンバーで構成されているようで、俺も何度か話したことがある者がメンバーに多く加わっている。


「ツクモ様・・・。ここは?」


 ヨーンが不思議に思うのは当然だ。

 呼び出したのは、行政区の近くにある急遽建てた小屋の前だ。当初の予定では、ヨーンたちに使わせる転移門の設置場所は、ペネムダンジョン内に作るつもりだったのだが、フラビアとリカルダから反対意見があった。

 冒険者がいる場所で守備隊が訓練だからと言って武装して移動するのは避けたほうがいいだろうという話だ。

 俺も納得できる話だったので、場所を決めかねていた。普段の訓練は、竜族の発着場の近くで行っているという事だったので、訓練場も近い事もあり、この場所に小屋を用意した。


「訓練施設に繋がる転移門が設置できた場所だ」

「え?」

「転移門がなければ、あの場所に行けないだろう?」

「そうですが、転移門の設置は可能なのですか?」

「絶対ではないし条件もいろいろあるができない事ではない」

「そうなのですか?」

「そうだな。それよりも、どうする?行かないのか?」

「もちろん、行きます!」


 ヨーンと精鋭6名を連れて、モンスターがいるダンジョンに入った。


 最初の階層は、待機場所となっている。転移門から出た場所は、まだ草原の様になっている。


「ツクモ様」

「この階層は、魔物モンスターは出てこない。各階層に繋がる転移門があるだけだ」

「そうなのですか?」

「あぁここは自由に使ってくれ」

「よろしいのですか?」

「問題ない。だけど、農業には適さないと思うぞ?水が無いからな」

「え?そうなのですか?」

「多分な。探せばあるかも知れないけど、面倒だろう?休憩所を作るくらいにしておいたほうが無難だと思うぞ」

「わかりました。スキル道具の設置は問題ないですよね?」

「問題ない。この階層は、魔物モンスターは出てこないから、安全に休めるぞ」

「そうなのですね。ありがとうございます」


 1階層は取り立てて見るべき所はない。

 2階層からが本番なのだが、俺が案内するのは1階層までだ。それ以降は、ルートガーとフラビアとリカルダに反対意見を出された。


「フラビア。リカルダ。あとは頼めるか?」

「はい」「かしこまりました」


 二人に後は任せて、俺は迎賓館経由でホームに帰る事にした。

 チアルが消費したダンジョンコアを作りたいという事なので協力する事にしているのだ。


「ヨーン。後は、フラビアとリカルダに聞いてくれ」

「はい。かしこまりました」

「ここの責任者を誰にするのかを決めてルートガーに伝えておいてくれよ」

「はい。ルートガー殿にお願いする事にしてよろしいですか?」

「俺は、それでいいとは思うが、ルートガーが納得したらだからな」

「はい。わかりました」


 後で知った話だが、ヨーンは物理的な話し合いでルートガーに訓練施設の総管理者の名誉を受け渡したという事だ。


 ヨーンたちがフラビアとリカルダに連れられて他の階層に移動し始めたのを確認して、俺も移動を開始した。


 ホームに戻ると、シロが出かけているとオリヴィエから報告された。

 どうやら、ギュアンとフリーゼの所に行っているようだ。なにか依頼でも有ったのだろうか?


「オリヴィエ。シロからなにか聞いていないのか?」

「はい。でも、エーファとレッチェとアズリが一緒なので問題はないと思います」

「護衛の問題はなさそうだけど、何も問題を起こさないという保証はないよな?」

「・・・。はい。難しいかと思います」

「だよな・・・」

「はい」

「しょうがないな。何事も無い事を祈ろう」


 それから、2時間くらいチアルと一緒にダンジョンコアの作成を行った。

 主に、チアルの作業だが俺が手伝ったほうが、効率がいいという事だ。使ったのは、4つだったのだが、なにか有った時の事を考えて、在庫に常に10個ほど確保できるようにする事にした。

