第百九十七話


「マスター」

「クローン・クローエ?」

「違うよ!マスター!可愛い私を間違えないでよ!」


 クローエか?


「クロ。それで、チアルからの伝言は?」

「ぶー。少しは、労って欲しいな!」

「わかった。わかった。それで?」


「労ってないし、乱暴!」

「クロ!5まで数えるからな。その間に言わなければ、もう二度とお前には、プリンはやらない!」

「5」

「そんな事言ってもだめ!」

「4」

「騙されない!」

「3」

「うぅぅぅプリン」

「2」

「マスター!!チアルが、コアできたって!」

「1。最初から、そう言えばいいのに、変に欲張ろうとするからだ」

「・・・。それで、マスター・・・。プリンは?」

「はぁ?作ってない。今度作ってやる」

「やったぁ!!!!」


 チョロピクシーの称号を上げたくなる。

 まぁシロも少しだけ期待した目をしていたから、プリンを後で作るか?中で作ってもいいだろう。


「シロは、行くだろう?」

「はい」


 時間の倍率を通常に戻して置く必要が有るだろうか?

 10倍だから、あとで必要になってから戻せばいいだろう。変更すると一日ロックされるから変更は慎重に行う必要がある。


 秘密の小部屋ディメンションホームと呼ぶよりも、短縮して”ホーム”と呼ぶのがいいかもしれないな。


「よし、秘密の小部屋ディメンションホームは、次から”ホーム”と呼ぼう」


 独り言だけど、恥ずかしい感じにならなかった。

 シロたちが頷いてくれたからだ。


 ホームを呼び出して、皆で中に入る。


『マスター。お待ちしておりました』

「チアル。できたのか?」

『はい。まだ、名前はつけておりません。マスターが付けてください』

「俺が?」

『はい。マスターの為に産み出したのです。よろしくお願いいたします』

「わかった」


 わかったと言ってみたが、10個の命名は面倒だな。

 それに作る場所や設定を間違えそうだ。


 ミュルダ/サラトガ/アンクラム/ユーバシャール/ロングケープ/パレスケープ/パレスキャッスル/ロックハンド/ブルーフォレストと名付けて、残った一つはホームの中を支配させる。シャイベと名付けた。


 間違えない名前にした。


 意識がないダンジョンコアが10個ある。

 大きさは、1カラットくらいだろうか?


「チアル。これは、俺が身につけていたほうがいいのか?」

『それがベストなのですが、数日マスターが身につけてから、150年ほど眠ってもらいましょう』

「わかった」


「オリヴィエ」

「はい」

「ルートガーに、全体会議の日程を聞いて来てくれ。もし、まだ決まっていないようなら、50日後に開催にしてくれるように頼んでくれ」

「かしこまりました」


 消していなかった扉から、オリヴィエが外にでて、ルートガーに開催日時の確認に出向いてくれた。


 さて、ダンジョンコアに名付けが終わった。


「ライ。銀かミスリルがまだ有ったよな?」

『うん。あるよ?どっち?』

「そうだな。ミスリルがあるようなら、ミスリルを”これ”くらいの塊で出してくれ」


 卓球の玉よりも少し小さめで要求する。

 ライがすぐにミスリルを取り出して渡してくる。


「シロ」

「はい?」

「本人に聞くのはどうかと思うけど・・・。指輪と腕輪では結婚の時に渡すのはどっちが正しい?」

「え?結婚の時?」

「あぁ結婚の証とかで、指輪とか腕輪とかを交換したりしないのか?」

「うん。僕は聞いた事がない。もしかしたら、フラビアやリカルダが知っているかもしれないけど・・・。アトフィア教では、婚姻は司祭が神に報告して終わりです」

「そうか?ステファナとレイニーは聞いた事はあるか?」


 2人とも首を横にふる。


 指輪や腕輪の交換が無いのなら、良かった。


「シロ。指輪は、剣を振る時に邪魔だよな?」

「はい。でも、僕は片手剣だから、利き腕じゃなければそれほど邪魔にはならないです」


 そうだよな。

 それに、ミスリルだからな。形が崩れる事も無いだろう。


「わかった。ライ。同じサイズで鉄をいくつか出してくれ」

『わかった!』


 適当に作ってサイズを調整してもいいけど・・・。

 多分、シロの指輪を見れば、クリス辺りが欲しがるだろうし、ナーシャも欲しがるだろう。

 都度サイズを測るのは面倒だかし基準は有ったほうがいいだろう。基準となるリングゲージを作っておこう。1号直径13.0mm28号直径22.0mmまで作ればいいだろう。


