第百七十六話


 80階層の階層主の顔を拝みに行きますか!


「ステファナ。レイニー。扉を開けてくれ!」

「はい!」「はい!」


 2人が扉に手をかける。

 困った事に、このダンジョン。内開きの時と外開きの時がある。どちらかに統一して欲しいと思う。


 今回は、内開きのようだ。

 6名が入った所で、階層主の部屋を結界が覆う。


 どうやら、6名で戦えということのようだ。


 中央に魔法陣ができて、光が集る。大型の魔物のようだ。


「シロ!」

「はい。僕は、中盤で抑えます」

「オリヴィエ。俺とアズリの背中を任せる。アズリ。前に出るぞ!」

「はい!」「うん♪」


「エリン。シロを頼む」

「わかった」

「リーリア。スキルで補助を!」

「はい!」


 皆に最終確認を行う


「行くぞ!」

「「「「「はい(うん)!」」」」」


 魔法陣が消えた。

 現れたのは、ベヒモス?カバと牛を足して1.5で割ったような姿形をしている。姿はどうでも良くて、大きさが今まで対峙してきた魔物と違いすぎる。10m近い体躯をしている。


 それがかなりの速度で突っ込んでくる。


 壁に激突するが、壁にもベヒモスにもダメージは無いようだ。

 エリンがまだ人形で戦っている事や、アズリもリッチの姿に戻らない事から、それほど脅威に感じていないのだろう。


 エリンが渡している剣で左足に斬りつける。流石にダメージは通るが致命傷には程遠い状況だ。


「エリンが付けた傷を集中攻撃!シロとリーリアは遠距離からスキル攻撃」

「はい」「はい!」


 エリンが、シロとリーリアの前に出て、ヘイトを稼ぐ。アズリが、投石でベヒモスの片目右目を潰す。


「アズリ。オリヴィエ。右目側から攻撃。俺は、左目側でヘイトを稼ぐ」

「わかった」「はい。お気をつけて!」


 右側に回って、エリンが付けた傷を狙って刀を振るう。

 解っているのか、咆哮で俺を牽制する。


 スキルも使ってくるようだ。

 石礫が飛んでくる事から、スキル岩か岩弾辺りを持っているのだろう。


 近づいて、スキルの強奪を実行する。

 上手く行けば奪えるはずだ!


 奪えた!


 レベル7岩弾


 いらねぇ・・・。

 でも、これでやっかいな岩がなくなった。

 咆哮は種族スキルなのだろう奪えそうにない。


 リーリアがオリヴィエとアズリに強化系のスキルを連続でかけている。


 強化された2人が、巨体のベヒモスに肉薄する。

 シロが練り上げたスキルを放つ。教えていた、指向性をもたせた閃光だ。残った左目を狙った。下方から上に向けての閃光をもろに目に受けて、しばらくは左目も使い物にならないだろう。


「突進と咆哮に注意しろ。足をあげたら、退避だ!」


 攻撃パターンはそれほど多くない。

 体躯を使った攻撃なので、足の動きだけを見ていれば回避もできる。


 咆哮も溜めがあるから対処がしやすい。首を振り回して左右に咆哮を振りまくようなこともない。


「マスター。咆哮を結界で受けたいのですが許可いただけますか?」

「ダメだ」

「マスター!」

「結界と障壁で受けろ、どうやら何かが含まれている」

「はい!」

「いいか、少しでも傷ついてみろ、一日中、アプルの皮むきをやらせるからな!」

「かしこまりました!」


 オリヴィエの提案は、咆哮を受けている最中に一斉攻撃を行うという事だ。


「リーリア。オリヴィエのバックアップ。シロ!エリン!アズリ!突撃の準備。次の咆哮に足を一本取るぞ!」


 数回の突進の後でチャンスが来た。

 咆哮の溜め動作に入った。


「行くぞ!オリヴィエ!リリーア!」


 咆哮が轟く

 オリヴィエとリーリアが交互に結界と障壁を発動していく、結界が破られる音が響くがすぐに次の結界が発動する。


 結界の連続発動!