 魔核をダンジョンコアにする方法のほうが作業の効率がいい事が解ってから、作成の時間短縮や作業コストがよくなった。

 ただし、この方法ではダンジョンコアとしての自我を持つのは絶望的だと考えられる。

 したがって、運用するにはシャイベに統合する形になる。RAD に組み込まれる形になるので総合的に管理が楽になる。


 RAD で他のダンジョンの状況確認を行っていると、シロが帰ってきた。

 慌てている様子もないので、対処が不可能な問題は発生しなかったようだ。


「カズトさん!」

「シロ。おかえり。ギュアンとフリーゼはなにか有ったのか?」

「あっ!問題が有ったわけではなくて、ロックハンドへの移住後に今住んでいる場所をどうしたらいいのかという相談を受けたので、ルートガー殿につなげてきました」

「そうか、忘れていた・・・。大丈夫だったのか?」

「はい。ルートガー殿が問題になりそうな設備を取り外して、次に住む者を探すと言っていました」

「ありがとう」

「いえ、これも・・・」

「ん?」

「これも、妻の役目です!」


 そんなに耳まで赤くするのなら言わなければいいのにと思うけど、可愛いので抱きしめて、頭を撫でる事にした。


「ありがとう。シロ」

「そうだ。カズトさん。ローレンツ殿がお話したい事があると言っていましたが、お聞きになりましたか?」

「いや。何も聞いていない」

「そうですか・・・。僕としては、アトフィア教はもう過去の事ですが・・・。それでも頼りにしていたり、心の拠り所にしている人も居ます。何かできるのならしてあげたいのですが・・・。ダメですか?」

「いいよ。俺も、宗教を否定する気持ちは無い。神の名前を利用する奴らが嫌いなだけだからな」

「あ・・・。ありがとうございます」

「いいよ。それで、ローレンツはどうする?俺が行こうか?」

「いえ、伝令を出します。ログハウスでお会いしていただきたいのですが、よろしいですか?」

「問題ない。手配を任せていいか?」

「はい。お任せください」


 シロがローレンツを呼びに行かせてから、4日が経過した。

 その間にも、フラビアとリカルダから、ヨーンたちへの説明に合計7日ほど必要と連絡が入った。


「カズトさん。フラビアとリカルダは?」

「ヨーンたちを連れて、修練場を回っている。あと、3日ほどで帰ってくると思うぞ?なにか用事でもあるのか?」

「いえ、僕ではなくて、ローレンツ殿の話を、フラビアとリカルダにも聞いていて欲しいと思ったのです」

「そうだな。ローレンツはいつくらいになりそうだ?」

「明日には到着されると思います」

「わかった。ティリノ!」


 惰眠を貪るだけになっているダンジョンコアを働かせる事にした。


「なぁに?」

「シャイベと一緒にフラビアとリカルダを迎えに行ってくれ」

「えぇ・・・わかりました!」


 刀を取り出したら素直になってくれた。

 最初から素直に従ってくれれば、面倒な事をしなくてもいいのだが、様式美と言うべきなのか必ず一度は不満を口にする。

 不満を言いたい気持ちも解る。ホームの中が快適なのだろう。眷属達も、モンスターを狩って遊んだりしている。訓練にもなるので丁度いいのだろうけど、コントローラーを使わないで生身で戦うのなら、しっかりと対策を建ててからやってほしい。


「さてと・・・。シロ。ログハウスに移動するか?」

「え?」

「面会は、ログハウスなのだろう?」

「はい。でも、明日の到着ですが?」

「解っているけど、今日はログハウスに泊まろうと思うけど、どうする?」

「もちろん、ご一緒します」


 ダンジョンコア・クローンとアズリとクローエ以外を連れて、ログハウスに移動する事になった。


 ログハウスでは、スーンが待っていた。


「旦那様。準備ができています。お食事を先にされますか?」


 なんの準備だ?と思わないわけではないが、食事や風呂の準備ができているという事なのだろう。


「そうだな。食事をしてから、風呂に入る」

「かしこまりました」


 そのまま食堂に移動して、眷属たちと一緒に食事をした。


「旦那様。フラビア殿とリカルダ殿が来られています」

「詳しい話は、明日にして、今日はゆっくり休んでもらってくれ」

「かしこまりました。客室にお通しします」

「任せる」


 フラビアとリカルダの事を、スーンたちに任せて、俺はシロと一緒に寝室に移動した。

 風呂の準備もできているという事なので、一緒に風呂に入ってから寝る事にした。


 毎回思うのだが、シロ・・・。なんで、全裸で俺の腕につかまる?

