第百九十八話


 ホームから抜けて洞窟に戻ると、オリヴィエが待機していた。


「オリヴィエ」

「マスター。もうよろしいのですか?」


 オリヴィエがいつから用意していたのかわからないが、温かいコーヒーを差し出してくる。

 受け取って、喉を潤す。


「意識はこれからだけど、まずは使えることがわかったからな」

「これからどうされますか?」

「迎賓館の近くに、ブルーフォレスト・ダンジョン・コアで、ダンジョンを作ってみる。迎賓館の辺りなら、なにか問題が有った場合に一番対処が簡単だからな」

「かしこまりました」


 チアルもペネムもティリノも、クローン・クローエを操作してついてくる。呼称も、クローン・チアルとクローン・ペネムとクローン・ティリノと呼ぶようにしたら、クローンに種族名がついた。クローン・ダンジョン・コアが、新しい種族名のようだ。そして、クローン・クローエが持っていたスキルを引き継いだようだ。


 ホームへの移動がクローンたちでもできる。


「どの辺りがいいかな?」

「マイロード」

「あのさ・・・俺の呼び名に関しては、今まで突っ込んでこなかったけど統一してくれると嬉しいな。少なくても、シロ以外では2-3種類にしてほしいのだけどダメかな?」


 俺の独り言にシロ以外が激しく反応した。

 今まで許していたのだが、そろそろ面倒に感じてきた。


 何やら大げさに相談し始めた。

 カイとウミとライは、シロと同じで別枠となる事が決まったようだ。


 でも、カイは”ご主人様”で、ウミは”カズ兄”で、ライは”あるじ”だろう?

 それは慣れた。


 それから、眷属以外では基本が”ツクモ様”になっている。これも問題ない。


 スーン達は、”旦那様”に変わった。これも問題ない。


 リーリアは、”ご主人様”でカイと同じだから問題ない。

 オリヴィエは、”マスター”で変えるつもりは無いようだ。


 ステファナとレイニーとエーファは、”旦那様”だ。これは、自分達の主人は”シロ”だという事に依存している。なので、スーンたちと同じで問題ない。


 エリンの”パパ”も変える事ができそうにない。

 アズリは、調子に乗って”パパ”と呼びたいと言ってきたが却下した。旦那様と呼ばせる事になった。


 チアルとペネムとティリノとクローエは、”マスター”呼びがしっくり来るという事なので、マスター呼びに統一する事に決まったようだ。これから、意識が芽生えるダンジョンコアたちも、”マスター”呼びにする事が決定した。


 変な事で時間を使ってしまったが、俺の気持ちの問題なので、これはこれで良かったのかもしれない。


「マスター!」


 クローン・チアルが、1ヶ所を指さしている。


「そこが良さそうなのか?」


 変哲もない場所だが、なにかあるのだろうか?


「いえ、マスターがここに立ってから、ダンジョンを作ってみてください。どうなるのか観察してみたいと思います」

「わかった。やってみよう」


 ブルーフォレスト・ダンジョン・コアを触りながら起動する。

 前回起動した時に、複数のダンジョンコアに触れてしまうという失態を行ってしまった。

 指輪ではなく、3の腕輪に作り直している。


 シャイベは、イヤーカフスにつけている。意識が芽生えれば、自分で形を変えられる様になるだろうというのがチアルの予想なので、それまでのつなぎと考えている。


 ブルーフォレスト・ダンジョン・コアも、RADが起動するタイプのようだ。

 地表には展開できない旨が書かれている。


 うーん。

 入り口を作って、そこからダンジョンを作っていく感じになるようだ。


 ホームとはかなり違うな。

 RADも微妙に違っている。シャイベが特別だったのか、それともホームをダンジョンにしようとしたからなのかわからないけど、考えても仕方がない。こういう物だと思って、RADの使い方をマスターするしかないだろう。