 シロの剣がベヒモスの足にヒットする。

 致命傷には届かないが確かなダメージを与える。俺とエリンとアズリも続く。


 シロは炎を纏った剣を、俺は氷の刀を、エリンとアズリは雷を纏った剣で足を切り刻む。


 咆哮が終わりそうになった時に、ベヒモスの身体がずれた。


 一番近いのは・・・

「シロ!」

「はい!」


 しっかり観察していたようだ。

 的確な位置に、剣を刺した。ベヒモスから咆哮ではなく絶叫が漏れる。


「アズリ!」

「心得た!」


 シロが刺した剣にスキル雷を放つ。


「エリン!」

「パパ!」


 エリンが同じ場所にスキル雷を連続で行使する。


 ベヒモスは絶叫を上げる事無く、こと切れた。

 体重を支えられなくなった足が折れ、ゆっくりと倒れる。


 ズシン。身体で振動を感じた。


 ふぅ・・・。勝てたな。


 ベヒモスが沈んだ。

 80階層から入ってきた扉が開いた。


 81階層に向ける階段に続くであろう扉も開かれた。


 80階層の空けた扉から、ステファナとレイニーが駆け込んできた。

 エーファとレッチェもシロに駆け寄る。


 カイとウミとライは、心配なんてしていない雰囲気を出している。

 ティアとティタは、戦えなかったのが少し残念な様子だ。レッシュとエルマンとエステルは、俺の所ではなくエリンの所に言っている。


 なにか、話を聞くためなのだろう。


「カズトさん」

「シロ。お疲れ様」

「いえ」

「どうした?」

「僕。いえ、僕たちが倒したのですよね?」

「あぁそうだな」


 眼の前に、10m越えの巨体が転がっている。

 食用になるかわからないが、確保しておく。食用にできれば、かなりの量の肉が取れるし、素材もいろいろ使えそうだ。


『ライ。ベヒモスを持っていけるか?』

『うん。できるよ!』


 次元収納は優秀だな。

 俺も欲しい。


 俺もだが無傷ではない。

 防具が壊れているような事はないが、結界を破られるとは思っていなかった。


 80階層に戻っても良かったが、皆の意見で81階層に降りる事にした。

 この時点で間違っているとは思わなかった。思わなかったが、間違っていた。


 まだ、石壁と迷路のダンジョンだよ。

 それも通路が70階層と比べても広めになっている。


 面倒な匂いがするな。

『ペネム。ティリノ。支配領域を作られるか?』

『できます』『可能です』

『頼む、6時間程度でいい』

『はい』『わかりました』


 2人?から了承の声が帰ってきた。


「支配領域を展開した。武器防具の修繕をする。オリヴィエ、風呂とトイレだけ頼む」

「かしこまりました。マスター。テントはよろしいですか?」

「シロ。どうする?」

「僕、お風呂だけで大丈夫。あとは、カズトさんを手伝う」


 武器と防具の修繕ができるのは俺だけだ。

 皆の武器と防具を集めてもらって修繕していく。素材は、今までの倒した魔物の素材や採取した物がある。


 シロとリーリアとエーファが、武器と防具を拭いている。

 正確には、スキル清掃をかけている。その上で、問題がありそうなところを指摘してくれる。全体のバランスを見ながら修繕していく、もちろん修繕するだけでは面白くは無いので、強化できそうな所は強化しておく。


 今回戦っていない者も武器に関してはかなり傷んでいた。

 各人には、これからは遠慮しないで野営時に言ってくるようにお願いする。”壊れました”では困ってしまうし、命に関わる。そして、一人が倒れる事は戦線が崩れる事にも繋がる。そのための労力ならいくらでも払う。


 結構な時間が経過してしまったようだ。

 武器や防具にもスキルが付与できる。スキルの調整をしていたためだ。


 そして・・・

「マスター。今日は、ここで野営をしましょう」

「え?なんで?」


「マスター。今、5時間が経過しています。今から出ても、踏破は難しいでしょう。それに、マスターがお休みになっていません」


 そうか、寝ないで、休まないで、武器や防具の修繕と調整をしていた。


「そうだな。わかった、今日はここで野営しよう。テントの設営を頼む。ステファナとレイニーに食事をお願いしてくれ」

「食事はできております。ただ・・・」

「どうした?」

「・・・」


 目線を動かすと、ウミとエリンとアズリとレッチェとレッシュとティアとティタとエルマンとエステルが寝ている。

 カイは、通路の先を見ている。ライもそれに付き合っているようだ。

 リーリアは、シロを手伝っているのだが、肝心のシロが船を漕いでいる。エーファは、そんなシロを支えている。


 うん。

 しっかり休もう。


 起きている者だけで食事をとるのも悪いので、寝ている者を起こして、順番に風呂に入ってくるように命令する。

 今日は、俺とシロが一番最後にしている。恐縮していたが、これも命令した。


「シロ。悪いな。一番最後になってしまって」

「僕?気にしません。僕は、カズトさんと入られれば・・・」


 顔を真っ赤にしてうつむかなければ満点をあげたのだけどな。


 最後にしたのには理由がある。

 風呂にも新たなスキル道具を取り付けたのだ。それの実験である。ダンジョンに潜ってから、かなりのスキルカードを得ているので、遊びのスキル道具を作る事ができた。

 収納と清掃と治療のスキルを付与した。


 スキル収納でお湯を収納できないか試した。

 問題なくできた。多少量が減ったりしたが、それは継ぎ足せばいい。そうしたら、次に欲しいのはお湯を綺麗にする方法だ。浄化槽を作ってみた。それだけではなんとなく汚れている感じがしたので、浄化槽の最後にスキル清掃を付与した管を取り付けた。お湯を流す時に、管のスキルを発動する事で、お湯が綺麗になる仕組みだ。そして、最後はその管にもうひとつスキルが付与できたので、治療を付与してみた。