 誘っているのは解るが、結婚するまではダメだと言っただろう。それでも大分慣れてしまった。

 シロも最初の事はモジモジとしたり、落ち着かない様子だったが、最近ではしっかりと寝られるようになっている。

 朝起きたら自分で触っていたりするのだが、それでも最初の頃よりは良くなってきている。


「おはよう」

「おはようございます」


 メイドドリュアスが部屋に入ってきて、全裸のシロを連れて行く。

 そのまま風呂場に連れて行って湯浴みをさせるようだ。いたしていないから大丈夫だと思うが気分の問題なのだろう。その後、俺もお湯で汗を流してから服を着る。


「旦那様。フラビア様とリカルダ様がお待ちです」

「ありがとう。食堂?」

「はい」


 シロと二人で食堂に入ると、フラビアとリカルダが待っていた。


「ツクモ様」


 フラビアが立ち上がって挨拶をしてくれる。リカルダもそれに続いてくれた。

 座るように言ってから、メイドドリュアスに食事の用意を頼んだ。軽めの食事を済ませてから、今回の趣旨を説明した。


「趣旨は理解しました。ローレンツ殿との会談に私たちも出席していいのですか?」

「シロもその方がいいと言っているからな」

「わかりました。それで、ヨーン殿たちの件に関する報酬ですが、ローレンツ殿との面談が終わった後でよろしいですか?」

「あぁなにか頼み事があるとか言っていたな。それでいいのなら構わないぞ」

「ありがとうございます」


 フラビアが意味ありげにシロを見ている。

 なにか欲しい物でもあるのか?それとも、どこかに移住したいという事か?


「できる事とできない事があるけど、フラビアとリカルダなら大丈夫だろう」

「はい。大丈夫です。ご安心ください」

「わかった」


 訓練の様子を聞きながら、ローレンツが来るのを待つ事にした。


 昼少し前に、ローレンツがログハウスの下に到着したと連絡が入った。


「ツクモ様。本日は」「いいよ。それで?」


 本題に入ってもらう。

 ローレンツもだけど、俺の事を神かなにかと思っているようで、機嫌を探るように話し始めるために前口上が長くなっている。

 別にそんな事を言わなくても大丈夫なのに・・・。


「はい。実は、アトフィア教の本山から連絡が有りまして・・・」

「良くない知らせか?」

「・・・。わかりませんが、いい知らせでは無いのは間違いありません」

「そうか、話せ」


 ローレンツは、俺の横に座るシロと後ろに控えているフラビアとリカルダを見てため息をつく。

 秘密にしたかったのだろう。


「わかりました。未確認な情報も多いので、それはご承知おきください」


 そう前置きしてローレンツが話出した内容は、驚きはなかったが、いろいろ考えてしまうような内容だった。


「それでは、首謀者はわからないのですか?」


 フラビアが、ローレンツを強い口調で問い詰める。


「フラビア!」

「はっ申し訳ありません。しかし・・・」

「解っている。ローレンツ。それで、首謀者は解ったのか?それと、盗まれたスキル道具は解っているのか?」


 ローレンツが持ってきた爆弾は、アトフィア教の一部が、宝玉と何点かのスキル道具を盗み出して、中央大陸に逃亡したという事だ。

 アトフィア教の教皇派は当初この情報を教会内部にも隠した。

 自分たちだけで解決するつもりだったのだ。生き残っていた強行派の司祭と粛清された元教皇派の人間が手を組んだ事まで解っている。しかし、全容がわからない。ローレンツの説明では、多くても20名程度で少ないと5名だと言っている。


 スキル道具の詳細は教皇派が握っていてわからないと言っている。


「ローレンツ。もしかして、スキル道具の中に、スキル操作が入っていなかったか?」

「わかりません。スキル道具に関しては、教皇派が握っていて情報が無いのです」

「そうか・・・」


「それでですね」

「なんだよ。まだあるのか?」

「はい。これは、本当の未確認情報なのですが・・・」

「あぁ」


「その、強行派の者とコルッカ教の者が一緒に居たという情報があります」

「はぁ?それは欺瞞作戦とかではなくてか?」

「欺瞞作戦が何を言うのかわかりませんが、モデスト殿にも調査を依頼して、同じような結果になっています。ただ、コルッカ教の一部というのが未確認なのです。アトフィア教以外の人間が手助けしたのは間違いないようなのです。服装から、コルッカ教と判断されただけで、実際には解っていません」


 コルッカ教とアトフィア教では水と油の様に思われているけど、確かに共通している部分がある。


「わかった。コルッカ教の事はひとまず棚上げして、チアル大陸にその強行派閥の人間が来ていない至急調べてくれ。それから、盗まれたスキル道具がどういった物か探りを入れてくれ」

「かしこまりました」


 強行派閥の残党がスキル道具を盗み出して、力を得たつもりになっているのかも知れない。


 それなら、食料は?

 拠点は?


 まだわからない事が多いが、ぼんやりとだが、見えてきた気がする。

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