 基本は同じだけど、レイヤーで管理を行うようだ。


 地表部分には、スキル地図と連動できますとは書かれている。

 モノは試しだ。


「オリヴィエ。レベル7地図は何枚有る?」

「少々お待ちください」


 2-3分念話で誰かと話していたオリヴィエが戻ってきた。


「マスター。レベル7地図は手元には3枚で、居住区の倉庫に1枚と、ログハウスの倉庫に27枚あります」

「え?そんなにあるの?一枚使っても問題ないさそうだな」

「はい」


 ライから、レベル7地図を受け取って、ブルーフォレスト・ダンジョン・コアに使った。

 スキルが吸い込まれた。スキルカードが消えた。ブルーフォレスト・ダンジョン・コアを鑑定しても、レベル7地図がスキルとしてついたわけではなさそうだ。


 もう一度RADを起動して確認した。


 地上部分に、今いる場所の地図が作られている状態になっている。

 一度スキルを使えば、RADが覚えてくれるようだ。これは便利だな?認識できる範囲は、魔力なのか、ダンジョンコアの能力なのか、原因はわからないが大凡半径50m程度の円状だけのようだ。


 いまは、RADにスキルを付与すると、新たな機能が使えるようになる事がわかっただけで十分だ。

 いろいろ実験してみたら面白いかもしれない。


「入り口を作る必要があるようだけど、ここに作っていいか?」


 クローン・チアルやクローン・ペネムやクローン・ティリノも興味津々のようだ。

 自分たちでもできるだろうと思ったのだが、どうやら俺の作り方は不思議なようで、見ていて楽しいのだと言っている。


 入り口を作った。

 RADの地上のレイヤーに追加できるのが、入り口だけだったので、入り口を作るしか無い。

 ぽかっと穴が空いて、洞窟が下に伸びている。RADを見ると、まっすぐ下に伸びているので、少し斜めにして、階段状の物を取り付ける。現実の方は変わっていない?


 Saveを実行しないと反映しないのね。なんとなく理不尽な感じはするが、そういう物だと想う事にしよう。

 斜めに通路を伸ばしていくけど、ある一定の深さからは下には行かなくなってしまう。


 エラーメッセージで『地下一階のレイヤーを追加してください』と出ている。


 レイヤーの追加をしないとダメだと書かれているが、その前に確認しておこう。


 通路の上から掘って行ったらどうなるのか?

 入り口から5mくらい離れた場所を地図で確認するとダンジョンの通路になっていることがわかる。ダンジョンの通路に向けて上から掘り進める。


 2m程度掘っても通路にはぶつからない。

 RADで見ると、通路の中に入っている事になっている。


 どうやら、チアルダンジョンやペネムダンジョンやティリノダンジョンの様に物理的な洞窟にはなっていないようだ。


 3つのダンジョンとも不思議空間である事は間違いなかったのだが、場所は物理的に必要になっているという事だ。ただ、下に移動したと思った場所が実は上だったり、別の場所になっていたり、複雑な作りになっているらしい。物理空間と言っても、実際には天井の高さ分の広さは必要なく、ダンジョンコアの力で、空間は捻じ曲げていたと自慢されてしまった。よくわからないのでスルーする事にした。


 新しいRADを操作して作るダンジョンは、入り口以外は次元が違うようだ、言うならばホームの中のような場所に作られているようだ。

 そう解釈しておけば問題ないだろう。


 レイヤーを追加して部屋を作る。

 最大の部屋を作ってみる。いろいろな形が作られるようだ。


 とりあえず。一部屋だけ作っておく。


 さて、入ろうとした所で問題が発生した。

 俺はすんなり入られた。シロとシロの眷属とステファナとレイニーが入られない。


 なにか透明な壁があるのだと話している。実際に、俺たちは洞窟を下る事ができるが、シロたちは穴の上に立っている状態だ。下から覗けてしまう・・・のは許してもらおう。


 RADを開くと、侵入者ありと警告が出ている。

 俺と直接つながりがある者は侵入者にならないが、それ以外は侵入者扱いになるのか?