「シロ。このリングゲージで指のサイズを測るぞ。丁度いいのを教えろよ。左手の薬指と人差し指の二本のサイズを教えてくれ」

「はい?どの指ですか?」


 薬指とか人差し指とは言わないようだ。

 指を触って教えておく。ついでに呼び方も教えておく。


 俺も、左手の薬指と人差し指の二本を作る事にする。

 人差し指の指輪に、ダンジョンコアを埋め込んでおく。薬指は、デザインもシロとおそろいにする。

 金も使って、螺旋状にしたデザインにした。


「ダンジョンコアは、これでいいのか?」

『はい。問題ありません。名付けもできていますので、あとは、ダンジョンコアの成長次第です』

「わかった。それじゃ40日ほどこの中に居てもらうか」

『1440倍ですか?』

「そうなる」

『その前に、マスターが数日間保持してください』

「そのつもりだ。10日も持っていれば大丈夫だろう?」

『十分です。多分2-3日で反応が帰ってくるようになると思います』

「反応?」

『はい。ダンジョンコアがダンジョンを作れる状態になるのがそのくらいです。マスターの認識がどの様な感じになるのかわかりませんが、何らかの反応が出てくるはずです』

「そうか、チアルが、ペネムやティリノを作った時はどんな感じだった?」

『あの子たちは、点滅しただけです』

「そうか、それじゃ点滅の可能性も考慮しておけばいいな」

『はい』


 指輪を作って、お互いの指にはめる。

 人差し指にはめる物は、シロの指輪には同じサイズに加工した魔核を組み込んでおく。


 薬指にはめた指輪は、デザインを対称にした。魔核を組み込む事も考えたのだがなんとなく無粋な気がしたので辞めておいた。シロが指にはめられた指輪を見ながらニンマリしているので、これはこれで良かったと思う事にしておこう。


 うーん。

 どうしようか悩む所だな。


 100倍くらいにして、中に一日居れば、少なくてもホームの中を整えるくらいはできると思うのだよな。


「シロ。レイニー。少し相談だが・・・」


 ふたりとも、俺の好きにして良いという事だ。

 よしやってしまおう。


「クロ!」

「なぁに?」

「クローン・クローエに外に居てもらって、連絡係になって欲しいのだけどできるか?」

「もちろん!」

「よし、それじゃクローン・クローエに外での連絡係を命じる。クロへの報酬はプリンでいいのか?」

「うん!」


 安いなぁと思いながらもクローエがプリンで釣れた事を嬉しく思っている。


 さて、100倍になったからといって、中に居るのに時間の感覚が早まるわけではない。

 それに今の状況ではできる事も少ない。


「ステファナとレイニーはどうする?」

「ご一緒させてください」「旦那様と奥様の側がいいです」


 2人ともこのまま中に居るようだ。

 眷属たちも同じで、全員中で過ごすようだ。


 シャイベで、ホームをダンジョンにできれば、いろいろできる事が増えるのだけどな。


「シロ。模擬戦でもやるか?」

「え?よろしいのですか?」

「あぁシャイベが使えるようになるまで暇だしな」

「喜んでお相手いたします!」


 ダンジョンの中に居たときのように、ライにトイレと浴場とテントを出してもらって、皆で組み立てた。


 それから、いろいろな組み合わせで、模擬戦を行う事になった。

 1対1だったり、1対多だったり、スキルは使わないで、武器と体術だけの戦いにした。それなら、眷属たちの方が有利だが、対魔物の訓練になって丁度いい。


 チアルとペネムとティリノが、クローン・クローエを操作する事ができる事がわかった。

 そのために、クローエに3体のアンデットピクシーを産み出してもらって、それぞれが憑依?する事になった。


 通常1日程度でクローンは消えてしまうのだが、憑依したアンデットピクシーは消える事がない。

 そして、しゃべる事ができる。食べたり、飲んだりもできるようだ。


 本体は、俺とシロのイヤーカフになっているのだが、憑依した方で活動する事に決めたようだ。


 中で、3日程度経過してから、外に出ていたクローン・クローエが戻ってきて、オリヴィエが帰ってきたそうだが、このまま外で待機する事にしたようだ。


 寝る前に、シャイベたちに命令を出しているがまだ反応が帰ってこない。


「カズトさん」

「まだのようだな」

「そうですね。今日は?」

「疲れたから寝るか?」

「はい!」


 なぜ着ていた物を脱ぐのかわからないが、全裸になってベッドに入り込んでくる。

 毎日繰り返されると、それが当たり前に思えてくるから不思議だ。


 チアルたちは眷属たちと一緒に寝るようだ。

 カイとウミのモフモフが気に入っている。


 明日は、チアルが予想していた10日目だ。

 意識が芽生えるのは、100年以上必要だという事だけど、使えるようになってくれれば、ホームの調整ができるから嬉しいのだけどな。どんな事ができるのかを調べながらになるから、もしかしたら、時間がかかるかもしれない。


 11日目になっても、ダンジョンコアには変化がなかった。

 食料も大量に持ち込んでいるから大丈夫だけど、そろそろ違った風景にしたいと思えてくる。


 12日目も変化がない。

 チアルに聞いても、わからないという事だ。


 13日目になっても変化がない。

 表面に出ているダンジョンコアに触れてみる。


”ブォーン”と、いう音と一緒に、生前?に見たことがある窓が表示される。

 そうか、俺の知識をベースにするとか言っていたな。


 もしかしたら、もっと前から使えるようになっていたのではないのか?