 効能付きのお湯に変質した。

 切り傷なんかの治療が行えるお湯になった。ポーションが産まれた瞬間だ。今までいろんな実験をしていたのだが、もっとも簡単な方法だったようだ。これから、このポーションの効能を強める方法を考える必要が有るのだろう。


 俺が最後に入るのは、スキル道具がしっかり機能しているのかを確認するため。だから、シロには先に入れと言ったのだが、俺と一緒に入ると聞かなかった。


「ふぅ・・・」


 気持ちがいい。

 やっぱり風呂は最高だな。今日は、わざと身体を洗わないで入ってみた。シロは嫌がったが命令した。


 後でスキル道具の確認をするためだ。

 眷属やステファナやレイニーたちが入った後のお湯でも綺麗な事は確認できている。でも、彼女たちがお湯を入れ直した可能性を考慮して、最後に自分で確認する事にしたのだ。


 さすがに、汗もだが切り傷から出た血やベヒモスの返り血や肉片なんかで汚れている。


 まずは、普段なら絶対にやらないのだが、浴槽でお互いの身体を洗う。

 やはりかなり汚れていたようだ。その後で、汚れたお湯を収納のスキル道具に収納する。全部綺麗に入ったことを確認する。

 気分的な問題として、浴槽にスキル清掃を行使する。


 お湯を収納したスキル道具を浄化槽の上にセットして収納からお湯を取り出す。

 処理が追いつく流量を維持すのが少しむずかしい。これは後日に調整だな。


 シロに協力してもらった。シロには、管のスキル道具の発動を頼んだ。全部のお湯が処理できれば、問題は無いだろう。


 そして、綺麗なお湯が浴槽に満たされた。

 問題は、収納から出す時の流量と、管のスキル道具の発動方法と、浄化槽に溜まった汚れの処理だな。


「さて、シロ」

「はい?」

「もう一度風呂に入るけど。どうする?」

「え?」

「少し身体も冷えたしな。温まってから出たほうがいいだろう?」

「はい」


 もう一度、浴槽に身体を預けてから、風呂を出た。

 お湯は、収納しておけば温度の低下が殆ど無い。


 風呂から出ると、食事の準備が終わっている。

 皆が待っているのが解る。


 俺とシロもテーブルに付いて食事を始める。

 メニューは基本は同じ物だが、食べられない物がある場合もあるので、調整はおこなっている。


 俺とシロには今日は、簡単に食べられるものが用意されていた。蕎麦だ!そして、最近よく出てくるようになった、ヨーグルト+はちみつ+フルーツだ。これは、シロがものすごく喰い付いた。

 デザート代わりにもなるし、腸内環境を整えるのにも丁度いいのだろう。

 ヨーグルトを出すようになってから、シロが確実にトイレに行く回数が増えている。体調管理を辞めた事も影響しているだろう。


 テントの中に入って、シロと一緒に寝る。今日はなし。疲れているという事もあるが、シロが体調管理を辞めた事にも影響している。


---

 朝起きて、シロを見るといつもの状態だ。

 そんなに苦手なら着なければいいのに、温泉浴衣を好んでいる。今日も、いつものように、帯だけ残して裸だ。流石に、下着は付けている状態なのだが、いつもより若干おっぱいが張っているように見える。


 シロを起こして着替えをさせる。

 ステファナを呼んで新しい下着を出してもらっている。


 皆揃って朝食をとる。

 少しだけ休憩してから、81階層の攻略に取り掛かる。


 通路が広くなっている事もあって、魔物の数が増える事が予測される。

 トラップに注意しながら進む。81階層は、思った以上には広くないようだ。広くは無いが、どこかのダンジョンを思い出させるように、連続して魔物が襲ってくる。それこそ、いろんな魔物だ。

 通路がそれほど高くない事から、巨人種や大型の魔物は襲ってこないが、オーガの進化体が6体ほど襲ってきたときには、少しびっくりした。今後も同じような事があると思って対処する必要がありそうだ。


 パーティーでの対処に戻して、順番に襲ってくる魔物に対処する事にした。

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