「シロ。俺たちは見えるか?」

「カズトさんたちが入っていく所は見えていましたが、いまは見えません」

「ダンジョンの入り口はどうなっている?」

「消えました」


 ふむぅ・・・。俺から見るとシロが空中に浮いているように見えている。

 よかった。シロとステファナとレイニーとエーファがスカートを履いていない時で・・・。


 一旦戻ってから対策を考えよう。


 ダンジョンを出て、RADを見ていると、”パーミッション”と書かれた項目があった。

 現状は、”製作者ダンジョンマスターと眷属”となっている。”製作者ダンジョンマスターのみ”や”全員”とある。”認証者”という部分があるが、選択ができない状態になっている。何かスキルを付与して使えるようになるのか?


 レベル8記憶あたりが認証っぽいと思う。


 オリヴィエにレベル8記憶の枚数を確認したら、全部で17枚あるという事だ。

 手持ちの一枚を受け取って、ブルーフォレスト・ダンジョン・コアに付与した。


 成功?したのかな?

 パーミッションを確認すると、”認証者”が選択できるようになっている。


 選択したら、RADに認証のツールが表示された。

 登録用のアイテムも設置できるようだ。ふむ。設置しない場合には、ダンジョンコアに魔力を記憶させればいいのだな。


 なになに・・・はぁ?


「カズトさん。どうされましたか?」

「ダンジョンに入る為には、全員が入られるようにするか、製作者ダンジョンマスターのみか眷属を含めた者か、魔力を登録した者となっているのだけどな」

「はい?それなら、僕たちの魔力を登録すればいいのですよね?」

「そうだな。でも、その魔力の登録方法が・・・な」


 製作者ダンジョンマスターとの性器接触と書かれている。

 シロなら問題はない。問題はあるが、問題はない。ステファナやレイニーやエーファも大いなる問題があるがやってできない事はない。


 ふぅ・・・これ、認証者を増やすことをあまり考えていないな。


 登録用のアイテムを使うのが現実的なのだろう。

 というか、一択だな。


「え?カズトさん!」


 シロが覗き込んで確認してしまったようだ。


「シロ?」

「カズトさん。僕・・・。大丈夫です。お願いします」


 シロが可愛く耳まで赤くして、パンツを脱ごうとする。


「シロ。待て!」

「え?僕だって、ここじゃなくて、もっと違う所で・・・でも、やらないと・・・ダンジョンに入る事ができない・・・。必要な事ですよね。すぐに・・・。大丈夫です!」

「だから、待て、アイテムを使う方法もあるから、そっちでやる方法もあるから。大丈夫だ。大丈夫だからな」

「え?あっ・・・僕・・・」


 可愛く、体中を赤くしたシロを抱きしめる。

 頭をなでてあげると少し落ち着いたようだ。


「オリヴィエ」

「はい」

「スーンに連絡して、このダンジョンの入り口を覆うように建物を作らせてくれ」

「かしこまりました。誰か常駐させますか?」

「そうだな・・・。でも、ちょっと待て、登録用のアイテムがどの程度の大きさなのか見てからにしよう」

「はい」


 登録用のアイテムを選択した。

 大きさが選べるようだ。一番大きい物だと、畳4.5枚くらいだろうか?