 よく使っていたRAD開発ツールだ。


 どうやら、パーツとして物を置いていけばいいようだ。

 これなら簡単にできそうだ。


 10個のダンジョンコア。全部が同じようになっている。

 シャイベを触って、RADを起動する。


 いくつかの選択肢が出てくるが、ホームを選択する。


 RADの中に、枠が作られた。

 どうやら、その中がホーム全体だと思っていいようだ。


 すごく楽しくなってきた。

 まずはRAD上に表示されている物を選択して動かしてみる。


 おぉぉぉぉぉ動いた。

 これは便利だ。シロたちも興味津々で俺の手元を見ている。シロは俺の背中にくっついて慎ましやかな胸を押し付けている。背中にシロを感じながら操作を続行する。エリンとアズリは俺の膝の上に座るような格好で見ている。どうやら、エリンやアズリだけでなくシロも触れる事ができない。見ることはできるけど、さわれないと言っている。何らかの権限が必要なのかもしれないけど、後回しだな。


 まずは、草原を作ろう。

 RADでツールボックス?にある草原をホームに適用すればいいだけのようだ。

 立体的にはできないのか?後回しで調べればいいよな。


 全体を草原にしてから、今度は、森や湖を置いていく、シロやエリンやアズリだけではなく、ステファナやレイニーやリーリアやエーファやクローエにもいろいろ聞いて作っていく。


 エルマンとエステルは、森が気に入っていた。

 ティアとティタは、草原を走り回っている。

 レッチェとレッシュは、切り立った山肌が気に入ったようだ。


 魔物が湧き出すポイントの指定ができるようだ。湧き出す魔物も選択できるようだ。

 突っ込みたくなる内容だ。確かに、俺の知識だろう。ゲームの中でよく見る魔物だけじゃなくて、動物と同じ名前も存在している。魔物ではなく動物になっていると、攻撃されなければ、攻撃しないとか書かれている。また、魔力への適正がないために、凶暴化しないと書かれていて、人に懐くとまで説明されている。繁殖も可能で、2世代目からはダンジョンの外で生活できると書かれている。

 ペットにすることも可能となっている。食べ物は、必要になるようだし、弱肉強食は同じなのだろう。大型の動物なら、ゴブリンやコボルトくらいなら勝てるだろう。


 シロたちに、魔物と動物のどっちを配置するのかを聞いた所、魔物は餌として必要になるだろうから、ワーラットやワーラビットやボア系の魔物をそれぞれ配置した。湖には、魚を配置した。水棲の魔物は居なかったので、普通に魚が産まれるようにした。淡水と海水はそれほど気にする必要がなかった。海水魚でも、湖に適応するようだ。さすがに、深海魚を配置しようとしたら、水深が足りませんと出て配置出来なかった。


 家も作る事ができた。

 スキル道具で実現している物はそのまま配置する事ができた。調べてみても、スキルが組み込まれているわけではない。家電のように使う事ができる。ただし、RADで出した物は、ホーム以外に持ち出す事ができない。クローン・クローエに持ち出しの実験をしてもらったが失敗した。

 家電になってしまったスキル道具は持ち出す事はできないが、ホームの中では使う事ができた。


 他のダンジョンコアを起動したら、エラー表示がでた。

 他の支配領域での発動はできないようだ。


 そして、注意書きが表示された。

 『ダンジョンコアは、地中かそれに類する空間でしか使えない』という事らしい。


 迎賓館の近くで、ブルーフォレスト・ダンジョン・コアを起動すれば解る事だな。


 まだ80日ほど時間があるから、ゆっくり中で休んでから、ブルーフォレスト・ダンジョン・コアの実験を行おう。


 完全なプライベートルームができたな。

 入り口を消しておけば、安全も確保される。


「そうだ、ペネム!」

「マイロード。何か、御用ですか?」

「ホームの中に、転移門を作る事はできそうか?」

「・・・。できそうです」

「その転移門を、迎賓館の近くに作るブルーフォレスト・ダンジョンの中に出口を作る事は可能か?」

「やってみないとわかりません」

「そりゃぁそうだよな」

「はい。もうしわけありません」

「作ってから実験すればいい。最悪は、洞窟に出口を作って、洞窟を経由して各地を結んでもいいのだからな」

「はい。それなら可能だと思います」


 各地に配置するダンジョンコアは俺の手元にあるし、意識が芽生えてからにはなるが、侵入検知を行って、転移門が有る場所に人が着たら、ダンジョンを閉じちゃえば安全性も確保できるだろうからな。


 眷属たちが、早速産まれた魔物を狩っている。

 動物はあとで考えるとして・・・ん?牛やニワトリを配置してもいいのだな?


 植物も、俺の知識にある物なら・・・!!!!

 自重なんかしていられないな。ルートガーに相談して、各地で特産物となる植物と動物を作らせるようにしよう。

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