 小さいものだとハンディタイプの・・・。ファミレスとかで、注文をとるために使っている物程度の大きさのようだ。


 機能の違いは、認証できる人数の違いのようだ。

 一番大きい物だと無制限となっている。誰でも使えるようにはしたくないな。


 まずは、ハンディタイプの物を出して、その後で大きい物を設置するか決めればいいかな。


 ハンディタイプの物を召喚した。


 本当にハンディタイプだ。登録は、50名となっている。


 登録方法は簡単だった。

 ハンディタイプを登録したい人が持って魔力を流すだけ。眷属は、登録する必要がない。


 シロとステファナとレイニーが登録した。


 これでダンジョンに入られるはずだが、その前にもうひとつ実験しておきたい事がある。

 登録者の情報表示と、登録アイテムを変えた時に認証がどうなるかだ。


 まずは、登録アイテムを切り替えてみたが、一度登録していれば問題なく情報が引き継がれる。

 多分、ダンジョンコアの方に記憶されているのだろう。


 新しく増えた情報として、登録者の情報表示がある。


 シロの情報を表示する。


// 名前:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュ

// 種族:ヒト族

// 性別:女

// 固有スキル:信仰

// 固有スキル:眷属化

// 体力:C

// 魔力:C+

// 登録ダンジョン

//   ブルーフォレスト・ダンジョン(0階層)


 よかった。偽装後の表示になるようだ。

 ダンジョンの踏破記憶もできるようだ。


 登録アイテムにも、使えない機能が存在している。

 情報書き出しとなっている機能だ。


 間違いなく、レベル7複製だろう。オリヴィエに聞いたら在庫はあるという。


 スキルカードのコレクターとしては、貴重な物を減らしたくないが、それ以上に使えそうな機能があるのに、使えない状態で放置することはできない。と、いう事で、レベル7複製をブルーフォレスト・ダンジョン・コアに使う。

 同じ様にスキルカードが消滅した。


 ハンディタイプの登録アイテムに、情報書き出しが表示されて使えるようになっている。


// 名前:シロ・ヴェネッサ・ヴェサージュ

// 種族:ヒト族

// 性別:女

// 称号:カズト・ツクモの伴侶

// 固有スキル:眷属化

// 体力:C

// 魔力:C+

// 登録ダンジョン

//   ブルーフォレスト・ダンジョン(0階層)


 シロの要望で、称号を偽装で追加してみた。

 問題なく追加した物が表示された。信仰を消しておきたいという事なので、隠した。


 情報を書き出す媒体は、なんでもいいようだが、金属の板がいいようだ。

 手元には残っていたミスリルがあったので、ミスリルを板状にした物をシロに渡して、メニューを選択した。


 ハンディタイプだと、実行は手動なようだが、設置型なら板を持った状態で装置に触れれば、書き換わりもできるようだ。


「チアルでも、ペネムでも、ティリノでもいいけど、この登録アイテムや認証機能をお前たちのダンジョンでも使えないか?」


 ダメなようだ。

 残念。かなり管理が楽になるのだけどな。


 RADに認証した人物が居ると表示する事ができる。

 そこから、情報を見て、認証を取り消す事などができるようだ。ユーザ管理ができるのだ。


 シロ達の登録も終わったので、ダンジョンの中に入る。

 酸素とかどうなっているのだろう?気にしたら負けなのだろうか?


 部屋にたどり着いた。

 最初部屋の認証を、俺だけが入られるように設定してみたら、本当に俺だけしか入られなかった。

 パーミッションには、”使う”と”見る”があったので、見えないが使うことができる状態にした扉を配置したら、見事に使えた。


 うーん。凶悪な罠とか配置できそうだな。

 パーミッションはかなり細かく設定できるようだ。チェックボックスになっているので、外せばいいようだし、かなり楽だ。


 シロたちには見えないが使う事ができる扉を設置した。


 これで、隠し通路の出来上がりだ。


 通路の先の部屋は広いだけの場所になっている。


「さて、ペネム。ここに転移門の設置は可能か?」

「出来るようです」


 RADのメニューには転移門は存在していない。

 どういうルールなのかわからないが、無いものはしょうがない。


 認証を破る方法があるかもしれないから過信は禁物だけど、俺たちにしか使えないようには出来るようだ。RADを操作して小部屋を作って、そこにペネムに転移門を作ってもらう。


 もう片方は、ホームの中だ。

 これで移動が楽になる!


 認証機能まであるのなら有効に使うことにしよう。

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